はじめに
米国市場でAmazonやShopifyを通じて商品を販売する際、避けて通れないのがSales Tax(売上税)の適切な管理です。2018年の連邦最高裁判決以降、オンライン販売事業者に対する課税制度が大きく変化し、日本を含む海外事業者であっても一定の条件下でSales Tax徴収義務が発生するようになりました。
本記事では、米国におけるSales Taxの基本的な仕組みから、AmazonとShopifyという2大プラットフォームでの具体的な徴収・管理方法、そして実務上のコンプライアンス対応まで、越境EC事業者が知っておくべき情報を包括的に解説します。
米国Sales Tax制度の基本理解
州ごとに異なる課税制度
米国のSales Taxは連邦税ではなく、州および地方自治体レベルで課される税金です。そのため、統一的な税率や制度は存在せず、各州が独自の税率、課税対象商品、免税品目などを定めています。
現在、デラウェア、モンタナ、ニューハンプシャー、オレゴンの4州を除く45州とワシントンD.C.がSales Taxを課しています。税率は州によって異なるだけでなく、同じ州内でも郡や市によって地方税が上乗せされるため、購入者の配送先住所によって適用税率が細かく変動します。
ネクサス(課税関係)の重要性
Sales Tax徴収義務が発生する条件として、事業者と州との間に「ネクサス」と呼ばれる一定の関係性が必要です。ネクサスには主に2種類があります。
物理的ネクサスは、州内にオフィス、店舗、倉庫、従業員などの物理的拠点を持つ場合に発生します。例えば、Amazon FBAを利用してカリフォルニア州の倉庫に在庫を保管している場合、その州で物理的ネクサスが認められます。
経済的ネクサスは、2018年の「South Dakota vs. Wayfair」判決により各州で導入が進んだ概念で、州内での売上高や取引件数が一定の閾値を超えた場合に発生します。典型的な基準は年間売上高10万ドル超または200件以上の取引ですが、州によって異なります。カリフォルニア州は50万ドル、フロリダ州は10万ドルといった具合です。
2025年現在、Sales Taxを課す全ての州が経済的ネクサス制度を導入しており、海外からの通販事業者であっても一定規模以上の販売を行えば、その州での税務登録とSales Tax徴収が求められます。
商品カテゴリによる課税の違い
すべての商品が一律に課税されるわけではありません。食料品や衣料品などの生活必需品については、州によって非課税または軽減税率が適用されるケースがあります。また、事業者への転売目的の取引では課税されないなど、免税取引のパターンも存在します。
このような複雑な制度のため、販売者は自社の販売活動によってどの州で課税義務が発生するかを常に把握し、各州の登録や徴税ルールに従う必要があります。
AmazonにおけるSales Tax徴収の仕組み
Marketplace Facilitator法による自動徴収
2018年のWayfair裁定後、各州は「Marketplace Facilitator法」を制定し、Amazonのようなマーケットプレイス運営事業者に対し、第三者セラーに代わってSales Taxを徴収・納付する義務を課すようになりました。
2025年時点では、Sales Taxを課すすべての州でMarketplace Facilitator法が施行されており、Amazonはほぼ全米の州でセラーの商品販売に伴うSales Taxを自動計算・徴収・州政府への納付まで代行しています。これにより、基本的にセラーはAmazon上の取引について個別にSales Taxを徴収する必要がありません。
具体的な徴収プロセス
購入者がAmazonで商品を注文する際、Amazonのシステムが購入者の配送先住所に基づき適切な州税・地方税率を自動計算し、注文時に税額を徴収します。徴収された税金はAmazonが各州へ代理納税(remit)するため、セラー自身がその取引について州に納税する手間は原則発生しません。
Amazonでは税金計算サービス料として取引額の2.9%を課しており、これはAmazonが税金計算・代行納付するためのコストとしてセラーに請求されます。
セラー側の設定と責任
Amazon任せにしてよいとはいえ、セラー側にも一定の設定・確認事項があります。
商品の税区分設定は特に重要です。食料品や衣類など州によって非課税または軽減税率となるカテゴリの商品を扱う場合、セラーが商品ごとに適切な税コード(Product Tax Code)を設定する必要があります。設定を誤ると、本来非課税の州で税金を請求してしまう等の不具合が起こり得ます。
また、州によってはAmazon経由の売上であってもセラーの事業として売上申告を求める場合があります。例えばミズーリ州やネブラスカ州では、マーケットプレイスが税を代行納付していてもセラーは州に事業者登録を行い、州内売上を申告する義務があります。
ShopifyにおけるSales Tax管理
セラー自身が責任を持つ税務管理
Shopifyは自社オンラインストアを構築できるECプラットフォームであり、法律上「Marketplace Facilitator(販売仲介事業者)」に該当しません。そのため、Shopify上のストアで発生する販売については、各ショップの事業者自身がSales Taxの徴収・納税義務を負います。
Shopifyは税計算やレポート作成などの支援ツールは提供しますが、代行して税金を納めてはくれません。したがって、Shopifyで米国向け販売を行う場合、セラー自身がどの州にネクサスを有し、どの州で税を徴収すべきかを判断して設定する必要があります。
充実した税設定機能
Shopifyは管理画面の「設定 > 税金と税込み価格」から各国・地域の税設定を行うことができます。徴収が必要な州を選択して税計算を有効化すると、購入者の住所に基づき州・地方税を自動計算してチェックアウト時に課税額を加算してくれます。
州を追加する際には、その州のSales Tax営業許可証番号(税務登録ID)を入力できます。一度設定を有効にすれば、個別注文の税額計算を手作業で行う必要はありません。
Shopify Taxの機能強化
2022~2023年頃から「Shopify Tax」と呼ばれる新しい税計算エンジンが導入されました。各顧客の配送先住所や購入商品に基づき、最新かつ詳細な税率を自動適用し、適用税率の精度が向上しています。
また「Liability Insights」機能により、各州での売上額を集計し、経済的ネクサスの閾値に近づいた際に警告してくれるため、セラーがどの州で新たに徴収義務が生じそうか把握しやすくなっています。
Shopify Tax機能は年間米国売上10万ドルまで無料で、それを超えると超過分に対して0.35%の課金が発生します。ただし、これはあくまで「計算サービス料」であり、納税代行までは含まれない点に留意が必要です。
例外:Shopアプリ経由の注文
2025年1月以降、Shopifyが提供する消費者向けショッピングアプリ「Shop」経由の注文に関しては、ShopifyがマーケットプレイスファシリテーターとしてSales Taxの自動徴収・納付を行う措置が開始されました。ただし、この仕組みはShopアプリ内で完結する注文に限られ、通常のShopifyストアのチェックアウトでは適用されません。
プラットフォーム別の違いと選択のポイント
徴収の自動化レベル
AmazonではMarketplace Facilitator法により税金の計算・徴収・納付が自動化されており、セラーは自ら税額を追加請求したり顧客から回収したりする必要がありません。一方、Shopifyではセラー自身が能動的に設定を行って初めて税金が徴収されます。設定を怠れば税抜価格のまま販売が行われ、後からセラーが自腹で税相当額を納める潜在的リスクが生じます。
法的納税義務者の違い
Amazon上の販売ではAmazonが法的な納税義務者となり、Shopifyではセラー自身が売上発生主体かつ納税義務者となります。この違いは、税務監査が行われた場合の対応にも影響します。Shopify販売分については州税務当局はセラー自身に登録情報や申告内容の確認を求め、不備があれば直接セラーに追徴や罰則を科します。
費用負担の比較
Amazonの場合、税計算・徴収サービス料として取引額の約2.9%が課されます。Shopifyでは年間10万ドル超の売上に対して0.35%の計算サービス料が発生します。料金水準としてはShopifyの方が低いですが、Amazonはその対価として納税まで代行している点が大きく、Shopifyでは計算のみ提供で納税作業は自前という差があります。
複数州対応の負担
事業規模が拡大し複数の州でネクサスが発生した場合、Amazonでは自動的に全対象州の税をAmazonが処理します。しかしShopifyではセラーが自分で各州の登録・設定を行わなければならず、売上が閾値を超えたのに州の税設定を有効化し忘れていた場合、その州へのSales Tax徴収漏れが発生し得ます。
実務的な設定手順
Amazon Seller Centralでの設定
- ネクサス州の確認と税務登録:まず自社がどの州にネクサスを持つかを特定し、必要な州ではSales Tax許可証を取得します。
- Tax設定画面へアクセス:Seller Centralの「Settings > Tax Settings」を選択します。
- 商品税コードの設定:非課税品目や軽減税率品目を扱う場合、商品ごとに適切な税コードを選択します。
- ネクサス州の追加:Sales Taxを収集する州を追加し、各州のSales Tax ID(許可証番号)を入力します。
- 動作確認:設定後、該当州宛の注文で正しく税が課されているか、税務レポートから確認します。
Shopify管理画面での設定
- ネクサス州の確認と許可証取得:物理的・経済的ネクサス州を確認し、該当する州でSales Tax Permitを取得します。
- 税設定画面へアクセス:Shopify管理画面の「設定 > Taxes and Duties」を開きます。
- 州の追加と登録番号入力:「Collect sales tax」から徴収したい州を追加し、保有しているSales Tax許可証の登録番号を入力します。
- 商品カテゴリ設定:特定州で非課税扱いとなる商品については、適切な製品カテゴリを設定します。
- 徴収額の確認:「アナリティクス > レポート > 税金」から州ごとの徴収額レポートを確認します。
コンプライアンス対応のポイント
税務登録の重要性
各州でSales Taxを徴収・納税するには、事前にその州の税務当局に事業者登録し許可証を取得することが法的に必要です。経済的ネクサス閾値を超過した場合や物理的プレゼンスが発生した場合、速やかに各州へ登録申請を行いましょう。
州によってはオンライン登録に手数料が必要で、コネチカット州は100ドル、アリゾナ州は12ドル、ハワイ州は20ドルといった費用が発生します。無登録のまま税を徴収・納付することは法律違反となります。
定期的な申告と納付
登録を行うと、各州税務当局から申告・納付の頻度(毎月・四半期・年次など)が指定されます。指定されたスケジュールに従い、申告期限までにSales Tax Return(売上税申告書)を提出し、徴収済み税額を納付します。
期日までに申告・納税を怠ると延滞金や罰則が科されるため、州ごとの締日・支払方法を把握し、確実に履行してください。
税務管理ツールの活用
米国の州別Sales Tax管理は煩雑なため、専用のSales Tax管理ツールの活用が有用です。代表的なものにAvalaraやTaxJar、TaxCloudがあります。
これらのツールは各販売チャネルと連携して取引データを収集し、州ごとの税計算・申告書作成を自動化できます。経済ネクサス判定アラートや各州の電子申告機能を提供しており、大規模セラーの多くが利用しています。
また、24州が加盟するStreamlined Sales Tax (SST) プログラムでは、認定サービスプロバイダ経由の税務処理費用を州が負担してくれる制度もあります。越境セラーで米国内拠点を持たない場合、SSTを活用してコストを抑えつつコンプライアンス体制を整えることも可能です。
最新情報の継続的なキャッチアップ
米国のSales Tax法規制は各州で毎年のように改正・調整が行われます。取引件数による閾値の撤廃や新たな免税措置の導入など変化があるため、各州税務局の公式サイトや信頼できる税務ブログを定期的にチェックし、最新情報を収集することが重要です。
必要に応じて税理士や米国Sales Tax専門のコンサルタントに相談し、コンプライアンス態勢をアップデートしていきましょう。
まとめ
米国市場でAmazonやShopifyを通じて販売を行う際、Sales Tax対応は避けて通れない重要課題です。両プラットフォームでは徴収・管理の仕組みが大きく異なります。
Amazonではマーケットプレイスによる自動徴収によりセラーの負担は軽減されますが、完全に「丸投げ」で済むわけではなく、商品税コードの設定や州によっては売上申告など、対応すべき事項があります。
一方Shopifyではセラー自身が能動的に税務対応を担う必要があり、成長に伴い管理すべき範囲も広がります。ただし、税計算機能の充実やサービス料の低さなど、適切に管理すればメリットも大きいプラットフォームです。
両プラットフォームの違いを正しく理解し、適切な設定とコンプライアンス対応を行うことで、米国各州でのSales Taxを確実に履行し、ビジネスの安定した拡大を実現できます。各種公式リソースや専門ツールをうまく活用し、最新の制度変更にも対応できる体制づくりを心がけてください。
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