アメリカ匿名LLC設立ガイド|州別比較と2025年最新規制動向

米国税制情報

アメリカでビジネスを展開する際、プライバシー保護を重視して法人を設立したいと考える経営者は少なくありません。特に個人情報の公開を最小限に抑えたい場合、どの州でどのような形態(LLCまたはC-Corp)を選ぶべきかは重要な判断となります。

本記事では、アメリカにおける匿名LLC・C-Corp設立の可否について、州ごとの登記情報公開範囲を比較し、連邦法の最新動向や匿名性確保のための実務的手法まで包括的に解説します。デラウェア州、ワイオミング州、ニューメキシコ州、ネバダ州の4州を中心に、それぞれのプライバシー保護の特徴と限界を明らかにしていきます。


州別登記情報公開範囲の徹底比較

アメリカでは連邦制の特性上、法人設立に関する規制は各州が独自に定めています。そのため州によって公開される情報の範囲は大きく異なり、プライバシー保護に配慮した州とそうでない州が存在します。

デラウェア州:LLCは匿名性が高いがC-Corpは要注意

デラウェア州は企業設立のメッカとして知られ、Fortune 500企業の多くがここで法人登記を行っています。プライバシー保護の観点から見ると、LLCとC-Corpで大きな違いがあります。

LLCの場合、設立書類である定款(Certificate of Formation)に出資者や経営者の氏名を記載する必要がありません。公開記録に載るのは会社名と登録代理人の住所のみで、メンバー(出資者)やマネージャーの名前は一切公開されません。さらに年間報告義務もなく、毎年定額のフランチャイズ税300ドルを納付するだけで維持できます。

一方C-Corpの場合、設立時は発起人や登録代理人のみ記載すれば足りますが、毎年の年次フランチャイズ報告書で全取締役の氏名・住所および最低1名の役員の氏名・住所を州に報告しなければなりません。この報告書はデラウェア州務長官に提出される公的書類であり、誰でも入手可能です。株主の氏名・住所については州への開示義務がなく公開されませんが、取締役については匿名性を維持できません。

ワイオミング州:LLCの完全匿名が可能

ワイオミング州は1977年にアメリカで初めてLLC法を制定した州として知られ、プライバシー保護に積極的です。

LLCの場合、設立時の公開記録にメンバーやマネージャーの氏名は不要で、登録代理人の情報のみ記載します。提出書類の署名者(オーガナイザー)の名前は載りますが、多くの場合代理業者が務めるため本人の名前を出さずに済みます。毎年の年次報告は必要ですが、資産総額など最低限の情報のみ提出すればよく、所有者や経営者の氏名は報告不要です。

C-Corpの場合、初年度の設立段階では取締役や役員の氏名提出は不要ですが、初回の年次報告提出時に少なくとも1名の取締役または役員の氏名を州に届け出る義務があり、これが公的記録となります。匿名性を維持するには代理取締役(Nominee Director)サービスの利用が必要になります。

ニューメキシコ州:究極の匿名LLC州

ニューメキシコ州は完全な匿名LLCが可能な州として注目を集めています。

LLCの場合、設立書類にメンバーやマネージャーの氏名・住所を記載する必要がなく、登録代理人と発起人の情報のみ提出します。最大の特徴は、ニューメキシコ州にはLLCの定期報告義務が一切ないことです。設立後もオーナー情報が州に提出・公開されることはなく、州政府ですらLLCの所有者を把握しない仕組みとなっています。

C-Corpの場合、設立時から取締役の氏名・住所を定款に記載する義務があり、初期段階で公開情報となります。さらに株式会社は2年ごとに州に取締役・役員の氏名住所を含む定期報告を提出しなければなりません。したがってC-Corpについては匿名性は低く、役員情報が州の公的記録として閲覧可能です。

ネバダ州:表向きは匿名だが州が内部情報を把握

ネバダ州もプライバシーに積極的と宣伝されていますが、実態は他州と異なる側面があります。

LLCの場合、設立時はメンバー(所有者)の氏名を出さずに済みますが、30日以内に初回役員/マネージャー名簿を提出し、以降も毎年役員またはLLCマネージャーのリストを州に提出する義務があります。このリスト自体は一般にネット上で直接検索できないものの、州政府には記録として保管されます。つまりネバダ州は表向き所有者名を公開しないものの、州が内部的に役員・管理者情報を把握する仕組みです。

C-Corpの場合、設立直後から株式会社は取締役および役員の氏名を含む初回リストを州に提出し、その後も毎年更新する必要があります。提出された役員情報は州に記録され、一部は州のオンライン検索システム等で参照可能なため、オーナーが自身が取締役等になっている場合匿名性を保てません。


連邦法によるプライバシー規制の変遷

州レベルで匿名性を確保できても、連邦レベルの法律によって法人の最終受益者情報の報告義務が課される可能性があります。

Corporate Transparency Act(CTA)とは

2021年に成立したCorporate Transparency Actは、マネーロンダリングやテロ資金対策を目的として、法人の実質的支配者情報の透明性を高める法律です。2024年1月1日から、多くの企業(LLCや株式会社など)はFinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)への実質的支配者情報の提出が求められることになりました。

報告対象となる「実質的支配者」とは、会社を実質的に支配する個人や25%以上の持分を直接・間接に保有する個人を指し、氏名・住所・身分証情報などをFinCENに届け出る必要がありました。

重要な点として、FinCENに報告された実質的支配者情報は一般には非公開で、法執行機関や金融機関等の限定された権限ある機関のみがアクセスできるものでした。

2025年3月の規制撤回とその影響

しかしCTA施行を巡っては憲法上の異議が唱えられました。小規模事業者団体などは「連邦政府が州の会社設立情報を強制的に収集するのは州の主権侵害だ」として提訴し、テキサス州の連邦地裁がCTAの全国的な差し止め命令を出す事態となりました。

これを受け財務省・FinCENは2025年3月21日付の暫定最終規則で、米国内企業に対するBOI(Beneficial Ownership Information)報告義務を撤回しました。この規則改正により、現在は米国で設立されたLLCや株式会社などの国内企業はFinCENへの実質的支配者報告を免除され、CTAの報告対象は外国で設立され米国で事業登録した法人に限定されています。

つまり2025年3月以降、純粋な国内企業についてはFinCENへの実質的支配者届出義務は一旦なくなった状況です。

将来的な規制動向への注意

もっとも、この撤回措置は暫定規則であり最終決定ではありません。今後規則の本制定に向けた議論や情勢の変化で再度義務付けられる可能性もあります。したがって、匿名で法人を設立できる州であっても、将来的に連邦法により実質所有者の当局への報告義務が復活・強化される可能性は留意すべきです。


匿名性確保のための実務的手法

匿名での法人設立を実現するには、専門の登記代行サービスや登録代理人サービスの利用が欠かせません。

登録代理人と代理申請の活用

各州では法人設立に際し、その州内に住所を持つ登録代理人を指定する必要があります。匿名を望む場合、自身で登記申請せず代行業者を登録代理人兼発起人(オーガナイザー)に立てて設立書類を提出します。こうすることで公開記録に掲載されるのは代行業者の名前と住所のみとなり、依頼者本人の情報は表に出ません。

法人の主たる住所もサービス業者の住所を使うことで、自宅住所等の個人情報を隠すことができます。

年次報告・維持手続の代理

州によっては年次または定期報告の提出時に署名者の氏名が公開情報になるケースがあります。匿名サービス業者は年次報告の代理提出も請け負っており、依頼者の代わりに担当者が署名・提出することで依頼者の氏名を公記録に残さないようにしてくれます。

州からの郵便物や通知も代理人経由で受領・転送されるため、依頼者の個人住所が表面化するリスクも低減します。

代理役員・名義株主(Nominee)サービス

特にC-Corpでは取締役や役員の氏名公開が避けられませんが、サービス業者が名目上の取締役等を一時的に務める「Nomineeサービス」を提供している場合があります。このような代理役員は法律上の要件充足のために名目上就任するもので、実際の会社経営には関与しません。

弁護士経由でこのサービスを利用すれば、弁護士-依頼人間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)が適用され、依頼者情報の秘匿性を一層高めることも可能です。

匿名性の限界と合法性

多くの州法では登録代理人に対し、法人の「指定連絡先(Designated Contact)」情報を把握・保持する義務を課しています。この情報は公開こそされませんが、法執行機関や州当局が請求した場合には開示しなければなりません。

従って匿名サービスを利用しても、違法行為の追及など正当な目的では結局身元が明らかになる可能性がある点に注意が必要です。実際、銀行の口座開設や訴訟になれば裁判所命令で開示を求められるケースもあります。

またサービス業者側も利用規約で不法・不正目的での法人利用は禁止しており、疑わしい場合はサービス提供を打ち切る姿勢を示しています。匿名法人サービスは合法的なプライバシー保護手段であり、違法行為の隠れ蓑に使われることを望んでいないためです。


LLCとC-Corpにおける匿名性の比較

LLCとC-Corp(株式会社)のどちらが匿名性に優れるかについて、明確な傾向があります。

LLCの匿名性の優位性

一般的にはLLCの方が匿名性を確保しやすい傾向にあります。多くの州(デラウェア、ワイオミング、ニューメキシコ等)では、LLC設立時に所有者(メンバー)の氏名を登録・公開する必要がありません。

運営協定(Operating Agreement)も内部文書であり州に提出しないため、誰が出資者・経営者か公的に漏れることはありません。さらにデラウェアやニューメキシコのようにLLCの年次報告が不要な州では、設立後も一切オーナー情報を公にしないまま維持可能です。

C-Corpの匿名性の課題

株式会社の場合、法律上の管理責任が取締役会にあるため、多くの州で取締役や役員の氏名提出が義務付けられており、LLCに比べて匿名性は劣ります。

例えばデラウェアでは毎年全取締役の氏名・住所を年次報告書で公開しなければならず、「株式会社では匿名性が完全には守られない」というのが定説です。ワイオミングやネバダでも結局は役員名を州に届け出る必要がある点は共通しています。

ただし、株主(所有者)としての名前自体は州に登録しないため、最終所有者は取締役に就任しない限り表から見えないという側面もあります。信頼できる代理人を取締役に据えることで、株式会社であっても真のオーナーが直接公記録に現れないよう工夫することは可能です。

複数州を活用した匿名化スキーム

事業内容や出資者構成によっては株式会社形態が必要な場合もあります。その際は複数州にまたがる持株会社スキーム(例えば匿名性の高い州でLLCの持株会社を作り、別の州の事業会社をそのLLC傘下に置く)などで間接的に匿名性を確保する方法も検討されます。


銀行口座開設とKYC規制の影響

州の登記記録上匿名でも、銀行口座開設時の顧客身元確認(KYC)規制により、銀行が法人の実質所有者を確認する義務があります。たとえ州の登記記録上匿名でも、銀行で口座を作る際には最終受益者情報を提示しなければならないため、金融機関相手には匿名性は通用しません。

これは金融機関がマネーロンダリング対策として、取引先の実質的所有者を把握することが法律で義務付けられているためです。したがって、完全な匿名性を維持しながらアメリカでビジネスを行うことは事実上困難と言えます。


信頼できるサービス業者の選び方

匿名設立サービスを利用する際は、実績があり評判の良い登録代理人業者や法律事務所を選ぶことが大切です。

長年の経験と透明な料金体系を持つ業者が安心でしょう。例えばデラウェアのHarvard Business Services社、ワイオミングのWyoming Corporate Services社、あるいは全米展開するNorthwest Registered Agent社などが知られています。

弁護士が関与するサービスであれば法律専門知識に裏打ちされた適法な範囲での匿名維持が期待できます。料金が異常に安価だったり連絡先が不明瞭な業者は避け、サービス内容(代理人としてどこまで情報を隠してくれるか、年次報告代行や住所貸与の有無など)を十分確認することが重要です。


まとめ

アメリカでは特定の州を選び適切な代行サービスを活用すればLLCについては高い匿名性を実現可能ですが、完全な匿名を永続的に保証するものではありません。

デラウェア州、ワイオミング州、ニューメキシコ州はLLCの匿名性確保に適していますが、それぞれ年次報告義務や役員情報の取り扱いに違いがあります。特にニューメキシコ州は定期報告義務が一切なく、最も高い匿名性を提供しています。

一方C-Corpは取締役情報の開示義務があるため、LLCに比べて匿名性は劣ります。ただし代理取締役サービスや持株会社スキームを活用することで、ある程度の匿名性確保は可能です。

2025年3月のCTA報告義務撤回により、現在は国内企業のFinCEN報告は不要ですが、将来的な規制変更の可能性には注意が必要です。また銀行口座開設時のKYC規制により、金融機関には実質所有者情報を開示する必要がある点も理解しておくべきです。

匿名法人設立は合法的なプライバシー保護手段ですが、違法行為の追及時には情報開示が求められます。法遵守の範囲でプライバシーを確保する工夫が求められると言えるでしょう。

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