はじめに
医療機器を市場に投入するためには、各国の規制当局による承認が不可欠です。特に米国と日本は世界最大級の医療機器市場を持ち、それぞれ独自の承認制度を運用しています。米国FDAではDe Novo申請やPMA(Pre-Market Approval)といった承認ルートが存在する一方、日本ではリスク分類に基づく承認制度が採用されています。本記事では、これらの制度の違いと、企業が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
De Novo申請とPMAとは?医療機器承認の基本
米国FDAでは、医療機器の新規性とリスクレベルに応じて、適切な承認ルートを選択する必要があります。その中でも特に重要なのが、De Novo申請とPMAです。
De Novo申請の概要
De Novo(デ・ノボ)申請は、既存の承認済み製品(predicate)が存在しない新規医療機器を対象とした承認制度です。ただし、対象となるのはClass IまたはClass II相当のリスクに収まる製品に限られます。
この制度の最大の特徴は、「前例はないが、PMAほど高リスクではない」製品を新たにClass IまたはClass IIとして分類できる点にあります。承認されると、その製品が新たな基準(special controls)となり、将来的には他社の510(k)申請のpredicateとして使用される可能性があります。
PMAと比較すると負担は軽いものの、安全性・有効性を示すデータの提出は必須です。
PMA(Pre-Market Approval)の概要
PMAは、Class III(最もリスクが高い)医療機器を対象とした、FDAが定義する最も厳格な審査制度です。生命維持装置や生命に重大な影響を与える製品、重大なリスクを伴う製品がこの分類に該当します。
PMA申請では、臨床試験データを含む科学的根拠による安全性・有効性の立証が求められます。承認のハードル、費用、期間ともに最大級であり、承認後も市販後調査義務が課されます。
日米の医療機器リスク分類の違い
医療機器の承認制度を理解するためには、まずリスク分類の仕組みを把握する必要があります。
米国FDAのリスク分類
米国では医療機器をClass I、II、IIIの3段階に分類しています。
Class Iは最も低リスクの機器で、一般管理の対象となり、多くの場合510(k)申請が不要です。Class IIは低~中リスクの機器で、510(k)申請が原則として必要になります。Class IIIは高リスクの機器で、PMAが必須となります。
日本PMDAのリスク分類
日本では医療機器をClass I~IVの4段階に分類しています。
**Class I(一般医療機器)**は最も低リスクで、PMDAへの届出のみで済みます。**Class II(管理医療機器)**はJIS規格があれば第三者認証、なければ承認が必要です。**Class III(高度管理医療機器)**は規格がない場合、承認が必要となります。Class IVは最も高リスクで、必ず承認(Shonin)が必要です。
重要な点として、日本にはDe Novoに相当する制度は存在しません。代わりに、リスク分類に基づく承認制度が一律に適用されます。
De Novo申請の手続きと流れ
De Novo申請を検討する企業にとって、手続きの流れを正確に把握することは極めて重要です。
申請プロセスの詳細
De Novo申請は以下のステップで進行します。
まず、**Pre-Submission(Q-Sub)**と呼ばれるFDAとの事前相談を行います。これは任意ですが、強く推奨されています。次に、De Novo申請をeSTARシステムを通じて提出します。提出後、約15日の受理審査が行われ、その後目標150日での本審査が実施されます。
承認されると、新たなClass IまたはClass IIとして公表され、将来の510(k)申請の基準となります。
必要なデータと書類
De Novo申請には、製品概要、リスク分析、非臨床・臨床データ、表示(ラベリング)、そして特別管理(special controls)の提案が必要です。
特にspecial controlsの設計力が重要であり、これが承認の可否を大きく左右します。
審査期間と費用
2026年度のFDA手数料は、通常申請で約17.3万ドル、中小企業の場合は約4.3万ドルとなっています。
審査期間は目標150日とされていますが、前例がないためFDA要求レベルの予測が難しく、PMA並みに時間がかかるケースもあることに注意が必要です。
PMA申請の手続きと流れ
PMAは最も厳格な承認制度であり、十分な準備と理解が求められます。
申請プロセスの詳細
PMA申請のプロセスは、多くの場合IDEによる臨床試験から始まります。その後、Pre-Submissionでの事前相談を経て、PMA申請を提出します。
提出後は60日の形式審査が行われ、その後180日を目標とした実質審査が実施されます。この過程で、Advisory Committee(外部専門家会議)が開催される可能性があります。最終的に承認または非承認の判断が下され、承認後も市販後調査義務が課されます。
臨床試験の要件
PMAで最も負担が大きいのが、大規模な臨床試験データの収集です。臨床試験のコストと期間は非常に大きく、企業にとって大きな投資となります。
審査期間と費用
2026年度のFDA手数料は、通常申請で約57.9万ドル、中小企業の場合は約14.4万ドルです。De Novoと比較して大幅に高額であることがわかります。
また、Advisory Committee対応が高難度であることや、市販後義務が重いことも、PMA特有の課題として挙げられます。
日本の医療機器承認制度
日本市場への参入を目指す企業にとって、日本独自の承認制度の理解は不可欠です。
承認(Shonin)の流れ
日本での承認取得は以下のステップで進みます。
まず、日本法人またはMAH(製造販売業者)の選定が必要です。次に、**外国製造業者登録(FMA)**を行い、QMS適合性調査(ISO13485またはMDSAP)を受けます。その後、PMDA事前相談を経て、**承認申請(日本語)**を提出します。
PMDA審査を経て、最終的に厚生労働省による承認(Shonin)が下されます。
審査期間の目安は約9~12か月以上で、高リスクほど長期化する傾向があります。費用目安は、Class II/IIIで約1,000万円前後、Class IVで約1,700万円前後となっています。
外国企業が日本で承認を取得する際のポイント
外国企業にとって特有のハードルとなるのが、日本語資料の必須、MAH・FMAなどの現地体制整備、そしてクラス判定ミスによる大幅遅延のリスクです。
特にクラス判定は慎重に行う必要があり、初期段階でPMDAとの相談を活用することが推奨されます。
日本企業が米国で申請する際の注意点
日本企業が米国市場への進出を目指す場合、以下の点に注意が必要です。
U.S. Agentの選任が必須であり、FDA登録および製品リスティングが前提となります。海外臨床データは使用可能ですが、FDA基準への適合が求められます。
表示・ラベルはFDA規制に準拠した英語版が必要です。また、MDSAP取得によりQMS審査を効率化できる可能性があります。さらに、中小企業制度を利用することで、FDA手数料を大幅に軽減できる場合があります。
De NovoとPMA、どちらを選ぶべきか
制度選択は事業戦略に直結する重要な判断です。
De Novoは「新規性はあるが中リスク」の製品に適しています。前例がないものの、Class IIIほどの高リスクではない製品であれば、De Novoの活用を検討すべきです。
一方、PMAは「高リスクでフル臨床試験が必要」な製品向けです。生命維持や重大な影響を伴う製品の場合、PMAが必須となります。
いずれの制度を選択する場合も、早期のFDA事前相談が成功の鍵となります。
まとめ
米国と日本の医療機器承認制度には、それぞれ独自の特徴があります。米国ではDe Novo申請が「新規かつ中リスク」の製品に、**PMAが「高リスクでフル臨床試験が必要な製品」**に適用されます。一方、日本にはDe Novoに相当する制度は存在せず、リスク分類に基づいて一律に管理されています。
米国市場では制度選択が事業戦略に直結するため、製品のリスクレベルと新規性を正確に評価し、適切な承認ルートを選択することが重要です。また、FDAやPMDAとの早期の事前相談を活用することで、承認プロセスを効率化し、成功確率を高めることができます。
公開データベースの活用も有効です。米国ではPMA承認データベースやDe Novo承認リストが公開されており、承認事例や審査ロジックの確認が可能です。日本でも医療機器承認品目一覧が公開されているため、これらを参考に準備を進めることをお勧めします。
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