機能性表示食品と米国サプリメント規制は収束するのか?日米の制度比較から読み解く可能性

米国税制情報

導入:なぜ今、日米の健康食品規制比較が重要なのか

健康食品ビジネスがグローバル化する中で、日本の機能性表示食品制度と米国のdietary supplements規制の違いを理解することは、輸出入戦略やエビデンス設計を考えるうえで欠かせないテーマになっています。両制度はいずれも「医薬品ほど厳格ではないが、一般食品よりも強い健康関連表示を認める」という共通の目的を持ちながら、その実現方法はかなり異なります。日本は販売前の届出と表示義務を軸とした「事前公開型」、米国はDSHEA(Dietary Supplement Health and Education Act)を基礎とした「事後執行型」というアプローチの違いが、そのまま収束の難易度を左右しています。本記事では、両制度の基礎構造、科学的根拠の要求水準、表示ルール、監視体制を比較しながら、今後の収束可能性を三つのシナリオで整理します。

機能性表示食品制度の基礎構造

機能性表示食品制度は、事業者が安全性・機能性に関する科学的根拠等を販売前に消費者庁長官へ届け出ることで、国による個別審査を経ずに機能性表示を可能にする仕組みです。特定保健用食品(トクホ)とは異なり、国が個別に許可を与えるわけではなく、事業者が自らの責任で適正な表示を行う体制になっています。

2024年の制度改正と2025年施行の見直しでは、サプリメント形状食品を対象にGMP基準の導入、自己点検等報告の義務化、新規機能性関与成分における専門家関与の強化などが盛り込まれました。これは、いわゆる紅麹関連事案を契機とした信頼回復の取り組みとも位置づけられ、事前届出の枠組みを維持しつつ、品質管理と事後モニタリングを強化する方向性を示しています。

米国dietary supplements規制の基礎構造

一方、米国のdietary supplements規制は、DSHEAにより「食品」に近い領域として扱われ、市場投入前の承認を原則として求めない自由流通型の制度です。FDA(米食品医薬品局)は、企業が安全性に関する裏付け資料を市場投入前後にFDAへ提出する義務は原則ないとしつつ、新規のdietary ingredient(NDI)については例外的に市場導入75日前の通知が必要だと説明しています。

こうした制度設計のため、FDAはすべての新製品を市場投入前に把握できているわけではないとも述べています。米国はNDI通知、structure/function claimの30日以内通知、cGMP(現行適正製造基準)、重篤な有害事象の報告義務、そして問題が生じた際の警告書・差止め・押収といった事後的な執行手段によって制度全体をコントロールしています。

表示・health claimsの違いという最大の壁

日米の制度収束を考えるうえで最も大きな壁となるのが、健康表示(health claim)の法的性格の違いです。日本の機能性表示食品は、疾病リスク低減表示を対象外とし、「健康の維持・増進」の範囲内での表示に限定されます。表示にあたっては、「機能性表示食品」である旨の枠囲み表示、届出番号、国による評価を受けていない旨、疾病の診断・治療・予防を目的としない旨、疾病に罹患している場合や医薬品を服用している場合は医師等に相談すべき旨など、定型的な表示義務が課されています。

これに対して米国では、claimの類型がより明確に分かれています。structure/function claimは、初回販売後30日以内の通知と定型的なdisclaimerを条件に認められますが、内容が疾病に関するclaim(disease claim)に該当すれば、その製品は原則として医薬品規制の対象になってしまいます。一方で、疾病リスク低減に関するhealth claimは、FDAの事前レビューを経る必要があり、authorized health claimはsignificant scientific agreement(SSA)、qualified health claimは限定的な科学的根拠と限定文言のもとで運用されています。

つまり、日本は疾病リスク低減表示そのものを制度の対象外に置いているのに対し、米国はそれを別ルートとして明示的に制度化しているという非対称性があり、この違いが表示制度全体の収束を難しくしている構造的な要因といえます。

科学的根拠の要求水準を比較する

科学的根拠の面では、日本は最終製品を用いたヒト試験、最終製品のシステマティックレビュー(SR)、または機能性関与成分のSRという三つの経路を採用できます。ヒト試験では臨床試験の公開データベースへの登録や国際指針への準拠、原則として疾病に罹患していない者を対象とすることなどが求められます。SRについては、恣意的な文献抽出を避けるための網羅的収集や、2025年4月以降のPRISMA 2020への準拠が求められるようになり、要件は年々引き締まる傾向にあります。

米国のstructure/function claimは「truthful and not misleading(真実で誤認を招かないこと)」という基準のもと、通知の時点で裏付け資料を保有していることを誓約する形式が一般的で、通常はFDAへの事前提出を必要としません。一方でhealth claimについては、SSAまたはcredible evidenceに基づくFDAのレビューが行われるため、health claimの領域に限れば日米の科学的評価の考え方は比較的近づけやすい可能性があります。

安全性評価とGMP、事後監視の接点

安全性評価においては、日米で比較的接点が見出しやすい領域です。日本では、喫食実績、既存の食経験情報、既存の安全性試験結果、必要であれば追加の安全性試験へと段階的に評価を進める枠組みがあり、医薬品との相互作用評価はすべての届出食品で必須とされています。サプリメント形状食品についてはGMP基準が告示化され、自己点検等報告も義務化されました。

米国のcGMPルールも、成分の同一性・純度・品質・強度・組成を確保するための製造・包装・保管・表示の工程管理を要求しており、両国のGMP的な発想には親和性があります。事後監視についても、日本では販売状況の未更新や新知見の発生、含有量不足の判明などにより撤回が求められる仕組みがあり、米国では重篤な有害事象報告、警告書、リコール、差止め・押収といった手段が中心です。撤回や執行の法形式は異なるものの、「市場に出た後も継続的に監視する」という発想そのものは共通しており、ここに実務レベルでの収束余地があると考えられます。

Codexという共通の参照軸

国際基準という観点では、Codex(コーデックス委員会)の存在が重要な接点になります。Codexはhealth claimをnutrient function claim、other function claim、reduction of disease risk claimの三類型に整理し、十分な科学的根拠、非誤認性、栄養表示の併記、定期的な再評価を求めています。日本の栄養強調表示はCodex等との整合を図ってきたとされ、米国のclaim類型もCodexと一定の同型性を持つとされています。細部の運用は異なるものの、Codexは日米双方が参照しうる「最小公倍数」としての役割を果たす可能性があります。

収束の三つのシナリオ

以上を踏まえると、日米の制度収束には大きく三つの方向性が考えられます。

第一に、楽観的シナリオでは、共通のエビデンス要約様式、成分同定・分析法のテンプレート、GMP相当性の確認、有害事象シグナルの共有といった技術的な対話が進み、相手国の資料を自国の届出・審査の補助資料として再利用できる水準に達する可能性があります。

第二に、現実的シナリオでは、制度の根幹は維持されたまま、企業側が両国向けにそれぞれ資料を再構成する「二重適合」の効率化が進む可能性があります。共通テンプレートや共通の分析法、業界団体レベルでのレビュー基準の整合が、相互承認によらない形で実務を下支えする方向性です。

第三に、悲観的シナリオでは、日本がさらに事前管理を強化し、米国がingredient scopeの拡張など自由化に向かうことで、共通言語が細り、収束はGMPやCodexの一般原則といった低い水準にとどまる可能性があります。

いずれのシナリオにおいても、共通するのは「相互承認」ではなく「相互依拠」という考え方です。相手国の資料や監査結果をそのまま承認根拠とするのではなく、自国の追加審査を前提とした信頼性の高い補助資料として扱う形が、法制度上もっとも現実的な着地点になると考えられます。

まとめ:今後の実務対応と研究の方向性

機能性表示食品制度と米国のdietary supplements規制は、事前公開型と事後執行型という異なる哲学に立脚しており、短中期での完全な制度収束や相互承認は実現しにくいと考えられます。一方で、科学的根拠の様式化、GMPや品質管理、成分同定・分析法、事後監視の考え方、Codexを参照軸とした表示の整理などにおいては、限定的な収束や資料の相互運用性向上が現実的な選択肢として存在します。

事業者にとっての当面の実務対応としては、日本向けにはPRISMA 2020準拠のシステマティックレビューや対象者設計、相互作用評価、定型表示、自己点検等報告を軸にした資料構築を進めること、米国向けにはNDI該当性の判断、structure/function claimがdisease claimに該当しないような設計、disclaimer、cGMP対応、有害事象報告体制の整備を先行させることが有効と考えられます。一つの成分・一つのエビデンス基盤から、二つの異なる法体系へどう写像していくかという発想が、今後のグローバル展開における鍵になる可能性があります。

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