越境ECの拡大に伴い、米国Amazon.com(アマゾン・ドットコム)への出品を検討する日本企業が増えています。世界最大級のECマーケットである米国Amazonは、適切に準備すれば日本からでもアカウント開設が可能です。しかし、必要書類の不備や税務情報の設定ミス、言語対応の壁によって審査に落ちるケースも少なくありません。
本記事では、日本法人がAmazon.comで販売を開始するために必要なアカウント登録手順、初期設定のポイント、そして実際に発生しやすいエラー事例と対策までを網羅的に解説します。セラーセントラルの設定から税務インタビュー(W-8BEN-E提出)まで、実務担当者が押さえるべき情報を体系的にまとめました。

セラーアカウント登録に必要な書類と情報
法人情報の準備
米国Amazonで出品用アカウントを開設するには、まず以下の法人基本情報を整理する必要があります。
法人番号(13桁)
国税庁の「法人番号公表サイト」で確認できる番号です。日本法人の場合、このサイトに記載されている正式な本社所在地も併せて確認しておきましょう。登録時の住所表記と法人番号サイトの情報が一致していることが審査通過のカギとなります。
法人名(英字表記と日本語表記)
登記簿上の正式名称を英字(ローマ字)と日本語の両方で用意します。英字表記は後述する税務書類や銀行口座登録でも使用するため、統一した表記を決めておくことが重要です。
本社所在地の住所
郵便番号を含む本店住所をローマ字で正確に表記します。法人番号公表サイトに記載されている表記に合わせることで、審査時の住所不一致リスクを減らせます。建物名や部屋番号も省略せず記載してください。
担当者名・店舗名
アカウント運用責任者(出品用アカウントに登録する代表担当者)の氏名と、ストア表示名(ショップ名)を決定します。ショップ名は後から変更可能ですが、ブランドイメージに合致する名称を最初から設定することを推奨します。
本人確認書類の準備
アカウント登録時には、法人代表者または担当者に関する書類提出が求められます。
顔写真付き身分証明書
パスポート、運転免許証など行政機関発行の有効な身分証を準備します。氏名・生年月日・ID番号が登録情報と完全に一致している必要があります。注意点として、日本のマイナンバーカードは本人確認書類として利用できません。
住所確認書類
担当者本人の現住所が記載された書類を用意します。銀行取引明細書、クレジットカード利用明細書、公共料金の請求書など、発行から180日以内のものが有効です。氏名と住所が登録情報と一致し、鮮明に読み取れる状態で提出してください。
法人の事業証明書類
法人として登録する場合、事業実体を証明する書類が必要です。具体的には登記事項証明書(登記簿謄本)や定款、株主名簿など政府発行の法人証明書類を準備します。日本法人の場合は発行後180日以内の登記簿謄本、または国税庁法人番号サイトの該当ページのスクリーンショットを求められることがあります。
支払い用情報の準備
クレジットカード
有効なクレジットカード(VISA、MasterCard等)を用意します。法人名義または担当者名義のカードが利用可能です。月額登録料や各種手数料の決済に使われるため、有効期限内で限度額に余裕があるカードを登録しましょう。デビットカードやプリペイドカードは避け、信用度の高いカードを使用してください。
銀行口座
売上金を受け取るための銀行口座を設定します。Amazon.comは日本を含む世界各国の銀行送金に対応しており、必ずしも米国現地の口座は必要ありません。日本の銀行口座を登録すれば、Amazonの為替サービス(Amazon Currency Converter)によって売上が自動的に円転されて入金されます。
ただし為替手数料が発生するため、PayoneerやWorldFirstなどAmazon公認のペイメントサービスプロバイダー(PSP)を利用して米ドル口座を取得し、USDで受け取る方法も検討できます。登録時には口座のルーティング番号(9桁)、口座番号、口座名義(アルファベット表記)を入力する必要があります。
アカウント登録時の注意点
住所・電話番号の入力規則
住所表記
登録フォームでは日本の住所もローマ字入力が求められます。法人の本社住所や担当者の住所は、日本語住所をそのままアルファベット転記した表記(ヘボン式ローマ字推奨)で正確に入力します。建物名や部屋番号まで含め、省略せず記載しましょう。法人の場合、法人番号サイトに掲載されている正式住所表記に沿って入力することで、後日の審査時に住所不一致で落とされるリスクを減らせます。
電話番号(SMS/音声認証)
日本から登録する場合でも、国番号を付けた電話番号入力が必要です(例:日本の携帯なら+81から始める)。登録直後に電話またはSMSでワンタイムPINコードの認証が行われるため、すぐに受信できる電話番号を指定してください。国際電話で自動音声コールがかかってくる場合もあるので、着信拒否設定に注意し、認証が完了するまで電話を手元に置いておきましょう。
氏名と言語対応
氏名のローマ字表記
担当者個人の氏名はパスポートなど本人確認書類上のローマ字表記に合わせます。ミドルネームやスペースの有無、大文字小文字など細部も可能な限り統一してください。登録名と身分証の表記不一致は審査落ちの主要因となります。
メールアドレス
Amazon出品用に未使用のEメールアドレスを用意して登録します。既存のBuyer用(購入者用)アカウントに紐づくメールではなく、新規に管理専用のメールを使うことが推奨されます。登録後はこのメールに重要なお知らせ(審査結果やアカウント通知など)が届くため、日常的にチェックするメールを設定してください。
言語対応
Amazon.com(米国)のセラーセントラル画面および購入者対応は基本すべて英語で行われます。登録フォームも英語表記で入力項目が表示されるため、意味が不明な場合は画面の言語を日本語に切り替えるか、ブラウザの翻訳機能を利用すると良いでしょう。ただし最終的な入力内容(住所や商品情報等)は英語で記載する必要があります。
出品後は英語での商品説明やカスタマーサポート対応が求められます。英語対応に不安がある場合、社内で英語堪能な担当者を決めるか、翻訳ツールを活用して迅速に対応できる体制を整えてください。
出品プランの選択
登録時に選択する出品プランは、通常Professional(大口出品)がおすすめです。小口Individual プランは月額基本料が無料な代わりに商品毎の成約料0.99ドルがかかります。大口出品(39.99ドル/月)を日本アカウントと北米アカウントで重複支払しないよう、グローバルセリングでリンクさせることも可能です。
また、初期登録時に設定するストア名は仮のものでも登録できますが、顧客に見える名称なので早めにブランドに適した名称に変更しておきましょう。パスワードも日本Amazonとは異なる強固なものを設定し、セキュリティに留意してください。
税務情報の登録(W-8BEN-Eフォーム)
税務インタビューの実施
アカウント登録プロセスの一環で、米国税務情報の登録(オンライン税務インタビュー)が求められます。これは米国IRS(内国歳入庁)向けの納税者情報を届け出る手続きで、画面の案内に従って質問に答えていく形式です。日本法人を含む米国非居住者(Foreign Person)の場合、最終的にW-8BEN-Eフォームの提出となります。
W-8BEN-Eは「外国法人であること」を宣言し、米国内源泉所得に対する課税上の待遇(租税条約の適用など)を受けるための書式です。
オンラインでのW-8BEN-E提出方法
税務インタビューではまず事業形態や所在地など基本事項を入力します。システムが自動判定して、米国納税者にはW-9フォーム、非居住者にはW-8BEN(E)フォームが選択されます。日本法人であればW-8BEN-Eが表示されますので、フォーム上で法人名、住所、事業種別など必要項目を英語で入力してください。
租税条約に基づく米国源泉税の軽減措置(通常、日本法人はアメリカで事業を行わず恒久的施設がなければ源泉所得税0%)を受ける旨を選択・回答する設問があります。最後に画面下部までスクロールし、フォーム内容を確認の上で署名(Signature)欄にアルファベットで氏名を入力し、日付を設定します。
署名と日付を入力後、「Submit」(送信)をクリックすると電子署名が完了し、税務情報がAmazonに提出されます。紙のW-8BEN-E用紙を郵送する必要はなく、オンライン送信で手続き完了となります。
TIN(EIN)の重要性と源泉徴収
W-8BEN-Eのフォーム内に「TIN(納税者番号)」の入力欄があります。日本法人が米国でビジネスを行う場合、基本的にEIN(Employer Identification Number)と呼ばれるIRS発行の税務番号を取得しておくことが強く推奨されます。
EINは米国法人用の納税者識別番号ですが、海外法人でもIRSに申請して取得可能です。W-8BEN-EフォームでEINを記載しない場合、税務情報が不十分と見なされ30%の米国源泉徴収税が適用されるリスクがあります。実際、Amazonのシステム上もEIN未入力だとロイヤリティなど特定支払いに30%の預り控除が発生し得るため、日本法人でも事前にEINを取得しておく方が無難です。
EINはIRS国際課税部門に電話(英語)申請すれば即日発行されます。取得したEINはW-8BEN-Eの該当欄に入力してください。なお、日本の法人番号や法人マイナンバーは米国では納税者番号として認識されないため、米国TINを持たない場合は基本的に源泉税率30%が適用されてしまいます。
税務情報の更新と州税登録
提出したW-8BEN-Eフォームの有効期限は原則として提出から3年間です。Amazonから3年ごとに税務情報更新の案内が届くので、継続して販売する場合は期限前に新しい情報で更新手続きを行ってください。住所や事業形態に変更があった場合も、適宜セラーセントラル上で税務情報を更新する必要があります。
米国各州の売上税(消費税に相当)は、現在マーケットプレイス事業者による代理徴収制度(Marketplace Facilitator Law)が導入されており、Amazonが販売代金から自動で徴収・納税しています。したがって、日本法人がAmazon.comで販売する際、米国に支店や在庫拠点(FBA倉庫など)の実質的な営業拠点を持たない限り、州ごとに売上税IDを取得して税金設定をする必要は基本的にありません。
ただし、FBA在庫を米国内の倉庫に置く場合は各州で販売税の事業者登録義務が生じるケースもありますので、自社のビジネス形態に応じて税務アドバイザーに確認してください。
セラーセントラル内の初期設定
出荷設定の確認と選択
商品の配送方法(フルフィルメント方法)を検討します。
Fulfillment by Amazon(FBA)
在庫を予め米国Amazonの倉庫に送付し、注文が入ったらAmazonが保管・発送・カスタマーサービスを代行する方法です。FBAを利用すると商品にプライムマークが付き、米国内の配送も迅速になるため、顧客の信頼を得やすくなります。日本から米国への越境出品ではFBAの活用が一般的で、配送の手間や顧客対応負担を大きく軽減できます。
自社出荷(MFN: Merchant Fulfilled Network)
在庫を自社(日本国内や独自の倉庫)で管理し、注文ごとに自分で国際発送する方法です。配達期間が長くなる傾向があるため、商品競争力や送料設定に注意が必要です。
自社出荷を選ぶ場合、セラーセントラルの「配送設定(Shipping Settings)」で配送元住所・配送地域・配達日数などを適切に設定しましょう。たとえば主要出荷元住所を日本の所在地に設定し、標準配送に要する日数(Handling TimeやTransit Time)を長めに設定するなど、現実的な配送日数を反映させます。
出荷元住所の登録
セラーセントラルの「設定 > 配送設定 > 一般設定」でPrimary Shipping Address(主な出荷元住所)を登録します。FBA利用時も一応登録が必要です(納品元住所として参照されます)。日本から直接発送する場合は自社倉庫や事務所の住所をローマ字で入力します。
配送ポリシーの確認
Amazonでは基本的なカスタマーサービス基準が定められており、出荷遅延や未達はアカウントヘルスに影響します。セラーセントラルの「設定 > 配送設定」で出荷作業日数(Handling Time)や注文締め時間を確認し、自社のオペレーションに合わせて調整します。また出荷方法ごとに返品ポリシーや追跡番号のアップロード要件も確認しましょう。
米国マーケットプレイスでは購入者からの返品依頼に迅速に対応することが求められるため、返品ポリシー設定が適切か(返品を受け付ける期間や条件の設定など)もチェックします。
支払い受取口座の設定
登録時に入力した銀行口座情報について、再度「Deposit Methods(入金方法)」の設定を確認します。セラーセントラルの「Settings > Account Info > Deposit Methods」を開き、正しい口座が登録されているか確認してください。必要に応じて複数の国の口座を追加することも可能です。
たとえば米ドル建てで受け取りたい場合はPSP経由で取得した米国口座を、円建てで受け取りたい場合は日本の銀行口座を登録できます。Amazonは現在、日本を含む世界多数の国の銀行送金に対応しています。
口座設定時の注意点
登録した口座がAmazonの出品者用口座ポリシーに沿ったものであることを確認しましょう。第三者名義の口座や確認不能な海外口座は利用できません。PSPを利用する場合はAmazon公認のサービス(Payoneer、WorldFirst、Wise等)に限ります。
売上の振込サイクル(通常14日ごと)の直前に口座情報を変更すると、セキュリティ上の理由で一時保留が発生する場合があります。変更後しばらくは入金タイミングに注意してください。
その他の初期設定
出品者プロフィールの設定
セラーセントラルの「出品者情報」画面で表示名や出品者紹介文、ロゴ画像などを設定できます。特にブランドイメージを伝えるために可能な範囲で情報を充実させましょう。日本法人の場合、所在地国が表示されることがありますが、信頼醸成のためにも丁寧なプロフィールを心がけます。
通知設定
「設定 > 出品用アカウント情報 > 通知設定」から各種Eメール通知の受信先を確認します。注文通知や在庫アラートは見逃さないよう主要担当者のメールに送られるようにしてください。
ユーザー権限
複数担当者で運用する場合、「ユーザー権限」で追加ユーザーを招待し、適切な権限範囲を付与します。日本のスタッフが操作する際は、セラーセントラルの表示言語を日本語に切替えて利用することも可能です。
レポートのタイムゾーン
必要に応じてビジネスレポート等のタイムゾーンを日本時間に変更できます(初期値は米国太平洋時間)。
よくあるエラーと審査落ち事例
書類不備・情報不一致
提出書類の氏名・住所・法人名などが、登録フォームに入力した情報と少しでも食い違っていると審査に落ちる原因になります。たとえば、法人名の英字表記に余計なピリオドやスペースが入っていた、担当者の氏名のつづりがパスポートと一字違っていた、住所の番地表記ゆれがあった等のケースです。
対策: 登録前に書類の記載どおり正確に転記したか再確認し、可能であれば法人証明書類や身分証のコピーと照合してミスを防ぎます。
提出書類の品質不備
アップロードした書類の画像が不鮮明だったり一部が欠けている場合、再提出を求められ審査が遅れます。白黒でスキャンしたりスクリーンショットを貼り付けた画像はAmazonの要件を満たしません。
対策: スマートフォンやスキャナーでカラー撮影し、四隅まで写ったPDFまたはJPEG画像を用意します。ファイル名に記号(&、#、%等)を含めないよう注意し、アップロード前に文字の判読性をチェックしてください。
本人確認書類の不適合
マイナンバーカードは受付不可です。また、有効期限切れのパスポート・運転免許証や、住所記載のない身分証(社員証など)は認められません。
対策: 必ず有効な政府発行IDを使い、在留カード等を使う場合も氏名英字表記があるか確認すること。提出後に「書類不承認」となった場合は理由を確認し、速やかに別書類を再提出します。
法人登記情報の確認不足
日本法人の場合、登記簿謄本の住所と実際の事業所住所が異なるケースに注意が必要です。Amazonは原則登記上の本店所在地で確認を行うため、登記住所で登録しないと「事業実体の証明ができない」と判断される恐れがあります。
対策: 登記簿上の住所で登録し、本社とは別の倉庫から出荷する場合でも登録住所は変更しないようにします。どうしても事業所住所で登録したい場合、追加資料(公共料金請求書など事業所住所が載った書類)を求められる可能性があります。
銀行口座名義の不一致
売上振込先の口座名義が出品者(法人名または担当者名)と異なると、Amazonから修正要求が来たり振込エラーになります。日本法人であれば法人名義の日本口座か、担当者個人名義でも事前にAmazonに登録した担当者氏名と一致していれば基本問題ありません。
対策: 可能な限り法人名義の口座を使用し、PSP利用時も法人アカウントとして開設すること。万一個人名義口座を使う際は、担当者情報にその人の氏名を正確に登録しておきます。
クレジットカード認証の失敗
登録直後または初売上時に、Amazonからクレジットカードに小額のオーソリ(認証)がかかります。ここで登録カードが利用不可(限度額超過や海外利用制限、カード情報の誤入力など)だとアカウントが一時保留になります。
対策: 法人カードの場合はあらかじめ海外利用を許可し、限度額も十分か確認。入力ミスがないようカード番号や有効期限を再チェックします。万一カードが拒否されたら別のカードに速やかに切り替えてください。
追加資料要求への未対応
Amazonから「さらに追加の書類を提出してください」というメールが来た場合、指定期間内に対応しないとアカウント登録が拒否されます。例えば担当者と法人の関係を証明する書類(在職証明や委任状など)が要求されることがあります。これは、登録担当者が法人の代表者でない場合によく発生します。
対策: 要求が来たら、社員証明として直近の給与明細や会社発行の在職証明書、代表者署名の委任状等を速やかに提出します。あらかじめ準備しておくと慌てず対応できます。
ビデオ審査への対応
書類提出後、場合によってはビデオ通話による本人確認(ライブ認証)が求められることがあります。指定された日時にビデオチャットで担当者本人がパスポート等を提示し、質問に答える流れです。英語で行われる可能性もあります。
対策: ウェブカメラ付きPCやスマホを用意し、静かな環境で時間厳守で参加します。パスポートの現物と、その場で受け答えできる最低限の英語(または通訳手段)を準備してください。ビデオ認証を完了すれば最終審査に進みます。
まとめ
日本企業がAmazon.comで販売を開始するには、法人情報の正確な準備、本人確認書類の適切な提出、W-8BEN-E税務登録の完了、そしてセラーセントラルの初期設定が必要です。特に書類の記載内容と登録情報の一致、EIN取得による源泉徴収リスクの回避、配送方法の適切な選択がアカウント開設成功のカギとなります。
審査落ちの主な原因は情報不一致や書類品質の問題であるため、提出前の入念なチェックが重要です。英語対応や税務手続きに不安がある場合は、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。
本記事で解説した手順を参考に、米国Amazon市場への第一歩を確実に踏み出してください。
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