はじめに:「日本語で問題ないなら英語も大丈夫」が危険な理由
Amazon越境ECに取り組む日本人セラーの多くは、商品ページの英語表現を「日本語テキストの翻訳作業」として捉えがちです。しかし実際には、日本語で何ら問題のない表現が、英語に変換されると”断定・効能・医療目的”を主張する文言として受け取られるケースが少なくありません。
この記事では、なぜ日本語感覚がAmazon越境ECにおいてリスクになるのかを掘り下げ、実務で起きやすい問題パターンと、事前に防げる具体策を解説します。
商品の区分(食品・サプリメント・医薬品など)や登録手続きとの関係についても触れますが、それぞれの制度的詳細はより専門的な解説に譲り、本記事では**「表現リスクの本質と実務的な対処」**に焦点を当てます。

なぜ「日本語感覚」が越境ECで問題になるのか
日本語と英語の「受け取られ方」の根本的な違い
日本語のコミュニケーションは、「言外の理解」を前提とした曖昧さが機能します。「〜に良いとされています」「〜をサポートします」「〜に効くかもしれません」といった表現は、日本語話者にとってはあくまでも柔らかいニュアンスとして処理されます。
しかし英語圏では、文章は書かれている通りに受け取られるという前提が強く働きます。”supports”(サポートする)、”helps with”(〜を助ける)、”effective for”(〜に効果的)といった言葉は、日本語の「なんとなく良い」感覚より、はるかに断定的な主張として解釈される可能性があります。
こうした言語文化の差が、日本語感覚のまま作られた英語表現に「意図せぬ効能主張」を生み出す原因になります。
「翻訳作業」として処理すると見落とすもの
越境EC対応の商品ページ作成は、情報収集・登録手続き・物流手配など多くのタスクと並行して進むため、英語表現の作成が「作業」として処理されやすい状況があります。
この状態では、翻訳の正確さには意識が向いても、英語を受け取る側がどう解釈するかというリスク視点が後回しになりがちです。その結果、直訳として正しくても、英語圏の文脈では「医療目的の主張」に読める表現がそのまま使われることがあります。
日本の薬機法感覚と米国の区分判断は一致しない
日本の薬機法では、食品・化粧品・医薬品それぞれに「言ってはいけない表現」の感覚が実務上形成されています。しかし米国では、食品・ダイエタリーサプリメント・医薬品・化粧品・医療機器といった区分の境界が、用途と表現の両方によって動くという構造があります。
日本の感覚での「セーフな表現」が、米国の区分基準では別の分類に引き込む表現として機能してしまうことがあります。この”ズレ”を認識せずに進めると、表現に起因した書類照会や修正要求を受けるリスクが高まります。
Amazonで実際に問題になりやすい表現パターン
「〜に良い」「〜をサポート」が断定主張に見える
日本語の「腸内環境に良い」「免疫をサポートする」「疲れにくい体をサポート」といった表現は、英語に直訳すると次のような文言になります。
- “Good for intestinal environment”
- “Supports immune function”
- “Helps reduce fatigue”
これらは英語圏の受け取り方では、単なる期待感の表明ではなく、特定の機能・効能についての明示的な主張として解釈される可能性があります。特にサプリメントや健康食品の商品ページであれば、区分を揺らす要素になりやすいと言えます。
美容・健康カテゴリが医療目的に読まれるパターン
「むくみが気になる方に」「血行を意識した生活をされている方へ」「免疫力が低下しがちな季節に」など、日本語では一般的な健康訴求表現も、英語に変換すると状態・症状・治療に関連する語彙が含まれやすくなります。
- “For those concerned about edema”(むくみ=医療的症状として受け取られやすい)
- “For those conscious of blood circulation”(血行改善の暗示)
- “For seasons when immunity tends to decline”(免疫低下への作用の暗示)
こうした表現は、食品や一般ウェルネス用品の商品ページであっても、医薬品・サプリメントとの境界を揺らすリスクがあります。
丁寧に書くほど「主張が増える」という逆説
日本人セラーに多いのが、「詳しく書けば誤解されにくい」という感覚です。しかし商品ページの英語表現においては、説明を詳細にするほど**「言ったこと」が増え、誤認のリスクも積み重なる**という構造があります。
たとえば、「〇〇成分を配合しており、△△機能のサポートに着目して開発しました」という一文は、一見丁寧な説明に見えます。しかし英語にすると、「contains ○○ ingredient, developed with focus on supporting △△ function」となり、機能的主張を明示した表現として評価される可能性があります。
記述量を増やす前に、「この表現で何を主張しているか」を棚卸しする習慣が重要です。
画像・アイコンも「広告表現」として機能する
商品ページの表現リスクは、テキストだけにとどまりません。**画像・アイコン・図解も”広告として読まれる”**という視点が必要です。
たとえば以下のような要素は、文言が控えめであっても、暗黙的に医療目的・効能を主張するビジュアルとして機能する可能性があります。
- ビフォーアフター風の比較画像
- 臓器・体の部位を示すアイコン
- 医療機器・注射器・病院を連想させる図解
- 数値や測定結果のグラフ(臨床効果を示唆するもの)
文章で慎重に言葉を選んでも、画像で暗黙の主張をしている状態は、表現リスクを解消したとは言えません。
「Amazonで見かけた表現をマネする」は安全とは言えない
実務上、他のセラーの商品ページで使われている英語表現を参考にするアプローチは珍しくありません。しかし、参考にした商品がどのような書類体制・分類・運用前提のもとで販売されているかはわかりません。
同じ表現でも、背景となる登録状況や区分の前提が異なれば、安全性の評価も変わります。他のページの表現が「生き残っている」ことは、その表現が安全であることの証明にはならないことを意識しておく必要があります。
登録・区分との整合性が崩れると「止まる」理由
登録があっても表現がズレると照会が長引く
商標登録やブランド登録(Amazon Brand Registryなど)を済ませていても、商品ページの表現が用途説明や区分の前提とズレていれば、書類要求(Document Request)や修正要求が入る可能性があります。
登録は表現の問題を免除するものではありません。「登録=安全」ではなく、登録後も表現の整合性が問われ続けるという認識が必要です。
通関書類の用途説明と商品ページの訴求が矛盾するリスク
通関手続きで提出する用途説明は、一般的な用途(例:「一般食品」「日用品」)として記述されることが多い一方、商品ページの英語表現が医療寄りの訴求になっている場合、書類と表現の間に矛盾が生じやすくなります。
この矛盾は、輸入側の税関照会やAmazon側の確認プロセスで浮上し、対応に時間がかかる原因になります。商品ページの主張と、書類に記載した用途説明が整合していることは、実務上の基本として意識しておく価値があります。
事故を防ぐための実務チェックポイント
「この商品は何のためのものか」を1文で固定する
表現を作り始める前に、商品の用途を1文で定義する習慣が有効です。
「何のための商品か」「何を主張しないか」を先に決めることで、英語表現がブレにくくなります。たとえば「日常的に使うウェルネス用品であり、特定の疾患や症状への効果を主張しない」と先に固めると、その後の表現選びで判断基準が生まれます。
意味の正確さだけでなく「主張の強さ」を点検する
英語表現を評価するとき、翻訳として正しいかどうかだけでなく、断定・治療・予防に寄っていないかを確認する視点を追加します。
チェックの目安として、次の問いが使えます。
- この表現は、特定の疾患・症状・状態を改善・予防すると読めるか?
- 医薬品・医療機器の説明に使われるような語彙が含まれていないか?
- 「効果がある」「改善する」「治す」に近い意味を持つ動詞を使っていないか?
これらに該当する場合は、より中立的な表現への言い換えを検討することが実務上の対策になります。
画像・アイコンも含めてビジュアル全体を棚卸しする
商品ページを見直す際は、テキストだけでなく画像・アイコン・図解を含めたビジュアル全体で「何を暗黙に主張しているか」を確認します。
特に以下の点は見落とされやすいため、意識的にチェックする価値があります。
- 体の部位・臓器を強調したアイコンが使われていないか
- ビフォーアフターを連想させる構成になっていないか
- グラフや数値が臨床的効果を示唆するような見せ方になっていないか
第三者チェックを前提として組み込む
自分の日本語感覚の盲点は、自分では気づきにくいという性質があります。英語表現の「主張の強さ」を客観的に評価するために、英語圏の文化・規制に詳しい第三者のチェックを実務フローに組み込むことが、事故を減らす方法のひとつです。
コストとのバランスを考えながら、少なくとも最初の商品ページや新カテゴリ参入時には、外部の目を入れる価値があります。
まとめ:日本語感覚の「盲点」を意識することが越境ECの第一歩
Amazon越境ECにおける表現リスクの本質は、英語力の問題ではありません。「日本語で問題ない表現が、英語圏では断定・効能・医療目的の主張に見える」という構造的なズレを認識しているかどうかが、実務上の分かれ目になります。
この記事で取り上げた主なポイントを整理すると:
- 日本語の曖昧な表現は、英語にすると断定的な主張として受け取られやすい
- 「丁寧に書く」ほど主張が増え、リスクも積み重なる可能性がある
- 画像・アイコンも広告表現としてリスクを持つ
- 登録があっても表現と書類の整合性が崩れると照会・停止につながりやすい
- 「用途の1文固定」「主張の強さの点検」「ビジュアルの棚卸し」で事故は減らせる
まず「危険なのは直訳そのものより、英語で断定・効能・医療目的に読めてしまうこと」という視点を腹落ちさせることが、越境EC実務での表現リスク管理の出発点です。
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