はじめに:なぜImporter of Recordの理解が米国FBA販売の成否を分けるのか
海外から米国のAmazon FBA倉庫へ商品を納品する際、多くの販売者が見落としがちな重要事項があります。それが「Importer of Record(IOR / 輸入者)」の責任です。
米国税関法では、輸入貨物に対して必ず法的責任者を定める必要があります。しかしAmazonは明確に「FBA在庫の輸入者にはならない」と宣言しており、すべての輸入手続き責任は販売者側に集中します。この事実を理解せずに納品を試みると、税関での差し止め、高額な保管料、最悪の場合は貨物の廃棄処分というリスクに直面する可能性があります。
本記事では、Importer of Recordの法的定義から、Amazonがその役割を引き受けない理由、販売者が具体的に負うべき責任、そしてトラブルを避けるための実務対応まで体系的に解説します。
Importer of Recordとは何か:米国輸入における法的責任者の定義
米国税関法が定める輸入者の要件
Importer of Record(IOR)とは、米国関税法(19 U.S.C. §1484)において定められた「輸入貨物の法的責任者」を指します。この輸入者は、貨物の所有者や購入者、またはそれらから正式に委任を受けた通関業者でなければなりません。
重要なのは、貨物の実質的な所有権を持たない第三者は法的にIORとなる資格がないという点です。つまり、単なる保管・配送代行業者であるAmazonのようなフルフィルメント事業者は、構造的にIORになることができません。
IORが負う3つの主要責務
Importer of Recordには以下の重要な責務があります。
1. 税関への輸入申告と書類提出
IORは米国税関・国境警備局(CBP)への正式な輸入申告を行い、貨物の内容、価値、分類(HSコード)、原産国などの情報を正確に提出する義務があります。税関フォーム7501やコマーシャルインボイスなどの書類の正確性について、最終的な責任を負うのがIORです。
CBPに対して合理的な注意(reasonable care)をもって情報を提供しなければならず、虚偽申告や重大な誤りがあれば違約金や制裁の対象となります。
2. 関税・税金の納付責任
輸入関税、消費税などあらゆる輸入時の税金・手数料を納付する責任はIORにあります。税関申告後に確定した関税額や税金を期限までに支払う義務があり、CBPは最終的な納税義務者としてIORを認識しています。
たとえ通関業者に手続きを委託していても、申告内容の正確さや税金の納付責任は輸入者本人に帰属します。
3. 関連法規の遵守(税関・連邦機関)
IORは輸入品がすべての適用法規に準拠していることを保証する義務があります。ここには税関法だけでなく、FDA(食品医薬品局)、EPA(環境保護庁)、USDA(米国農務省)などのパートナー政府機関(PGA)の規制も含まれます。
具体的には、輸入品が米国で輸入・販売可能であることの確認、必要な許可証や認可の取得、輸入禁止品や制限品でないことの確認などが求められます。これらを怠ると貨物の差し止め、没収、廃棄、さらには違反金のリスクがあります。
なぜAmazonはImporter of Recordにならないのか
Amazonの公式方針:明確なIOR拒否
Amazonは利用規約およびFBAガイドラインにおいて、「Amazon(およびそのフルフィルメントセンター)は、いかなるFBA在庫の出荷においても輸入者(Importer of Record)にはならない」と明言しています。
通関書類上のIOR欄に誤ってAmazonの名前を記載した場合、その貨物は税関でのエントリー(輸入手続き)が拒否され、発送元の費用負担で返送される可能性があります。つまりAmazonをIORに指定した状態ではFBA倉庫に納品できない仕組みです。
Amazonがリスクを負わない合理的理由
AmazonがIORを引き受けない理由は、法的責任とビジネスリスクを回避するためです。
第三者販売者の商品に対し、Amazonは単なる保管・配送代行業者であり貨物の所有者ではありません。米国法上も貨物の所有者や購入者でないAmazonが輸入手続きの主体となる義務はなく、輸入時の適法性や税金支払いに関するリスクをAmazonが負うことはビジネス上非常に不利です。
仮にAmazonがIORとなれば、以下のような負担が発生します:
- 各商品のFDA承認状況、有害物質規制適合性などの法令遵守チェック
- 通関申告書類の作成・提出や関税納付のための社内体制整備
- 法規違反や申告ミスがあった場合の法的責任(罰金や貨物没収時の対応)
- 多種多様な国・販売者からの商品すべてに対する合理的注意義務
DDP条件の強制:関税込み納品のみ受付
Amazonは輸入時の費用負担を完全に回避するため、FBA納品の配送条件を「Delivered Duty Paid(DDP / 関税・輸入税支払い済み)」に限定しています。
輸入時にかかる関税や消費税を事前に支払い、配送業者がAmazon(荷受人)に費用請求しない形で送る必要があります。Amazonは関税や税金の立替・徴収を一切行わず、未払い料金がある貨物が届いた場合は例外なく受取拒否となります。
荷受人であってもImporterではない
重要な区別として、Amazonは税関上の「荷受人(Ultimate Consignee)」にはなり得ても、「輸入者(Importer)」にはなりません。
通関書類上、配送先住所としてAmazon倉庫を記載すること(いわゆる”in care of (c/o) Amazon FBA”の形式)は可能で、その場合Amazonの連邦納税者番号(EIN)を通関業者が取得して申告に利用できます。
しかしAmazonは「PGA(連邦機関)上の輸入者/荷受人」にもなれないとされており、FDAなど他の機関への申請でもAmazon名義は使用できません。つまり通関上も各種規制上も、Amazonは単に貨物の最終配送先であって、法的な輸入手続き主体には一切ならないのです。
販売者がImporter of Recordとして負う具体的責任
誰が実際のIORとなるのか
AmazonがIORにならない以上、FBA在庫の輸入者となるのは販売者自身、または販売者から委任を受けた代理人です。Amazonは「出荷規模や金額に関わらず販売者(または提携フォワーダー等)がIORとして税関書類に記載されなければならない」と定めています。
具体的なパターンは以下の通りです:
米国内に拠点を持つ販売者
自社が貨物の購入者・所有者に当たるため、自社名義でIORとなります。自社の連邦税ID(EIN)で通関し、自ら税金支払いを行います。必要に応じてCustoms Bond(関税保証証券)を取得し、通関業者(Customs Broker)に代行を依頼しても最終責任は販売者にあります。
海外(非米国)在住の販売者
非居住者輸入者(Non-Resident Importer)として米国に貨物を送ることが可能です。この場合も基本的に販売者本人がIORですが、米国に住所や法人がなくても通関業者が取得する「輸入者番号(税関登録)」を用いて輸入できます。
多くの場合、販売者は米国内の通関業者や貨物フォワーダーに委任状(Power of Attorney)を提出し、代理で通関手続きを行ってもらいます。ただし通関業者は必要書類作成や税金納付を代行しますが、法的な輸入者としての責任は販売者に残ります。
サードパーティのIORサービス利用
物流業者が提供する「IOR代理サービス」を利用し、その企業を自社貨物の名目上の購入者/輸入者とするケースもあります。ただしこの場合でも販売者は貨物の実質所有者であり、最終的な商品責任や規制遵守責任から完全に逃れられるわけではありません。
販売者とAmazonの責任分担表
| 責務・手続き | 販売者(輸入者) | Amazon(FBA倉庫) |
|---|---|---|
| 通関書類の作成・提出(輸入申告) | ✔(販売者または委任先が実施) | ✖(関与しない) |
| HS分類や原産地申告など法令順守 | ✔(販売者が責任を負う) | ✖(関与しない) |
| 関税・輸入税の支払い | ✔(販売者が立替・納付) | ✖(関与しない) |
| FDA等の許認可取得・事前届出 | ✔(販売者が実施) | ✖(関与しない) |
| 輸入違反時の責任(罰金・廃棄処分等) | ✔(販売者が追及される) | ✖(責任負わない) |
| 税関での貨物引取り・国内配送手配 | ✔(販売者/代理人が実施) | ✖(関与しない) |
| 貨物の受領(納品先として保管) | ✖(通関後にAmazonへ配送) | ✔(倉庫で商品を受け取り保管) |
Amazonは納品先住所として貨物を受領する役割(Ultimate Consignee)は果たしますが、輸入プロセス上の申告・納税・許認可取得には一切関与しません。
通関手続きの具体的フロー
販売者は自力で、または通関業者・フォワーダーを利用して正確な通関手続きを行う必要があります。
商品説明や価格・数量の誤り、HSコードのミスなどがあれば税関から修正要求や貨物差し止めを受け、場合によっては罰金や納期遅延に繋がります。特に初めて輸入する販売者は、信頼できる通関業者に相談し、必要書類や手続きフローを事前に把握することが重要です。
FDA規制品など特殊商品の追加対応義務
FDA所管商品の輸入要件
商品がFDAなど他機関の規制対象である場合、販売者は輸入前に必要な登録や届出を済ませておく義務があります。
食品・サプリメントの場合、FDAへの施設登録や事前通知(Prior Notice)の提出が必要です。2017年施行の食品安全強化法(FSMA)に基づき、外国サプライヤー検証プログラム(FSVP)上の輸入業者(米国内代理人)を指定する義務も生じます。
医療機器や医薬品であれば、FDAの承認済み製品かどうか、適切なラベル表示かなどを確認しなければなりません。
Amazonは「第三者の商品が規制を満たしているか保証しない」姿勢であり、適合していない商品を納品しても税関やFDAで差し止められ廃棄処分となる可能性があります。
FSVP代理人の手配
食品輸入では、販売者側で米国内のFSVP代理人を手配する必要があります。AmazonはFSVP代理人の役割も担わないため、規制商品を扱う販売者は自社が輸入者としてFDA等の要求を全て満たしていることを証明しなければなりません。
IOR責任を怠った場合のリスクとペナルティ
税関での差し止め・強制返送
IOR責任を怠ると、様々な形で商品が受領されないリスクがあります。税関検査で書類不備や禁止品が見つかれば税関留保や強制送還となりますし、運よく通関しても Amazon倉庫で受領拒否される場合があります。
Amazon倉庫での受入拒否
Amazonは納品時に独自の受入チェックを行っており、事前の納品プランと大きく異なる荷姿や過剰重量パレットなどルール違反があれば受取拒否します。
また税関を通った後でも商品が米国の法律に適合しないことが判明すれば、Amazonは在庫を受け取らず返品・廃棄します。特に食品・医薬品・危険物などは許認可不足だとFDA指示で廃棄されるケースも考えられます。
未納関税による配送拒否
DDP条件を満たさず、未納の関税等が残った状態(例:DAP条件など)で貨物がAmazon倉庫に届くと、Amazonは受取を拒否します。
この結果、貨物は保税倉庫や配送業者で滞留し、保管料の発生や発送元への返送コストが販売者負担で発生することになります。
海外返品の不可能性
Amazonは受領されなかった在庫や保管中の商品を米国外に返送することはできません。Amazonから出庫(リムーブ)する際の送り先は米国内住所に限られます。
そのため海外在住の販売者がIOR責任を怠り商品が受領拒否されると、自国へ商品を戻すこともできず廃棄処分となる恐れがあります。回収したい場合は米国内の代理倉庫や知人住所を用意し、そこへ返品させる必要があります。
適切なIOR対応のための実務ガイド
信頼できる通関業者の選定
販売者は信頼できる通関業者やフォワーダーと連携し、自社商品が適切に米国輸入要件を満たした状態でFBAに届くよう管理することが不可欠です。
通関業者選定の際は、以下の点を確認しましょう:
- FBA納品の実績と専門知識があるか
- DDP条件での配送に対応できるか
- FDA規制品など特殊商品の取扱い経験があるか
- 透明な料金体系と追加費用の説明があるか
事前準備のチェックリスト
FBA納品前に以下を確認してください:
- 商品のHSコード分類が正確か
- 必要な許認可(FDA登録等)が完了しているか
- 関税・税金の見積もりと支払い方法が確定しているか
- 通関書類に販売者が正しいIORとして記載されているか
- DDP条件で配送契約が結ばれているか
継続的なコンプライアンス管理
一度輸入に成功しても、規制は変更される可能性があります。定期的に以下を確認しましょう:
- 輸入商品に関する規制変更の情報収集
- Customs Bondの更新(年次)
- FDA登録情報の更新(2年ごと)
- 通関業者との定期的なコミュニケーション
まとめ:IOR責任の理解がFBA成功の鍵
米国に商品を輸入してAmazon FBA倉庫へ納品する際、AmazonがImporter of Recordになることは法的にも実務的にもありません。したがって販売者自身がIORとしての責任を全うする必要があります。
IORは税関申告の提出や関税支払い、さらにFDA規制などあらゆる関連法令の遵守責任を負う重要な役割です。Amazonは公式に「IOR業務は引き受けない」と宣言しており、未納税の貨物やAmazon名義の申告は容赦なく拒否・返送されます。
特にFDA管轄商品等は輸入前の許認可準備を怠らず、全ての費用を前払いし、書類に自社を正しい輸入者として記載してください。AmazonがIORにならない以上、輸入コンプライアンスの成否は販売者の知識と準備にかかっていると言えるでしょう。
その責任を十分に理解し対策を講じることで、スムーズなFBA納品と米国ビジネスの成功につながります。

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