はじめに
アメリカ市場へサプリメントを輸出・販売する際、多くの事業者が最初に直面するのがFDA(米国食品医薬品局)への施設登録です。この登録は単なる届出ではなく、米国で消費される食品・サプリメントを扱うすべての施設に義務付けられた法的要件です。
登録を怠ると米国への輸出が実質的に不可能になるだけでなく、登録情報の誤りや更新漏れによって事業が停止するリスクもあります。本記事では、FDA食品施設登録(FURLS: Food Facility Registration and Listing System)の全体像から具体的な手続き、海外事業者特有の要件、さらには実務でよく発生する失敗例まで、サプリメント事業者が押さえるべきポイントを包括的に解説します。
FDA食品施設登録(FURLS)とは
登録制度の目的と法的根拠
FDA食品施設登録は、米国バイオテロ法およびFSMA(食品安全強化法)に基づく制度で、米国内で消費される食品の製造・加工・包装・保管に関わるすべての施設を把握することを目的としています。この登録により、FDAは食品の安全性に問題が生じた際に迅速な追跡と対応が可能になります。
サプリメントは米国法において「食品」に分類されるため、サプリメント製造施設や原料供給業者も食品施設登録の対象です。ビタミンやプロテイン原料を製造する施設も、米国向けサプリメント成分を扱う場合は登録が必要となります。
登録完了で得られるもの
登録手続きを完了すると、施設に固有の登録番号(Registration Number)が発行されます。この番号は施設が存続し登録が有効な限り変更されず、米国への食品輸出時に必要となるPrior Notice(事前通知)などの各種手続きで使用されます。ただし、登録はあくまで施設情報の届出であり、FDAによる承認や品質保証を意味するものではない点に注意が必要です。
FDA食品施設登録の手続きステップ
ステップ1:FDAアカウントの作成
最初に、FDA Industry Systems(FIS)のアカウントを作成します。FDAの公式サイトから「Create New Account」を選択し、氏名・連絡先などの基本情報を入力します。システム選択画面では必ず「Food Facility Registration Module」を選択してください。
アカウント作成後に表示されるアカウントIDを必ず控え、メールで受信した確認リンクからログインします。このアカウントは今後の登録管理に継続的に使用されます。
ステップ2:FURLS(食品施設登録モジュール)へのログイン
アカウント管理画面から「FURLS Food Facility Registration Module (FFRM)」を選択します。初めて登録する場合は「New Registration」を選び、施設情報の入力画面へ進みます。
ステップ3:施設情報の入力
登録フォームでは以下の情報を英語(ローマ字)で入力します。
基本情報
- 施設の所在地(国・州・市区町村・郵便番号)
- 施設名(法人名)
- 施設種別(自施設/子会社など)
- 電話番号・メールアドレス
住所や名称は最新の公式表記を使用し、綴り間違いや省略に注意してください。
登録種別 施設が米国内にある場合は「Domestic(国内)」、海外の場合は「Foreign(外国)」を選択します。新規登録か更新登録かも指定します。
Unique Facility Identifier (UFI) すべての施設登録でUFIの入力が必須です。FDAはDUNS番号(Data Universal Numbering System)を公式に認めており、事前にDUNS番号を取得してUFIとして登録します。DUNS番号により、FDAが施設の正式住所と照合を行います。
取扱製品情報 施設で製造・加工・包装・保管する食品カテゴリをチェックします。サプリメントを扱う場合は「Dietary Supplements(栄養補助食品)」カテゴリを必ず含めてください。
所有者・責任者情報 施設の所有者または責任者の氏名、役職、連絡先を入力し、提出者が施設の代表者であることを宣誓します。
ステップ4:提出と登録番号の取得
入力内容を確認の上、オンラインで提出します。FDAは提出後にUFIと住所の整合性を確認し、問題がなければ登録番号を発行します。登録完了後、メールまたは郵送で登録確認書と登録番号が通知されます。
また、各登録には「PIN(Personal Identification Number)」が発行され、今後の修正・更新時に必要になるため大切に保管してください。
海外施設の特有要件:米国代理人の指定
米国代理人とは
海外に所在する施設は、登録に際して米国代理人(U.S. Agent)を必ず指定しなければなりません。米国代理人は米国に居住・事業所を持つ個人や法人で、FDAとの連絡窓口として機能します。
通常、現地輸入業者やディストリビューターが代理人を務める例が多く、FDAからの緊急連絡や通知は代理人宛に行われます。代理人は万が一の危機管理時にも迅速に連絡を取れる体制が求められるため、常に連絡可能な人物・組織を選定することが重要です。
代理人情報の登録要件
登録時には以下の情報を正確に登録する必要があります:
- 代理人の氏名(個人または法人名)
- 米国内の住所
- 米国の電話番号
- メールアドレス
複数の代理人を登録する必要はなく、1名(または1社)の情報のみを登録します。代理人の変更はいつでも可能ですが、変更した場合は速やかに登録情報を更新してください。
登録・更新の時期と有効期間
初回登録のタイミング
新たに操業を開始する施設は、操業開始前に登録を完了する必要があります。既に操業中の施設であっても、米国市場への輸出を開始する前に必ず登録を済ませてください。
2年ごとの更新義務
FSMAの改正により、登録は2年ごとの更新が義務付けられています。具体的には、偶数年(2024年、2026年など)の10月1日から12月31日までの間に、その2年分の登録を一括更新します。
更新時には新しい登録番号は発行されず、同一の登録番号が引き継がれます。変更がある項目(住所・代理人・製品カテゴリなど)のみ入力し直し、他はそのまま提出できます。
更新失効のリスク
更新期限の12月31日までに手続きをしなかった場合、施設の登録は失効し、アカウントから削除されます。失効後は米国市場への食品輸出が事実上できなくなるため、必ず期日までに更新してください。特に年末年始は休暇などで期限を過ぎやすいため、早めの対応が推奨されます。
サプリメント事業者が注意すべきポイント
製品表示規制との関係
サプリメントには、施設登録とは別に独自の表示規制があります。製品ラベルには以下の要件が求められます:
- 「Dietary Supplement」の明示
- Supplement Factsパネルによる栄養成分表示
- 原材料名の表示
- 健康強調表示や免責事項の遵守
これらはDSHEA(栄養補助食品健康教育法)に基づく別個の対応事項であり、施設登録とは分けて準備する必要があります。
原料供給業者も登録対象
サプリメント製造工場だけでなく、原料供給業者(成分製造・加工施設)も登録義務の対象です。サプライチェーン全体で登録状況を確認し、すべての関係施設が適切に登録されているか把握しておくことが重要です。
Prior Noticeとの連携
米国への食品輸入時には事前通知(Prior Notice)の提出が必要です。この際、サプライヤーの施設登録番号が求められるため、取引先の登録状況も事前に確認しておきましょう。
よくある間違いと対策
輸入業者の誤解
食品輸入業者の中には「自分は輸入するだけだから登録不要」と誤解するケースがあります。確かに、輸入業者自身が製造・加工・保管などを行わない限り食品施設登録は不要です。しかし、米国輸入時にはサプライヤーの登録番号が必要であり、取引先の登録状況は必ず確認してください。
PINの紛失
登録後の更新・修正には登録時に発行されるPINが必要です。PINを失った場合は、オンラインでPIN検索機能を利用できますが、施設名や住所、責任者氏名など当初登録時の情報を正確に入力する必要があります。5回以上連続で誤回答するとロックされるため、不明な場合はFDAサポートへ連絡してください。
データ入力ミス
名称や住所の英語表記を誤ったり、UFI(DUNS番号)を取り違える事例が多発しています。UFIは施設ごとに一意の番号で、誤ったUFIや異なる住所を入力するとFDAが照合できず、登録が遅延・拒否されます。入力途中のエラー検出機能があるため、注意書きに従い慎重に確認してください。
虚偽申告のリスク
登録情報には正確なデータを入力する必要があります。虚偽の申告や意図的な誤情報は重大な違反となり、刑事罰の対象となる可能性があります。施設を閉鎖したり事業主が変わった際には、速やかに登録の取消・変更手続きを行ってください。
登録停止命令について
FDAは重大な食品事故の発生時に登録停止命令を出す権限を持ちます。具体的には、施設から米国に供給された食品が「重篤な健康被害または死亡の恐れがある」とFDAが判断し、その施設が原因または認識しつつ取り扱った場合に適用される可能性があります。
登録停止になると、その施設からの食品輸入・輸出がすべて禁止されるため、非常に深刻な事態です。日常的な品質管理や法令順守は登録とは別に徹底して行う必要があります。
まとめ
FDA食品施設登録は、米国市場でサプリメントを販売するための第一歩であり、必須の法的要件です。登録手続き自体は明確な手順に従えば完了できますが、UFIの取得、米国代理人の選定、正確な英語表記、そして2年ごとの更新管理など、実務上の注意点は多岐にわたります。
特に重要なのは以下の3点です:
- 事前準備の徹底:DUNS番号の取得、米国代理人の選定を登録前に完了させる
- 情報の正確性:住所や名称の英語表記、UFIを正確に入力し、入力ミスを防ぐ
- 更新管理:偶数年10月1日~12月31日の更新期間を厳守し、期限管理を徹底する
登録は単なる届出ですが、これを怠ると米国市場へのアクセスが閉ざされます。本記事で解説した手順と注意点を参考に、確実な登録管理を実現してください。
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