導入
米国で化粧品を販売する企業にとって、FDA(米国食品医薬品局)への登録は避けて通れない重要な手続きです。2022年に成立したMoCRA(化粧品規制近代化法)により、従来の任意制度から義務化へと大きく転換し、2023年12月以降は原則として全ての化粧品施設と製品がFDAへの登録・リスティングを求められるようになりました。
本記事では、FDA Industry Systems内のCosmetics Directを使った具体的な登録手順、施設登録と製品リスティングの違い、入力時の注意点、そして海外からの輸出や越境ECにおける実務対応まで、実践的な情報を網羅的に解説します。
FDA化粧品登録の基礎知識
VCRPからCosmetics Directへの移行
かつてFDAは、VCRP(Voluntary Cosmetic Registration Program)という任意の登録プログラムを提供していました。VCRPは化粧品の施設登録と製品登録をFDAに任意で提出する仕組みでしたが、2023年3月27日付でFDAは新規提出を停止し、新法に基づく義務的登録システムへの移行を発表しました。
現在は、Cosmetics DirectがMoCRA施行後の化粧品専用ポータルとして運用されています。Cosmetics DirectはFDA Directの一部として提供され、SPL(Structured Product Labeling)入力ツールとして機能します。ユーザーフレンドリーなフォーム形式で必要項目を入力・検証し、電子申請ゲートウェイ(ESG)を経由せず直接FDAにデータ送信できる点が特徴です。
MoCRAによる義務化とは
MoCRAの施行により、化粧品業界の規制環境は大きく変わりました。FD&C法第607条(a)では「米国内で化粧品を製造または加工する各施設はFDAに登録し、2年ごとに更新する」ことが要求されています。また、同法第607条(c)では「各化粧品製品ごとに責任者がFDAへリスト提出(成分・ラベル情報含む)し、年次更新する」ことが義務付けられました。
ここで重要なのは、登録・リスティングは承認制度ではないという点です。FDAに登録したからといって、製品の安全性が保証されるわけではありません。あくまで市場流通における透明性確保と、問題発生時の追跡可能性を高めるための仕組みと理解する必要があります。
施設登録・製品リスティングを行わなかったり虚偽登録をした場合、FD&C法301(hhh)条によって禁止行為となり、輸入差し止めや罰金などの法的措置を受ける可能性があります。
施設登録と製品リスティングの違い
施設登録の要件
施設登録とは、化粧品を製造または加工する施設(工場、研究所など)をFDAに届け出る手続きです。対象となるのは米国内外を問わず、米国市場向けに化粧品を製造・加工する全ての施設です。
登録には施設名、所在地、DUNS番号(米国企業識別番号)などが必要となります。DUNS番号取得前でも登録は可能ですが、FEI(FDA施設識別番号)を事前に取得しておく必要があります。海外施設の場合は、米国内代理人(U.S. Agent)の指定が必須要件となります。
施設登録は2年ごとの更新が義務付けられており、期限切れを防ぐため余裕を持った更新申請が推奨されます。
製品リスティングの要件
製品リスティングは、登録済み施設で製造・輸入する各製品ごとにFDAへ提出する手続きです。Cosmetics Directでは、製品名、責任者名、製品分類コード、成分一覧などを入力します。
成分は米規則21 CFR 701.3に従った名称(INCI名など)で列挙し、フレグランスや着色料も含めて全て記載する必要があります。同一配合で色や香りだけが異なる製品については、一回の提出で複数製品をまとめて登録できる仕組みも用意されています。
製品リスティングは年次更新が必要で、製品が市場から撤退した場合などのステータス変更も報告できます。
小規模事業者免除について
MoCRAでは、年商100万ドル未満などの小規模事業者に対して免除措置が設けられています。第612条に基づく小規模事業者免除により、通常の化粧品については登録・リスト義務が免除される可能性があります。
ただし、目の粘膜に接触する製品、注入製品、24時間以上持続する見た目変化製品など、一部の製品カテゴリでは小規模事業者でも免除されません。また、医薬品や医療機器に該当する製品など、MoCRA施行前から免除対象であった製品は引き続き登録不要です。
自社が免除対象かどうかの判断は慎重に行う必要があり、不明な場合はFDAガイダンスを確認するか、専門家に相談することをお勧めします。
Cosmetics Directでの登録手順
アカウント作成
FDA Industry Systems(FIS)で申請を行うには、まずアカウントを作成する必要があります。FISトップページ(https://www.access.fda.gov/)で「Create New Account」を選択し、氏名、メールアドレスなどの情報を登録します。
FDA Direct(https://direct.fda.gov/)も同一のFDA Portalアカウントで利用でき、CDER Direct(医薬品用)とCosmetics Direct(化粧品用)を一つのアカウントにまとめることも可能です。システムセキュリティ強化のため多要素認証が導入されており、対応OS・ブラウザの要件があるため、事前に環境を確認・準備しておくことが重要です。
施設登録の方法
化粧品を製造・加工する施設が申請対象となります。申請画面では施設名、所在地、DUNS番号などを入力します。海外施設の場合は米国内代理人の指定が必須で、米国内に実在する事業者を登録しなければなりません。
代理人にはFDAとの連絡調整、検査日程調整の補助、FDA文書の受領対応などの役割があります。代理人はポストオフィスBOXなど実態の伴わない住所は認められず、米国内に居住または事業所を持つ者である必要があります。
必要項目を入力後、システムのバリデーションチェックを行い送信します。エラーが出た場合は原因(形式不正や必須項目漏れ)を確認し修正します。例えば電話番号欄では「1-999-9999999」のように国コード付き形式が求められるため、細かな入力ルールに注意が必要です。
製品リスティングの方法
登録済み施設で製造・輸入する各製品ごとにリストを提出します。Cosmetics Directでは製品名、責任者名、製品分類コード(FDAガイダンス付録Aに示されるカテゴリから選択)、成分一覧などを入力します。
成分は全て列挙し、一般名またはINCI名で記載します。省略語や俗称は避け、FDAが認識する正式名称を使用することが求められます。適合するカテゴリがない場合は、最も近いものを選び「その他(Other)」コードを併用します。
提出形式は初回、内容更新(年次)、再申請などから選択します。全項目が正しく入力されるとFDAにデータが届き、受付完了メールが送信されます。
登録時の注意点とよくあるミス
必須情報の入力ポイント
施設名・住所、責任者名、連絡先などはFDA登録情報と正確に一致させ、誤記・入力漏れを避ける必要があります。紛らわしい表記や誤字があると受理されない可能性があります。
各製品登録には、当該製品を製造・加工する施設の登録番号(FEI)が必須です。国内外の全ての製造施設についてFEIとCosmetics Directでの登録番号を先に取得しておかないと、製品リスティングがブロックされてしまいます。FEI番号や登録番号の取得・入力を怠ると、システム上で製品登録を進められないという報告が多数あります。
可能であれば製造者(責任者)のDUNS番号、製品のラベル画像、製品ウェブページなどを添付・入力しておくと、FDAの情報参照が円滑になります。
UNIIコードの扱い
医薬品用の手続きと異なり、化粧品リストには原則としてUNIIコード(成分識別コード)は必須ではありません。しかし実務上、Cosmetics DirectがUNII入力を要求してエラーになるという報告があります。
FDAはUNIIの強制を認めていないため、エラー時はシステム管理者(cosmeticsdirect@fda.hhs.gov)に照会することが有効です。不明な点があれば、自己判断で進めずFDAに確認することをお勧めします。
製品キットの登録
化粧品キットをまとめて一製品として登録しようとする誤りが見られますが、FDAの規定ではキット自体は登録不要です。キットに含まれる各化粧品成分(シャンプー、石鹸、ボディローション等)はそれぞれ個別にリスト提出する必要があります。
また、色違いや香料違いのバリエーションは、初回提出後にクローン機能で複製して登録すると効率的です。同一配合で色や香りだけが異なる製品は、一回の提出で複数製品をまとめて登録できる機能も活用できます。
登録・リスティングは承認(approval)ではなく、FDAが製品を安全認証するものではない点も重要です。虚偽の認可表示やFDAロゴ使用は厳禁で、未登録製品が米国内に流通すると法的措置を受ける可能性があります。
海外からの輸出・越境ECでの対応
米国内代理人の指定
越境ECなどで海外から米国市場に化粧品を販売する場合でも、米国で流通させる限りMoCRAの登録・リスト義務が適用されます。海外製造施設については、FDAへの施設登録が必須であり、その際に米国内代理人を必ず指定する必要があります。
米国内代理人の主な業務は、外国施設とFDA間の連絡調整、輸入製品に関する問い合わせ対応、FDA検査の調整支援、FDA書類の受領などです。代理人選定においては、米国内に実在し、迅速な対応が可能な事業者を選ぶことが重要です。
契約製造で海外業者を利用する場合も同様に、最終製品が米国に流通するならばその外国工場を登録する必要があります。逆に、研究開発用など非販売目的の検査のみを行うラボは登録不要とされています。
責任者の定義
「責任者(Responsible Person)」とは、製品ラベルに表示された製造者・梱包者・流通者のいずれかを指します。輸入者がラベル上の責任者となる場合、その輸入者自身に登録・リスティング義務が発生します。
一方、輸入者が単なる卸売業者などでラベルに名前がない場合は義務化されません。米国市場への参入を検討する際は、サプライチェーン全体でどの事業者が責任者となるかを明確にし、適切なラベリング(責任者住所の表示など)を行うことが必要です。
化粧品輸出・越境ECでは、米国側での担当者・代理人の設置と適切なラベリングによって、FDA登録システムへのアクセスが可能となります。米国の法規制は厳格化していますが、FDA公式サイトやガイダンスに沿って手順を守れば、遵守状況を示す証明として登録番号・リスト番号を取得でき、米国市場への信頼性向上につながります。
まとめ
FDA化粧品登録は、MoCRA施行により任意から義務へと大きく転換しました。Cosmetics Directを活用した施設登録と製品リスティングは、米国市場で化粧品を販売する全ての事業者にとって必須の手続きとなっています。
登録にあたっては、FEI番号の事前取得、正確な情報入力、海外施設の場合の米国内代理人指定など、押さえるべきポイントが多数あります。よくあるミスを避けるためには、FDAガイダンスを熟読し、不明点はFDAに直接問い合わせることが重要です。
特に越境ECや輸出ビジネスでは、責任者の定義やラベリング要件を正しく理解し、サプライチェーン全体で適切な対応を取る必要があります。2024年以降、FDAは違反者に対する監視を強化しており、未登録製品の流通は重大なリスクとなります。
本記事で解説した手順と注意点を参考に、確実な登録・リスティングを実施し、米国市場でのコンプライアンス体制を構築していくことをお勧めします。
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