米国HSコード誤分類による追徴課税事例:最大3.6億ドルの罰金事例から学ぶリスク対策
HSコード誤分類が引き起こす深刻な経済的リスク
国際貿易において、HSコード(関税分類コード)の正確な申告は企業の法的義務であり、その誤りは想像以上に深刻な結果をもたらします。米国税関・国境取締局(CBP)は、2025年2月の1ヶ月間だけで28件の監査を実施し、約290万ドルの未払い関税を発見しました。過去の累計では7,450万ドル以上の追徴課税と罰金が徴収されており、取り締まりは年々厳格化しています。
米国では、輸入者に対して「合理的な注意義務(reasonable care)」が法的に課されており、単なる過失であっても高額な民事制裁金の対象となります。本記事では、実際の判例や訴訟事例を基に、HSコード誤分類がもたらす具体的な影響と、企業が取るべき予防策を詳しく解説します。
ケーススタディ1:保冷バッグの誤分類で約53,000ドルの追徴
事案の概要と誤分類の内容
ワインボトル用保冷バッグ「CoolSack」を輸入していた米国企業が、HSコードの誤申告により追徴課税とペナルティを科された事例です。輸入者は当初、これらの製品を「断熱性食料品用バッグ」としてHSコード4202.92.1000(関税率3.4%)で申告していました。
しかし、CBPの再分類調査の結果、この製品には実質的な断熱性能がないことが判明。正しい分類はHSコード4202.92.90(プラスチック製または繊維製のその他の袋類:断熱性でないもの)であり、関税率は**17.6%**と当初申告の5倍以上に跳ね上がりました。
輸入者の過失認定と法的根拠
米国国際貿易裁判所(CIT)は、この事例において輸入者の以下の行為を「合理的な注意義務」の違反と認定しました:
- 製品の詳細情報を通関業者に十分提供しなかった
- 通関業者から複数の分類候補が提示されたにもかかわらず、第三者専門家への意見照会を怠った
- CBPへの事前教示(Binding Ruling)申請を行わなかった
- 税関が公開している類似製品の分類事例の調査を実施しなかった
裁判所は、19 U.S.C. §1592(関税法592条)に基づき、誤ったHSコード申告が「重要かつ虚偽の申告」に該当すると判断。輸入者の行為を過失違反(negligence)と認定しました。
追徴課税とペナルティの詳細
この誤分類により、輸入者には以下の支払いが命じられました:
- 追加関税(未納関税):約8,228ドル
- 民事制裁金(ペナルティ):45,374ドル
- 合計:約53,602ドル
ペナルティ額が未納関税額の約5.5倍に達していることは注目に値します。これは、過失であっても「合理的な注意」を怠った場合、懲罰的な制裁金が科される米国税関の姿勢を示しています。
ケーススタディ2:ソーラーパネルのLED照明偽装で約110万ドル請求
反ダンピング関税回避の手口
中国製太陽光パネルを輸入していた米国企業が、製品を「LED照明器具」と不正に申告し、本来課されるべき反ダンピング(AD)税および相殺関税(CVD)を免れようとした事例です。
当時、中国製ソーラーパネルには高率のAD税・CVD税が課されており、場合によっては100%を超える追加関税率が適用されていました。一方、LED照明器具として申告すれば、これらの特別関税は適用されず、数%程度の通常関税のみで済むため、税率差は極めて大きいものでした。
CBPの調査と司法省の訴訟提起
CBPの電子製品専門部門(Electronics Center of Excellence and Expertise)による調査により、この不正が発覚しました。調査の結果、輸入業者が以下の行為を行っていたことが判明:
- HTSコード(関税分類コード)の意図的な虚偽申告
- 申告価格の改ざん
- 該当製品に適用されるべきAD税率・CVD税率の申告漏れ
米国司法省(DOJ)は2024年10月、当該企業の副社長を被告として民事訴訟(United States v. Paul Bakhoum、CIT案件番号24-00188)を提起しました。司法省は、この行為を「虚偽かつ重大な申告による関税の不払い」であり、米国メーカーに損害を与える不公正な貿易慣行と位置付けました。
請求額と今後の展望
米国政府は本件について以下の支払いを求めています:
- 未払い関税:約30万ドル
- 民事制裁金:約80万ドル
- 合計:約110万ドル
制裁金が未払い関税の約2.7倍に達しており、免れようとした関税額の3倍近くという厳しい請求となっています。CBPは「不当に関税を逃れる者には断固とした措置を取る」と声明を発表し、同様の違反に対する強い警告メッセージを発信しています。
ケーススタディ3:フォード社の商用車偽装で3.6億ドルの和解金
「チキンタックス」回避スキームの全貌
Ford Motor Companyは2009年から2013年にかけて、トルコ製小型商用バン「トランジットコネクト(Transit Connect)」の輸入において、大規模な関税回避スキームを実行していました。
商用バン(貨物輸送用車両)には25%の高関税(通称「チキンタックス」)が課される一方、乗用車には2.5%の低関税しか適用されません。フォード社はこの税率差を悪用し、商用バンに一時的な後部座席を取り付けて「乗用車」として申告。輸入後、すぐに座席を取り外して商用バンとして販売するという手法を取っていました。
正しい分類との税率差
- 誤った申告:HSコード8703項(乗用車) → 関税率2.5%
- 正しい分類:HSコード8704項(貨物輸送用車両) → 関税率25%
1台あたり数千ドル規模の関税差が生じており、数年間の累計では膨大な金額に達していました。米国司法省は、この後部座席を「真の貨物車であることを偽装するための工作」と断定し、不正な偽装(artifice or disguise)による関税逃れと認定しました。
史上最大級の和解額とその内訳
フォード社は2024年3月、長年の法廷闘争の末に司法省との和解に合意しました。和解内容は以下の通りです:
- 和解金総額:3億6,500万ドル
- 未払い関税(追徴課税額):約1億8,347万ドル
- 民事制裁金(ペナルティ):約1億8,000万ドル
この金額は、免れた関税額の約2倍に相当し、米国における関税不正事件としては異例の規模となりました。関税法592条では、故意または重大な過失の場合、未納関税額の最大4倍までの罰金が可能であり、この和解額は上限近くに設定されたと考えられます。
和解条件に含まれた再発防止策
フォード社は違法性を認めないものの、以下の条件を受け入れました:
- CITで継続中の訴訟の取り下げ
- 今後5年間、新型車の輸入前にCBPへ分類照会(事前教示)を行うことの義務化
この条件は、将来にわたりHSコードの適正適用を担保するための重要な措置であり、他の企業にとっても参考となる予防策といえます。
HSコード誤分類を防ぐための5つの実践的対策
1. 製品情報の徹底的な精査と専門家への相談
輸入製品の材質、用途、機能を正確に把握し、それに基づいて適切なHSコードを選定することが基本です。自社内に十分な知見がない場合は、通関士や貿易コンプライアンスの専門家に相談することが重要です。
保冷バッグの事例では、輸入者が通関業者から提示された複数の分類候補について第三者の意見を求めず、税関の公開分類事例の調査も怠った点が過失と認定されました。専門家の助言を仰ぎつつ、最新の法令や類似品の分類事例を調査することが有効な再発防止策となります。
2. CBPへの事前教示(Binding Ruling)の積極的活用
製品の分類に疑義がある場合、CBPに対して事前教示を申請し、公式に分類を確認してもらう方法があります。これにより、後日「HSコードの誤り」を指摘されるリスクを大幅に低減できます。
フォード社の和解では、今後の新型車についてCBPへの事前照会が義務付けられました。これは事前に適切な分類を確定することで紛争を未然に防ぐ好例であり、特に関税率に大きな差が出る可能性のある製品については、事前教示の活用が強く推奨されます。
3. 内部監査とコンプライアンス体制の構築
輸出入業務において、定期的な内部監査を実施し、申告内容(HSコード、原産地、価格など)に誤りがないかチェックする体制を整えることが重要です。
具体的な対策として:
- 社員に対する関税分類や貿易コンプライアンスの教育訓練の実施
- 最新の規制や判例の知識の周知徹底
- 関税率に大きな差が出る商品(AD/CVD対象製品など)の重点的確認プロセスの設置
- 申告内容の複数人チェック体制の構築
4. 自主的な申告是正(Prior Disclosure)の活用
過去の輸入にHSコードの誤りや申告漏れがあったことに気付いた場合、CBPに対して自主開示を行うことが推奨されます。
自主開示制度を利用し、誤りの内容と未納関税を自主的に申告・納付すれば、発覚後に当局から指摘を受けるよりもペナルティが大幅に軽減されます。これは米国関税法上の制度で、故意でない違反を自主的に是正する企業に救済措置を与えるものです。
自発的な是正措置は、企業にとって最悪の事態(刑事罰や高額罰金)を避けるための重要な手段となります。
5. 「合理的な注意義務」の組織的遵守
最終的には、輸入者自身がHSコードを含めた申告内容に対し責任を負うことを認識し、社内に適切なチェックアンドバランスを設けることが肝要です。
米国では法律上、輸入者に対し「合理的な注意」をもって申告の正確性を期す義務(Informed Compliance)が課されています。適切な情報提供や確認プロセスを経ずに誤分類が行われた場合、「合理的注意義務違反」と見なされ高額な制裁の対象となります。
経営陣から現場担当者までコンプライアンス意識を共有し、問題発生時には速やかに是正措置をとる企業文化を醸成することが、同様の誤りを防ぐ最善策です。
まとめ:予防的アプローチが企業を守る
米国におけるHSコード誤分類の事例から明らかなように、関税分類の誤りは企業に多額の追徴課税や罰金、さらには評判の失墜をもたらします。保冷バッグの5万ドルから、フォード社の3.6億ドルまで、その規模は多様ですが、共通しているのは「合理的な注意義務」を怠った結果として厳しい制裁が科されている点です。
CBPは2025年も取り締まりを強化しており、1ヶ月間で290万ドルの未払い関税を発見するなど、監視体制は年々厳格化しています。企業にとって重要なのは、事後対応ではなく予防的アプローチです。
専門家への相談、事前教示の活用、内部監査体制の構築、自主開示制度の理解、そして組織全体でのコンプライアンス意識の共有。これらの対策を講じることで、HSコード誤分類によるリスクを大幅に低減し、安定した国際取引を実現することができます。
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