アメリカ向け越境ECで課税される3つの税金
アメリカ向け越境EC事業を展開する日本企業にとって、税務対応は避けて通れない重要課題です。米国の複雑な税制度において、主に考慮すべき税金は「Sales Tax(州売上税)」「連邦税」「関税」の3つに分類されます。2018年のWayfair判決以降、州売上税の徴収義務が大幅に拡大し、さらに2025年8月には関税制度の根本的変更が実施されるなど、制度変更が相次いでいます。
これらの税制を正確に理解し適切に対応することは、コンプライアンスリスクの回避だけでなく、事業の収益性確保にも直結します。本記事では、各税制の仕組み、課税条件、免税要件、実務対応まで体系的に解説します。
Sales Tax(州売上税)の仕組みと対応方法
経済的nexusによる課税条件
Sales Taxは各州および地方自治体が課す消費税で、2018年の「South Dakota v. Wayfair」判決により劇的な変化を遂げました。従来は州内に物理的拠点がある場合のみ徴収義務が発生していましたが、現在は「経済的nexus」という概念により、一定の売上規模に達すれば物理的拠点がなくても徴収義務が生じます。
日本企業が米国消費者へインターネット販売を行う場合、販売先の各州で経済的nexusが成立すると売上税徴収義務が発生します。この基準は州ごとに異なりますが、多くの州では「前年度または直近期における当該州への売上高が一定額を超える」場合に成立します。
州ごとの税率と閾値の違い
アメリカの45州とワシントンD.C.が売上税制度を持ち、5州(ニューハンプシャー、オレゴン、モンタナ、アラスカ、デラウェア)は州レベルの売上税が存在しません。
経済的nexusの閾値は州により大きく異なります:
- 10万ドル基準の州:フロリダ州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州など
- 50万ドル基準の州:カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州など
税率も州や自治体により異なり、一般に州税率4~7%前後に地方税数%が上乗せされます。テキサス州では過去12か月のテキサス向け売上高が50万ドル超で経済的nexusが成立し、それ未満であれば税登録や徴収義務が免除される「セーフハーバー」規定が設けられています。
申告・納税の実務対応
売上税の徴収義務が生じた日本企業は、該当州の税務当局に販売業者登録(Sales Tax Permitの取得)を行い、定期的に売上税申告書を提出して税額を納付する必要があります。申告頻度は州や売上規模により異なり、売上規模が大きい場合は毎月、小規模なら四半期ごとや年1回となります。
マーケットプレイス(Amazonなど)経由の販売については、多くの州でマーケットプレイス事業者に売上税の代行徴収を義務付けており、販売者自身は当該州で登録・申告不要とする州もあります。しかし、自社サイトで直接米国消費者に販売し各州へ一定額以上配送している場合は、自ら各州に登録し税を徴収・納付する義務が生じます。
連邦税(Federal Tax)の課税要件
日米租税条約による免税条件
連邦税のうち越境EC事業に関連する主要なものは連邦法人所得税(税率21%)です。日本企業が米国向けに商品を販売して得た利益に対して連邦法人税が課されるかどうかは、米国内での事業拠点や活動の有無により判断されます。
日米租税条約上、米国に恒久的施設(PE:Permanent Establishment)がない場合、日本企業の事業利得は米国では非課税と定められています。日本から直接米国顧客に商品を発送する形態で、米国内にオフィスや社員を持たず、契約も日本国内で締結している場合は、通常その利益に米国課税は及びません。
恒久的施設(PE)の判定基準
租税条約では「補助的・準備的活動」に留まる行為はPEと見なさないと規定しています。日本企業が米国の物流倉庫を単に商品の保管・配送拠点として利用するだけで、そこで契約交渉や製造等を行っていない場合、それはPEに該当しないと解釈されます。
実際、日米条約の恒久的施設の定義では「自社商品の保管、展示、引渡しのみを行う施設」はPEから除外されているため、Amazon FBA倉庫等に在庫を置いて米国内配送をしていても、それだけでは直ちに連邦税の課税主体とはならないケースが多いです。
申告義務と納税手続き
日本企業が米国内で課税対象となる事業を行っている場合、毎事業年度ごとにForm 1120-F(外国法人所得税申告書)をIRSに提出する義務があります。その年に米国で事業を営んだ場合はたとえ所得がなくても(また条約で非課税であっても)申告が必要です。
これは租税条約の適用を主張するためにも申告が求められるためで、申告せず無視していると後日課税トラブルになる可能性があります。申告にあたっては連邦納税者番号(EIN)の取得が必要で、日本企業でもIRSに申請し発行を受けることができます。
関税制度の大幅変更と対応策
2025年8月のde minimis免税撤廃
関税において最も重要な変更が2025年8月29日に実施されました。従来、米国には1日あたり800ドル以下の少額輸入を非課税とする「de minimis免税」制度がありましたが、バイデン政権の大統領令14324号により、この免税制度が包括的に停止されました。
この変更により、従来免税だった800ドル以下の商品についても通常の関税率に基づき課税されることになり、越境EC事業者にとって大きなコスト増要因となっています。国際郵便や宅配便も含め、全ての低額輸入品が対象となります。
新しい関税課税の仕組み
de minimis免税撤廃後の課税方式は配送方法により異なります:
郵便(USPS)経由の場合:品目と原産国に応じ一律の追加関税(IEEPA関税)が課される簡易法が導入されました。例えば中国原産品であれば価値に対し所定の追加関税率で算出するか、1品目あたり80~200ドルの定額関税のいずれかを郵便事業者が選択して課税します。
民間宅配便(UPS、FedExなど)経由の場合:800ドル以下でも正規の輸入申告が必要になり、関税・MPF(Merchandise Processing Fee)を含めて納税することになります。
輸入通関の実務対応
関税の納付手続きは輸入通関のプロセス内で行われます。実務的には、国際配送業者や通関ブローカーが輸入者の代理として税関に申告し、関税を立替納付します。その後、輸入者(日本企業または米国顧客)はその業者から請求を受け、関税や手数料を支払います。
日本企業が自ら輸入者となる場合、税関登録(Importer ID取得)が必要です。税関フォーム5106により輸入者情報を登録し、企業の識別番号(IRS発行のEINまたは税関独自の番号)が付与されます。大量発送する事業者は関税の都度支払いではなく、月次でまとめて支払う制度(月次決済)も利用可能です。
今後の制度変更予測と対策
Sales Taxの執行強化
各州税務当局は遠隔地事業者に対する取り締まり強化や他州とのデータ共有による無登録業者の把握を進めています。連邦レベルでも、州間でバラバラな制度を簡素化するための立法(全国統一の売上税法)が議論される可能性がありますが、州の徴税権限の問題もあり実現には時間がかかると予想されます。
連邦税制の変更可能性
連邡法人税率(21%)は2018年以降維持されていますが、将来的な税制改正の議論は継続中です。バイデン政権は法人税率を28%に引き上げる案を予算教書で繰り返し提案しており、2025年以降、政権や議会の構成次第では税率変更が実現する可能性があります。
関税制度のさらなる厳格化
de minimis免税撤廃は、小口貨物を悪用した違法輸入対策の一環として講じられました。今後も米国政府は、模倣品や薬物等への対策として輸入規制をさらに強化する可能性があります。免税閾値をさらに引き下げた恒久法制への移行も議論され得ます。
まとめ:越境EC税務の戦略的対応
アメリカ向け越境ECを展開する日本企業は、複数の税制に同時に対応する必要があります。Sales Taxでは経済的nexusの閾値管理と州ごとの登録・申告体制の整備、連邦税では恒久的施設の回避による免税維持、関税では新制度下でのコスト管理が重要です。
特に2025年の関税制度変更は事業モデルに大きな影響を与えるため、価格設定の見直しや配送方法の最適化など、総合的な対応策の検討が急務です。税制の変更は今後も継続する可能性が高く、最新情報の収集と迅速な対応体制の構築が事業成功の鍵となります。
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