化粧品業界におけるFDA監査の遡及調査事例:過去記録の徹底検証から学ぶコンプライアンス

米国税制情報

化粧品業界におけるFDA監査の遡及調査事例:過去記録の徹底検証から学ぶコンプライアンス

はじめに:なぜFDAは過去に遡って調査するのか

米国食品医薬品局(FDA)による監査は、現在の製造状況だけでなく、過去数年間の記録まで遡って徹底的に調査されることがあります。化粧品業界においても、消費者の安全を守るため、FDAは製造記録、品質管理データ、有害物質管理記録など、あらゆる過去の文書を精査します。

本記事では、FDAが化粧品関連企業に対して実際に過去の記録を遡及調査した4つの事例を詳しく解説します。各ケースの調査範囲、契機、対象文書、FDA指摘内容を理解することで、企業が日頃から整備すべき記録管理体制の重要性が見えてきます。


ケース1:Family Dollar流通センターのネズミ汚染事件(2021~2022年、アーカンソー州)

事案の概要と調査範囲

2022年1~2月、FDAは小売チェーンFamily Dollarのアーカンソー州ウェストメンフィス流通センターを査察しました。この調査では約2年間にわたる記録が遡及的に精査され、2020年から2021年にかけての有害生物管理記録や社内メールが調査対象となりました。

最終的に、2021年1月から2022年3月に当該施設から出荷された食品、化粧品、医薬品などがリコール対象となっています。

調査の契機:消費者苦情からの緊急査察

この調査は消費者からのネズミ汚染に関する苦情通報が発端でした。FDAが現地調査を実施したところ、施設内に大量のネズミの存在が確認され、緊急査察に発展しました。

対象となった記録と発覚した事実

調査では以下の記録が精査されました:

  • ペストコントロール(害虫・有害動物駆除)記録
  • 店舗から本部への内部メール

これらの記録から衝撃的な事実が明らかになりました。2020~2021年には月あたり最大100匹超のネズミが捕獲され、2021年3月から9月だけで2,300匹以上の捕獲が社内で記録されていました。さらに2020年12月には、店舗側から配送商品へのネズミ混入を訴える苦情メールを本部が受け取っていたことも判明しました。

FDAの指摘と警告書の内容

FDAは施設内の広範なネズミ侵入と不衛生状態を確認し、保管製品の著しい汚染による連邦法違反を指摘しました。2022年11月に発行された警告書では、食品・医薬品・化粧品が腐敗や不潔物の混入により不良製品として市販されている状況が厳しく糾弾されました。

この事例では、アラバマ州、アーカンソー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ミズーリ州、テネシー州の6州にまたがる店舗に影響が及び、各州当局もFDAと協力して消費者保護措置を講じました。


ケース2:Claire’s社のタルク化粧品におけるアスベスト混入問題(2019年)

約3~4年前の製造ロットまで遡及調査

2019年、FDAはアクセサリ小売大手Claire’sが販売するタルク配合化粧品の市場抜き取り調査を実施しました。この調査では、2015年から2017年に製造された製品ロットのサンプルが入手・分析され、約3~4年前まで遡って製品の安全性が検証されました。

消費者報告を契機とした製品分析

調査の発端は、消費者からの「クレアーズ販売の化粧品にアスベストが混入している疑いがある」という報告でした。FDAはこの情報を受け、問題が疑われる製品のサンプル収集と分析を開始しました。

対象となった証拠:製品そのものの成分分析

このケースでは、書類調査よりも物的証拠の検査に重点が置かれました。FDAは以下の手法で調査を進めました:

  • 市場流通製品の試買・採取
  • 製品ラベル上の成分表示の確認
  • 米国労働安全衛生局(OSHA)や委託分析機関(AMA Analytical社)との協力による専門的な成分分析

複数の製品から発がん性物質であるアスベスト(トレモライト繊維)が検出され、消費者の健康リスクが確認されました。

FDAの対応と業界への波及

FDAは2019年3月に消費者向け安全通知を発出し、該当ロットのClaire’s製化粧品を使用しないよう勧告しました。同年6月から9月にかけての継続調査では、Beauty Plus Global社など他社製品からも同様の問題が発覚し、数種類のコスメが自主回収されています。

FDAはこれらの製品を「発がん性物質混入により連邦FD&C法違反」と判断し、迅速なリコールと是正措置を要請しました。この事例では公式の警告書は発行されませんでしたが、消費者安全確保のためのFDA監視強化の重要な事例として記録されています。


ケース3:Cosmetic Science Laboratories社に対するGMP査察(2022年、カリフォルニア州)

過去3年の記録から浮き彫りになった継続的違反

2022年9月6日から20日にかけて、カリフォルニア州トーランスに所在するCosmetic Science Laboratories LLCに対してFDA査察が実施されました。この調査では過去3年程度の期間にわたり記録が遡及的に調べられました。

同社は数年間にわたりFDAへの製造所登録の更新や製品リスティング届出を怠っており、少なくとも2019年以降、最新の登録情報提出がなく、新製品についても未届けで製造販売していた状況が明らかになりました。

定期GMP査察からの発展

この調査は定期的なGMP(適正製造基準)査察として計画的に実施されたと考えられます。同社の製造品目には日焼け止め(SPF値表示)など、実質的にOTC医薬品扱いとなる製品が含まれていたため、FDAはリスクに基づいて監査対象としました。

対象文書:製造記録とFDA登録状況

査察では以下の記録が重点的に調査されました:

  • 原材料の受入試験記録
  • 工程管理手順書
  • 製品ごとの安定性試験データ
  • 品質管理記録
  • FDAのドラッグリスト登録システムにおける提出履歴

調査の結果、同社が一部の有効成分について受入時試験を行っていないこと、製造所登録の更新義務(2年毎)を怠っていたこと、新製品のリスティングも未提出だった事実が明らかになりました。

警告書の詳細な指摘事項

2023年3月に発行された警告書では、以下の違反が列挙されました:

  1. 原料の同定試験を各ロットで実施せず、供給業者任せにしていた
  2. 供給業者の試験結果の信頼性確認を定期的に行っていない
  3. 日焼け止め製品を製造しながらFDAへの製造所登録更新や新製品リスト届け出を行っていない

FDAは同社製品を適正製造基準違反による「劣悪な医薬品」および無届の新医薬品扱いと見做し、是正措置計画の提出、原料試験の徹底、遡及的な品質検証、速やかな登録情報更新を要求しました。


ケース4:Landy International社の手指消毒剤に対する約6年間の遡及調査(2023年、中国)

前回査察からの継続違反を追及

2023年12月11日から14日にかけて、中国福建省厦門市のLandy International社に対してFDA査察が実施されました。この調査では約6年間に及ぶ違反の継続が浮き彫りになり、2017年のFDA査察ですでに指摘された不備が2023年の査察でも繰り返されていることが確認されました。

FDAは前回査察(2017年1月)の観察事項を参照し、是正が行われていなかった事実を指摘しています。さらに、市販中の全ロット製品に対する遡及的な品質検証を命じ、有効期限内の出荷済み製品すべてについて保持検体の試験を行うよう要求しました。これは過去2~3年分の製造ロットを対象に品質を再評価する措置と考えられます。

フォローアップ査察の重要性

この調査はフォローアップ査察として実施されました。手指消毒剤のようなOTC医薬品はCOVID-19下で品質問題(メタノール混入など)が多発した経緯もあり、FDAは以前から違反歴のある海外メーカーを重点的に再査察していました。

過去に違反指摘を受けた企業への再訪問として実施され、是正状況を確認したところ改善されていなかったため、警告対応に至りました。

試験記録の不備が明らかに

調査では以下の記録が中心的に検証されました:

  • 製品出荷前試験の記録(各ロットの有効成分含量試験データ等)
  • 前回査察後の改善計画書の履行状況

査察官は、同社が製造するエタノール系ハンドサニタイザーについて、出荷前に有効成分濃度の試験を実施していない事実、および2017年に同様の違反を指摘され是正を約束したにもかかわらず実行されていない事実を記録しました。

出荷済みロットの全数試験要求

警告書では、「各ロットごとに有効成分(エタノール)の濃度試験を行わず出荷していた」点が重大なGMP違反として強調されました。FDAは同社製品を試験未実施による品質不保証のため連邦法違反(劣悪な医薬品)と断じ、以下を要求しています:

  1. 米国に流通した有効期限内の全ロットについて保持検体を化学的・微生物学的に検査
  2. 基準外が判明した場合は速やかに是正(回収等)を実施
  3. 全ロットのリストと試験計画の提出
  4. 製品に含まれる可能性のある有害物質(DEGなど)の完全なリスク評価

このケースは海外製造所に対するFDA査察の例であり、米国内の州当局は関与していませんが、製品は米国へ輸入され全国で流通していたため、連邦FDAの権限下で厳格な執行が行われました。


4つの事例から学ぶ共通点と企業が備えるべき体制

調査契機は多様:消費者苦情から定期査察まで

これらの事例から、FDA遡及調査の契機は消費者苦情、定期GMP査察、フォローアップ査察など多岐にわたることが分かります。企業は「いつ調査が入ってもおかしくない」という前提で記録管理体制を整える必要があります。

あらゆる記録が調査対象となる

FDAは以下のような幅広い記録を調査対象とします:

  • 製造記録・品質管理文書
  • 有害生物管理記録
  • 社内メール・報告書
  • 原材料試験データ
  • 製品ラベリング情報
  • FDA登録・届出状況
  • 前回査察後の改善計画と履行記録

特に注目すべきは、社内メールや報告書など、正式な品質記録以外の文書も精査対象となる点です。企業内のあらゆるコミュニケーションが証拠となり得ます。

遡及調査の範囲は2~6年が一般的

今回の事例では、Family Dollarで約2年、Claire’sで3~4年、Cosmetic Science Laboratoriesで3年、Landy Internationalでは約6年間の記録が遡及的に調査されました。企業は最低でも3年、可能であれば5年以上の記録を適切に保管し、いつでも提示できる状態にしておくべきです。

違反が認められた場合の厳格な対応

FDAは違反が認められた場合、警告書の発行、製品回収措置の要求、出荷済みロットの全数試験要求など、厳格な是正措置を求めます。特にLandy Internationalのケースでは、過去の違反が是正されていなかったことで、より厳しい措置が取られました。

州当局や他機関との連携

Family Dollarの事例では6州の当局が協力し、Claire’sの事例ではOSHAや専門分析機関が関与するなど、FDAは必要に応じて州当局や他の連邦機関と連携して消費者保護に当たります。企業は連邦レベルだけでなく、州レベルの規制にも注意を払う必要があります。


まとめ:過去の記録管理が企業の信頼性を左右する

FDAによる遡及調査は、化粧品業界においても現実の脅威です。本記事で紹介した4つの事例は、過去の記録が数年後に精査され、違反が発覚すれば厳格な措置が取られることを示しています。

企業が日常的に整備すべき記録管理体制には、以下が含まれます:

  • 製造・品質管理記録の適切な保管(最低3年、推奨5年以上)
  • 有害物質管理や衛生管理の記録の継続的な更新
  • 社内コミュニケーション(メール等)の適切な文書化と保管
  • FDA登録・届出の定期的な更新と履歴管理
  • 前回査察での指摘事項の確実な是正と記録化
  • サプライヤー管理と原材料試験の徹底

過去の記録が適切に管理されていれば、万が一の調査にも迅速に対応でき、企業の信頼性を守ることができます。逆に、記録管理の不備は数年後に重大な法的リスクとして顕在化する可能性があります。

化粧品業界の企業は、日々の記録管理を「将来の監査への備え」として捉え、コンプライアンス体制の強化に継続的に取り組むべきです。

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