FDA食品施設登録の不備で輸入差止めを受けた日本企業の実例と教訓

米国への食品輸出において、FDA(米国食品医薬品局)への施設登録は避けて通れない法的要件です。しかし、この基本的な手続きを怠ったことで、実際に輸入差止めや警告文書を受けた日本企業が複数存在します。本記事では、2019年から2024年にかけて発生した実例を基に、何が問題だったのか、どのような影響があったのかを詳しく解説します。


FDA食品施設登録が求められる背景

米国に食品を輸出する施設は、バイオテロ法(Bioterrorism Act)に基づき、FDAへの施設登録が義務付けられています。この制度は、食品サプライチェーンの透明性を確保し、万が一の健康被害発生時に迅速な追跡を可能にすることを目的としています。

登録が必要な施設には、製造、加工、包装、保管を行うすべての拠点が含まれます。特に低酸性食品(LACF)や酸性化食品を扱う場合は、施設登録に加えてFCE(Food Canning Establishment)登録や、製造工程書(SID:Scheduled Process)の提出も求められます。

これらの要件を満たさない場合、製品の品質や安全性に問題がなくても、形式的な不備だけで輸入が拒否される可能性があります。

事例1:どら焼き製造業者への警告文書

企業概要と問題の発端

鳥取県に拠点を置くMarukyo Co., Ltd.は、米国市場向けにどら焼きを輸出していました。2019年3月14日、同社はFDAから警告文書を受け取ることになります。

問題となったのは、どら焼きが低酸性食品(LACF)に分類されるにもかかわらず、必要な手続きを一切行っていなかった点です。低酸性食品は、ボツリヌス菌のリスクがあるため、製造工程の厳格な管理と事前登録が求められます。

具体的な違反内容

同社の違反は以下の3点に集約されます。第一に、FDA食品施設登録(FCE)を実施していませんでした。第二に、製造工程書(Form 2541)の提出も行っていませんでした。第三に、これらは21 CFR 108および113の明確な違反に該当しました。

FDAは当該製品を「不正食品(Adulterated)」と判断し、是正されない場合は今後の輸入を自動的に差し止めると警告しました。この判断は、製品の品質や安全性の問題ではなく、純粋に書類上の不備によるものでした。

企業の対応と教訓

警告を受けて、Marukyo社は製造工程の見直しを実施し、FDAへのFCE登録および製造工程書の提出を完了させました。是正対応をFDAに報告することで、事態の収束を図りました。

この事例が示すのは、伝統的な日本食品であっても、米国の分類基準では厳格な管理対象になり得るという点です。どら焼きのような一見リスクの低い製品でも、水分活性やpH値によっては低酸性食品として扱われ、複雑な登録要件が課される可能性があります。

事例2:ドレッシング製造業者への最近の警告

2024年に発生した違反事例

佐賀県のMiyajima Shoyu Co., Ltd.は、わさびドレッシングを米国に輸出していましたが、2024年9月30日にFDAから警告文書を受け取りました。この事例は、酸性化食品に関する規制違反として注目されます。

酸性化食品とは、本来は低酸性である食品に酸を添加してpHを下げ、安全性を確保した製品を指します。ドレッシングの多くはこのカテゴリーに該当し、製造工程の科学的検証が求められます。

FDAが指摘した問題点

2024年5月に実施されたFDAの査察で明らかになったのは、製造工程書(SID)が提出されていなかったという事実でした。これは21 CFR 108.25および114の違反に当たります。

FDAは製品を不正食品と判断し、改善されない場合はImport Alert(自動輸入差止めリスト)に掲載される可能性があると警告しました。Import Alertに掲載されると、該当企業の製品は港湾で自動的にストップされ、通関が極めて困難になります。

迅速な対応の重要性

警告を受けて、Miyajima Shoyu社は米国向け出荷を一時停止し、輸入業者への状況説明を行いました。同時に、プロセス権限者(Process Authority)による製造工程の科学的検証を実施し、SIDの提出準備を進めました。

この事例から学べるのは、酸性化食品の輸出には単なる施設登録だけでなく、科学的に裏付けられた製造工程の文書化が不可欠だという点です。特にソース類、ドレッシング、調味料などを扱う企業は注意が必要です。

事例3:施設登録の更新忘れによる輸入拒否

見落とされがちな更新要件

FDA食品施設登録には、2年ごとの更新義務があります。しかし、この更新を失念したために輸入拒否を受ける事例が、日本企業を含む複数の海外企業で発生しています。

2022年末、FDAは更新未対応の施設登録を大量に抹消しました。その結果、2023年1月以降、登録が失効した施設からの食品が次々と輸入拒否される事態が発生しました。

形式要件違反の深刻な影響

登録が無効な施設からの食品は、内容や品質に関係なく自動的に輸入拒否されます。これは「形式要件違反」として扱われ、製品の安全性とは無関係に通関が停止されます。

実務上の影響は甚大です。米国の港湾で貨物がストップし、再登録が完了するまで通関できません。この間、輸入者や販売先にも影響が及び、商機の損失や信頼関係の悪化につながる可能性があります。

予防のための管理体制

更新忘れを防ぐには、登録日から2年後の更新期限をカレンダーに記録し、リマインダーを設定することが有効です。また、複数の担当者で情報を共有し、人事異動があっても継続的に管理できる体制を構築することが重要です。

日本企業が特に注意すべき食品カテゴリー

低酸性食品(LACF)

レトルト食品、瓶詰、缶詰などの容器包装された食品でpHが4.6を超えるものは、低酸性食品として厳格な管理対象になります。日本の伝統食品の中には、意外にもこのカテゴリーに該当するものが少なくありません。

どら焼きの事例が示すように、一見リスクが低いと思われる製品でも、科学的な基準で判断すると低酸性食品に分類される場合があります。米国への輸出を検討する際は、製品のpH値と水分活性を正確に測定し、適切なカテゴリーを判断することが第一歩です。

酸性化食品

ドレッシング、ソース類、ピクルス、酢漬け製品など、酸を添加してpHを下げた製品は酸性化食品に分類されます。これらの製品には、科学的に検証された製造工程の文書化が求められます。

特に注意が必要なのは、伝統的な製法で作られている場合です。経験則に基づく製造であっても、FDAに提出する際には、プロセス権限者による科学的な検証と文書化が必要になります。

その他の要注意製品

調味料、たれ類、漬物、佃煮なども、成分や製造方法によっては特別な登録が必要になる可能性があります。これらの製品を扱う企業は、輸出開始前に専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

施設登録とFCE/SIDの関係性

三層構造の要件

米国への食品輸出には、最大で三層の登録・届出が必要になる場合があります。第一層は基本的なFDA食品施設登録で、すべての食品施設に求められます。第二層はFCE登録で、低酸性食品や酸性化食品を扱う施設に必要です。第三層はSID(製造工程書)の提出で、個々の製品ごとに求められます。

これらは独立した要件ではなく、相互に関連しています。施設登録だけでは不十分であり、製品の特性に応じてFCEやSIDも併せて対応する必要があります。

見落としやすいポイント

多くの企業が陥りがちなのは、施設登録さえ済ませれば輸出できると考えてしまうことです。しかし、低酸性食品や酸性化食品を扱う場合、施設登録は必要条件に過ぎず、十分条件ではありません。

また、製品ラインナップが変わった場合や、新しい製造方法を導入した場合にも、追加の届出や変更申請が必要になる可能性があります。継続的なモニタリングと更新が求められます。

違反が発覚した場合の影響

即座の輸入停止

FDA要件の不備が発覚すると、製品の品質に問題がなくても即座に輸入が停止されます。これは「予防的措置」として扱われ、是正が確認されるまで解除されません。

港湾での貨物停止は、保管費用の発生だけでなく、製品の鮮度低下や商機の損失につながります。特に賞味期限の短い食品や、季節商品の場合、影響は深刻です。

信頼関係への影響

輸入業者や販売先との信頼関係も大きく損なわれる可能性があります。特に、定期的な取引がある場合、供給の中断は相手方のビジネスにも影響を及ぼすため、関係修復には時間がかかる場合があります。

是正にかかるコストと時間

違反を是正するには、専門家への相談、製造工程の見直し、文書の作成と提出、場合によっては設備の改修など、相当なコストと時間が必要になります。これらは、事前に適切な対応をしていれば避けられたコストです。

予防のための実践的アプローチ

輸出開始前のチェックリスト

米国への食品輸出を検討する段階で、製品のpH値と水分活性の測定、FDA要件の該当性確認、必要な登録・届出のリストアップを行うべきです。これらは、専門のコンサルタントや検査機関のサポートを受けることで、より正確に進められます。

継続的な管理体制の構築

登録後も、更新期限の管理、製品変更時の届出要否判断、法規制改正の情報収集を継続的に行う必要があります。担当者の明確化と、バックアップ体制の整備も重要です。

専門家の活用

FDA規制は複雑で頻繁に更新されるため、自社だけで完全に把握するのは困難です。食品輸出専門のコンサルタント、米国代理人(U.S. Agent)、現地の輸入業者など、専門家のネットワークを構築することが、長期的なリスク管理につながります。

まとめ:書類不備は品質問題と同じ重大性を持つ

これまで見てきた事例が明確に示しているのは、FDA食品施設登録の不備は、製品の品質や安全性の問題と同等、場合によってはそれ以上に深刻な結果をもたらすという事実です。

どれほど優れた製品であっても、形式要件を満たさなければ米国市場には入れません。逆に言えば、適切な事前準備と継続的な管理によって、これらのリスクは十分に予防可能です。

米国への食品輸出を成功させるには、製品開発と品質管理に加えて、規制要件への確実な対応が不可欠です。本記事で紹介した事例を他山の石として、自社の輸出体制を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

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