はじめに:米国Sales Tax対応が越境EC成功の鍵
米国市場への進出を検討する日本企業にとって、Sales Tax(売上税)への対応は避けて通れない課題です。日本の消費税とは異なり、米国では州ごとに税率や制度が異なるため、適切な理解と対応が求められます。
特にAmazonやShopifyといった主要ECプラットフォームでは、それぞれSales Taxの徴収・管理方法が大きく異なります。誤った対応は延滞金や罰則のリスクを招くため、プラットフォームごとの特性を理解した上で、適切な設定とコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。
本記事では、AmazonとShopifyにおけるSales Tax徴収の仕組み、具体的な設定手順、そして継続的なコンプライアンス対応まで、実務に必要な知識を包括的に解説します。
米国Sales Taxの基本:ネクサスと経済的ネクサスを理解する
Sales Taxとは何か
米国のSales Taxは州および地方自治体が課す税金で、連邦レベルの統一税率は存在しません。そのため、州ごとに税率、対象商品、免税規定が異なる複雑な制度となっています。
現在、45州とワシントンD.C.がSales Taxを課税しており、デラウェア、モンタナ、ニューハンプシャー、オレゴンには州消費税がありません。課税州では州税に加えて郡市レベルの地方税が上乗せされるケースも多く、税率は購入者の配送先住所によって細かく変動します。
ネクサス(課税関係)の種類
Sales Taxを徴収する義務が発生するには、事業者と州との間に「ネクサス」と呼ばれる関係性が必要です。ネクサスには主に2種類があります。
**物理的ネクサス(Physical Nexus)**は、州内にオフィス、店舗、在庫(倉庫)、従業員などの物理的拠点がある場合に発生します。例えば、Amazon FBAを利用してカリフォルニア州の倉庫に在庫を置く場合、その州で物理的ネクサスが認められ、Sales Tax徴収義務が生じます。
**経済的ネクサス(Economic Nexus)**は、2018年の米国連邦最高裁判決「South Dakota vs. Wayfair」を契機に各州で導入された制度です。州内の売上高や取引件数が州法で定める閾値を超える場合に発生し、物理的拠点がなくてもSales Tax徴収義務が生じます。
典型的な基準は年間売上高10万ドル超または200件以上の取引ですが、州によって異なります。例えばフロリダ州は10万ドル、カリフォルニア州は50万ドルといった具合です。現在、売上税のある全ての州が経済的ネクサスの制度を導入しているため、日本からの通販事業者であっても一定規模以上の販売を行えば、該当州での税務登録とSales Tax徴収が求められます。
AmazonにおけるSales Tax徴収の仕組み
Marketplace Facilitator法による自動徴収
Amazonでは、2018年のWayfair裁定後に各州が制定した「Marketplace Facilitator法」により、プラットフォーム運営者が第三者セラーに代わってSales Taxを徴収・納付する義務を負っています。
2025年現在、売上税を課す全ての州でMarketplace Facilitator法が施行されており、Amazonはほぼ全米の州でセラーの商品販売に伴うSales Taxを自動計算・徴収・州政府への納付まで代行しています。これにより、基本的にセラーはAmazon上の取引について個別にSales Taxを徴収する必要がありません。
Amazonの徴収プロセス
購入者がAmazonで商品を注文する際、Amazonのシステムが購入者の配送先住所に基づき適切な州税・地方税率を自動計算し、注文時に一括して税額を徴収します。徴収された税金はAmazonが各州へ代理納税(remit)するため、セラー自身がその取引について州に納税する手間は原則発生しません。
Amazonでは税金計算サービス料として取引額の2.9%を課していますが、これはAmazonが税金計算・代行納付するためのコストです。
セラー側の対応事項
Amazon任せで良いとはいえ、セラー側にも重要な対応事項があります。
商品の税区分(Product Tax Code)設定が特に重要です。食料品や衣類など州によって非課税または軽減税率となるカテゴリの商品を扱う場合、セラーが商品ごとに適切な税コードを設定しなければなりません。設定を誤ると、本来非課税の州で税金を請求してしまう不具合が起こり得ます。
また、州によってはAmazon経由の売上であってもセラーの事業として売上申告を求める場合があります。例えばミズーリ州やネブラスカ州では、マーケットプレイスが税を代行納付していてもセラーは州に事業者登録を行い、自分の州内売上を申告する義務があります。
ShopifyにおけるSales Tax徴収の方法
セラー自身が主体となる税務対応
Shopifyは自社オンラインストアを構築できるECプラットフォームであり、法律上「Marketplace Facilitator(販売仲介事業者)」に該当しません。そのため、税の自動徴収・納付が義務付けられておらず、Shopify上のストアで発生する販売については、各ショップの事業者が販売者となり、Sales Taxの徴収・納税義務もショップ運営者自身にあります。
Shopifyは税計算やレポート作成などの支援ツールは提供しますが、代行して税金を納めてはくれません。セラー自身がどの州にネクサスを有し、どの州で税を徴収すべきかを判断して設定し、税務当局への申告・納税も自ら行う責任があります。
Shopify Taxによる計算支援
Shopifyは2022~2023年頃から「Shopify Tax」と呼ばれる新しい税計算エンジンを導入しました。これは各顧客の配送先住所や購入商品に基づき、最新かつ詳細な税率(州税+地方税)を自動適用するもので、適用税率の精度が向上しています。
また、各州での売上額を集計し、経済的ネクサスの閾値に近づいた際に警告する「Liability Insights」機能も提供され、セラーがどの州で新たに徴収義務が生じそうか把握しやすくなっています。
Shopify Tax機能自体は全プランで利用可能ですが、年間米国売上10万ドルまで無料で、それを超えると超過分に対して0.35%の課金が発生します。ただし、これはあくまで「計算サービス料」であり、納税代行までは含まれない点に留意が必要です。
例外:Shopアプリ経由の注文
例外的に、Shopifyが提供する消費者向けショッピングアプリ「Shop」経由の注文に関しては、2025年1月以降ShopifyがマーケットプレイスファシリテーターとしてSales Taxの自動徴収・納付を行う措置が開始されました。ただし、この仕組みはShopアプリ内で完結する注文に限られ、通常のShopifyストアのチェックアウトでは適用されません。
AmazonとShopifyの決定的な違い
徴収の自動化レベルと責任範囲
AmazonではMarketplace Facilitator法により税金の計算・徴収・納付が自動化されており、セラーは税額を追加請求したり顧客から回収したりする必要がありません。一方、Shopifyではセラー自身が能動的に設定を行って初めて税金が徴収されます。
設定を怠れば税抜価格のまま販売が行われ、後からセラーが自腹で税相当額を納める潜在的リスクが生じます。つまり、Amazonはプラットフォーム側で税コンプライアンスがある程度保証されますが、Shopifyはセラーの設定と管理次第という違いがあります。
法的納税義務者の違い
Amazon上の販売ではAmazonが法的な納税義務者となり、セラーはあくまでAmazonにサービス利用料を支払っている立場です。一方、Shopifyではセラー自身が売上発生主体かつ納税義務者となります。
この違いは、税務監査(Audit)が行われた場合の対応にも影響します。Amazon販売分については基本的にAmazonが各州に納税しているため、監査での指摘はAmazon側になります。しかしShopify販売分については州税務当局はセラー自身に登録情報や申告内容の確認を求め、不備があれば直接セラーに追徴や罰則を科します。
コストと手間のトレードオフ
Amazonの税計算サービス料は約2.9%とShopifyの0.35%(10万ドル超の部分)より高額ですが、Amazonはその対価として納税まで代行しています。Shopifyでは計算のみ提供で納税作業は自前となるため、料金水準だけでは比較できません。
大量の取引がある事業者では、Amazonの自動徴収は手数料が割高でも人的コスト削減効果が高い一方、Shopifyでは手数料は低いものの納税・申告業務の内部コストを別途考慮する必要があります。
具体的な設定手順
Amazon Seller Centralでの設定
- ネクサス州の確認:FBA在庫のある州や売上高が閾値超過の州を特定
- 税務登録:必要な州でSales Tax許可証を取得し、登録番号を取得
- Tax設定画面を開く:Seller Central「Settings」→「Tax Settings」
- 商品税コード設定:非課税品目や軽減税率品目に適切な税コードを設定
- ネクサス州の追加:州を選択しSales Tax ID(許可証番号)を入力
- 保存とテスト:設定を保存し、税務レポートで正しく計上されているか確認
Shopify管理画面での設定
- ネクサス州の確認と許可証取得:物理的・経済的ネクサス州を特定し許可証を取得
- 税設定画面:Shopify管理画面「Settings」→「Taxes and Duties」
- 税徴収する州の追加:「Collect sales tax」から徴収したい州を追加
- 登録番号の入力:各州のSales Tax許可証番号を入力
- 保存と確認:設定を保存し、テスト注文で税込価格表示を確認
- 商品カテゴリ設定:非課税品目がある場合は適切なカテゴリを設定
コンプライアンス対応のポイント
税務登録の重要性
各州でSales Taxを徴収・納税するには事前にその州の税務当局に事業者登録し許可証を取得することが法的に必要です。経済的ネクサス閾値を超過した場合や物理的プレゼンスが発生した場合、速やかに各州へ登録申請を行いましょう。
海外事業者(日本法人等)でも多くの州でオンライン登録が可能で、連邦納税者番号(EIN)が求められるケースではIRSにてEINを取得して対応します。無登録のまま税を徴収・納付することは法律違反となるため、ネクサスが判明したらまず登録という手順を踏んでください。
定期的な申告と納付
登録を行うと、各州税務当局から申告・納付の頻度(毎月・四半期・年次など)が指定されます。指定されたスケジュールに従い、申告期限までにSales Tax Return(売上税申告書)を提出し、徴収済み税額を納付します。
期日までに申告・納税を怠ると延滞金や罰則が科されるため、州ごとの締日・支払方法を把握し、確実に履行してください。
専門ツールの活用
米国の州別Sales Tax管理は煩雑なため、専用の管理ツールやサービスの活用が有用です。代表的なものにAvalaraやTaxJar、TaxCloud等があります。
AvalaraやTaxJarは各販売チャネル(Amazon、Shopify、その他EC)と連携して取引データを収集し、州ごとの税計算・申告書作成を自動化できます。実際、Shopifyの大規模セラーの多くはこれらのツールを利用して閾値監視やマルチチャネルの税額集計を自動化しています。
有料ではありますが、税務ミスによる罰金リスク低減や作業工数削減のメリットを考えると、一定の売上規模に達した事業者には導入が検討されます。
最新情報のキャッチアップ
米国のSales Tax法規制は各州で毎年のように改正・調整が行われます。取引件数による閾値撤廃や新たな免税措置の導入など変化があるため、各州税務局の公式サイトや信頼できる税務ブログを定期的にチェックし、最新情報を収集しましょう。
必要に応じて税理士や米国Sales Tax専門のコンサルタントに相談し、コンプライアンス態勢をアップデートしていくことも大切です。
まとめ:プラットフォームの特性を理解した戦略的対応を
米国でのEC販売において、AmazonとShopifyではSales Tax対応の責任範囲が大きく異なります。
Amazonではマーケットプレイスによる自動徴収によりセラーの負担は軽減されますが、完全に「丸投げ」で済むわけではなく、商品設定や一部州での登録義務など対応すべき事項があります。一方、Shopifyではセラー自身が能動的に税務対応を担う必要があり、成長に伴い管理すべき範囲も広がります。
両プラットフォームの違いを正しく理解し、適切な設定とコンプライアンス対応を行うことで、米国各州でのSales Taxを確実に履行し、ビジネスの安定した拡大を図りましょう。各種公式リソースや専門ツールもうまく活用し、最新の制度変更にも対応できる体制づくりを心がけてください。
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