はじめに
米国市場への輸出を行う日本企業にとって、FDA(米国食品医薬品局)への施設登録は避けて通れない重要な手続きです。しかし、初回登録を完了しただけで安心してしまい、定期的な更新を失念してしまうケースが後を絶ちません。
登録の更新を怠ると、製品が米国税関で差し止められ、最悪の場合は廃棄処分となる可能性があります。本記事では、FDA施設登録の更新スケジュール、具体的な手続き、更新漏れによるリスク、そして確実に更新を行うためのベストプラクティスについて詳しく解説します。
FDA施設登録とは?対象となる製品カテゴリー
登録が義務付けられている製品
FDA施設登録とは、米国で市販・流通される製品を製造・加工・保管する施設をFDAのデータベースに登録する制度です。対象となる主な製品カテゴリーは以下の通りです。
食品関連製品 人や動物が米国で消費する食品、飲料、栄養補助食品(サプリメント)、動物用飼料などを製造、加工、包装、または保管する国内外すべての施設が登録対象となります。この制度は2002年の「バイオテロ対策法」で導入され、2011年の「食品安全強化法(FSMA)」により2年ごとの登録更新が義務化されました。
医薬品 米国内で市販される医薬品を製造・調製・包装・表示する国内外の全ての事業所は、FDAへの登録が法律で義務付けられています。製造所はFDAに施設情報を登録するとともに、市場に流通させる医薬品リストの提出も求められます。
化粧品 2022年「化粧品規制近代化法(MoCRA)」の成立により、化粧品製造施設の登録が法的に義務化されました。米国内に流通する化粧品を製造または加工する施設は、一定規模以下の小規模事業者を除き、FDAに登録しなければなりません。
医療機器 米国で使用される医療機器を製造、組立、滅菌、包装する全ての事業所は、FDAへの施設登録が義務付けられています。医療機器の場合、登録時に年間登録手数料の支払いも必要です。
登録の法的根拠と重要性
FDA施設登録は単なる届出ではなく、米国連邦法で義務付けられた法的要件です。未登録のまま製品を輸出した場合、その製品は不良品または不当表示品と見なされ、輸入が拒否される可能性があります。
日本企業が米国向けに輸出する際の登録手順
必要な準備情報
FDA施設登録を行う前に、以下の情報を英語で準備する必要があります。
- 施設名:法人名・工場名(正式英文名称)
- 施設所在地:英文住所(番地、都市名、都道府県、郵便番号等)
- 担当者情報:施設管理者など責任者の氏名・役職・連絡先(電話番号・メールアドレス)
- 製品カテゴリ:当該施設で扱う製品の種類
- 米国代理人(U.S. Agent)情報:米国在住の代理人となる個人または法人の名前・連絡先
特に食品施設の場合は、固有施設識別子(UFI)として**ダンズ番号(DUNS Number)**の提供が2020年以降義務付けられています。ダンズ番号は東京商工リサーチ等を通じて取得可能です。
登録プロセスの具体的手順
1. FURLSへのアクセス FDAの業界向けオンラインシステム「FURLS(FDA Unified Registration and Listing System)」にアクセスし、アカウントを作成します。
2. 情報入力 準備した施設情報を登録フォームに沿って入力します。医療機器施設の場合、この段階で登録料の支払い(クレジットカード等によるオンライン決済)が必要です。
3. 米国代理人の指名 外国施設が登録する際には、米国在住の代理人の指名が必須です。米国代理人はFDAからの緊急連絡の受け取りや、現地での査察連絡、輸入時の問い合わせ対応などを担います。
4. 登録完了と登録番号の取得 登録が受理されると、FDAから施設登録番号(Facility Registration Number)が発行されます。この番号は通関時や取引先への証明提示に必要となるため、大切に保管してください。
米国代理人の役割と選定方法
米国代理人は単なる形式的な存在ではありません。FDAとの重要な連絡窓口として機能し、代理人が承諾しない場合は登録が完了しないため、信頼できる相手を選ぶことが重要です。
日本企業は現地輸入業者や流通パートナーを代理人に指名することもできますし、専門の代行業者に有償で依頼することも可能です。
登録の更新スケジュールと具体的なプロセス
食品関連施設の更新(2年ごと)
食品やサプリメントを扱う施設は、偶数年の10月1日から12月31日までの間に登録情報を更新することが法律で定められています。
例えば2024年中に初回登録した場合、次回更新期限は2026年10~12月となります。更新期間が近づくとFDAから通知メールが送られる場合がありますが、届かないケースもあるため、自社で期限を管理することが重要です。
前回登録以降に変更がない場合でも、必ず更新手続きを行い、「変更なし(No Change)」であることを申告する必要があります。
医薬品製造施設の更新(毎年)
医薬品製造施設は毎年10月1日から12月31日までの間に登録内容をレビューし更新することが求められています。
前年から変更がない場合でも、「変更なし」であることを年内に届出する義務があります。加えて、更新時には当該施設が製造する全ての市販医薬品リストを提出・更新する必要があります。
化粧品製造施設の更新(2年ごと)
化粧品施設は2年ごとの更新が義務付けられています。MoCRAのもと、既存の事業者は2023年末までに初回登録を行い(実質的な期限は2024年6月末まで延長)、その後は2年ごとに登録情報を更新するスケジュールとなりました。
加えて、製品リストについては少なくとも年1回の更新(新製品の追加や成分変更時)が必要です。
医療機器製造施設の更新(毎年)
医療機器施設は毎年更新が必要です。米国の会計年度に合わせて、通常は10月1日~12月31日の間に翌年度分の登録更新手続きを完了します。
医療機器の場合、更新時に年間登録料の支払いも求められ、期限内に支払いがないと登録は無効扱いとなります。年次更新料は毎年金額が改定されるため、FDAの案内に従いオンラインで納付します。
更新手続きの共通プロセス
各カテゴリーとも、更新手続き自体はオンライン上で比較的短時間で完了できます。初回と同じFURLSシステムにログインし、「Renewal」または「Update Facility」メニューから手続きを開始します。
登録情報を確認し、必要に応じて修正を加え、更新を完了させます。変更が全く無い場合でも、画面上で「No Changes」を選択して提出する必要があります。
登録更新の漏れ・登録情報の不備によるリスク
輸入差し止めと製品廃棄のリスク
登録すべき施設が未登録だったり、登録が失効している状態で日本から米国に商品を輸出すると、その商品は米国税関(CBP)で**輸入保留(Detention)**となります。
FDAは未登録施設で製造された食品等の輸入を法律上拒否できるため、貨物は通関できず倉庫で留め置かれます。是正措置(緊急登録や更新)が速やかに行われない場合、最悪その製品は廃棄処分となる可能性があります。
「施設登録を失念したため商品が港で差し戻され、ビジネス機会を逃す」という事例も実際に報告されています。
法的制裁と罰則
FDAへの登録義務を怠ることは、米国連邦食品医薬品化粧品法(FD&C Act)上の**違法行為(Prohibited Act)**に該当します。
悪質な場合、FDAから警告書(Warning Letter)を受領したり、民事罰(金銭的ペナルティ)が科される可能性があります。特に繰り返し違反や虚偽の登録情報提出は重い罰則の対象となり得ます。
業務停止と販売禁止
製品カテゴリーによっては、未登録施設で作られた製品は不良品または不当表示品と見なされ、米国内での販売・流通が法律上禁止されます。
化粧品の場合はMoCRAに基づき、登録の一時停止やそれに伴う製品販売禁止措置も可能です。問題が解決し適切な登録が行われるまで、当該施設からの一切の輸出が停止されることになります。
ビジネス上の信用喪失
登録違反によるトラブルは、輸入業者や取引先からの信用失墜にも直結します。輸入者はFDAに商品情報を事前通知する際に施設登録番号等を提出しますが、その番号が無効だと取引先にも迷惑をかけることになります。
結果として、受注キャンセルや将来的な商談機会の喪失といったビジネス上の損害も発生する可能性があります。特に米国では法令遵守(コンプライアンス)が重視されるため、「FDA登録を怠る企業」とみなされること自体が市場での評価を下げるリスクとなります。
更新漏れを防ぐためのベストプラクティス
社内での期限管理体制の構築
登録更新の期限を把握し、社内カレンダーやリマインダーに登録して早めに通知されるようにします。食品施設の偶数年更新や医薬品・医療機器の年次更新などスケジュールを一覧化し、担当者全員で共有することが重要です。
期限の数か月前から準備を開始し、余裕を持って更新手続きを完了させることをお勧めします。
登録情報の適時更新
登録内容(施設名や住所、担当者、製造品目など)に変更が生じた場合は、定期更新時を待たず速やかにFDAに更新登録を行います。
FDAの施設登録システムは、定められた更新期間以外でも情報更新が可能です。例えば工場の移転や社名変更があった場合、古い情報のままだと緊急連絡や査察通知が届かない恐れがあります。
米国代理人との連携強化
指名したU.S. Agentとは常に緊密に連絡を取り、FDAからの通知が確実に伝達される体制を整えます。代理人には事前に役割と責任を説明し、FDAからの確認メールに速やかに対応してもらうよう依頼します。
また代理人を変更する場合は、新旧双方でFDA登録情報の更新・承認手続きを確実に行いましょう。代理人が登録承認を拒否・放置すると登録が無効化されてしまいます。
登録状況の定期的な確認
自社の施設登録状況を定期的に確認する習慣をつけます。FDAの公開データベースや第三者の登録確認サービスを利用すれば、現在登録が有効か、更新漏れで無効になっていないかを調べることができます。
万一登録番号が無効になっていた場合でも、早期に発見すれば更新手続きや再登録によって輸出停止や罰金を回避できる可能性があります。
文書管理と証明書の準備
FDAから発行される正式な登録証はありませんが、登録完了時の確認メールや登録番号通知は大切に保管します。
輸入通関時には登録番号の提示が必要になるほか、取引先によっては登録証明書の提出を求める場合もあります。信頼できる代行業者から第三者発行の登録証明書を取得しておくと、ビジネス上の信頼性向上にも役立ちます。
専門家の活用
FDA登録手続きや更新作業に不安がある場合、経験豊富なコンサルタントや代行業者を活用するのも効果的な方法です。
英語での入力やFDA分類の選択に不慣れな担当者でも、代行サービスを利用すれば米国代理人の手配やトラブル対応のアドバイスが得られます。ただし、高額な費用を請求する悪質業者も存在するため、実績と料金を見極めて選定してください。
まとめ:FDA施設登録は米国輸出の生命線
FDA施設登録の更新は、一度行えば終わりというものではありません。食品・化粧品は2年ごと、医薬品・医療機器は毎年と、定期的な更新が法律で義務付けられています。
更新を怠ると、製品の輸入差し止め、罰則、業務停止といった重大なリスクに直面する可能性があります。これらのリスクは単に法的・経済的な損失にとどまらず、取引先との信頼関係やビジネス機会にも深刻な影響を及ぼします。
適切な期限管理、情報の適時更新、米国代理人との連携、定期的な登録状況の確認といったベストプラクティスを実践することで、これらのリスクを回避することができます。「登録は輸出の通行証」であるとの意識を社内で共有し、コンプライアンス遵守を徹底することが、安定した米国向け輸出ビジネスの基盤となるでしょう。
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