FSVPとは?米国食品輸入における重要性
米国への食品輸出を行う、または検討している日系企業にとって、FSVP(Foreign Supplier Verification Programs:外国サプライヤー検証プログラム)への対応は避けて通れない重要課題です。FSVPは、米国FDAが定める食品安全強化法(FSMA)の中核的規制として2016年に導入され、輸入食品の安全性確保を輸入者側に義務付ける制度です。
FSVP導入の背景と目的
FSVPが導入された背景には、グローバル化により複雑化する食品サプライチェーンにおいて、食品安全リスクを事前に予防するという明確な目的があります。従来の「事後対応型」検査では、問題発生後の対応となり消費者の健康被害を防ぎきれないという課題がありました。
FSVPは輸入者に対し、外国サプライヤーが米国の防疫基準(危害分析・リスクベース予防管理規則)と同等レベルで食品を生産していること、また汚染やアレルゲン誤表示がないことを検証する義務を課しています。これにより、輸入前の段階で食品安全を確保する「予防型」管理体制への転換を図っています。
予防型食品安全管理への転換
この制度の最大の特徴は、輸入者が能動的にサプライヤーの食品安全管理を検証する点にあります。単に書類を確認するだけでなく、危害分析の実施、サプライヤーの評価・承認、定期的な検証活動、是正措置の実施など、包括的なプログラム運用が求められます。日系企業にとっては、米国の取引先から食品安全計画の提出や監査受入れを求められる可能性があり、事前の準備が不可欠です。
FSVP対象となる事業者と食品カテゴリ
FSVP輸入業者の定義
FSVPにおける「輸入業者」とは、米国内に所在し食品輸入時の所有者または荷受人(コンシニ)となる企業を指します。具体的には、米国の取引先企業や、米国代理人を通じて輸入を行う場合のその代理人が該当します。
注意が必要なのは、購入契約書を発行して食品を購入するスーパーなどの小売業者もFSVP輸入業者になり得るという点です。また、米国への入国時に所有者がいない貨物については、輸出者自身がFSVP輸入業者として行動し、米国の代理人または代表者を指定する必要があります。
FSVPプログラムの作成・実施には、食品安全管理に必要な教育・訓練・経験を有する「適格個人(QI:Qualified Individual)」を指名する必要があります。QIは輸入業者の従業員である必要はなく、外部コンサルタントや日本国内の輸出商社・卸売業者が代わりに担当することも可能です。
適用除外となる食品カテゴリ
FSVPは原則としてFDA管轄のすべてのヒト用・動物用食品が対象ですが、多くの例外規定が設けられています。主な除外対象には以下が含まれます。
米国のHACCP規則対象食品(加工ジュース、水産物)およびそれらの原材料は除外されます。また、研究・評価用食品、個人消費目的の輸入食品、アルコール飲料および製造用原材料も対象外です。米国内でさらに加工後に再輸出する特定の食品原料や、年間輸入額100万ドル未満の小規模輸入者には簡素化FSVPが適用されます。
低酸性缶詰食品(LACF)については、他の規則で適用される微生物学的基準があるため一部要件が修正されます。さらに、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど特定国の食品安全制度が米国と同等と認定された国からの輸入については、検証頻度の軽減など修正要件が適用される可能性があります。
FSVP実施に必要な5つの実務義務
FSVP輸入業者は、自社の食品輸入ごとにFSVPプログラムを作成・維持し、以下の実務義務を果たす必要があります。
1. 危害分析の実施
輸入する各食品について、既知または予測される生物的・化学的・物理的危害を特定・評価し、制御の要否を科学的根拠に基づいて判断します。この危害分析は、FSVP全体の基盤となる重要なプロセスです。
2. サプライヤー評価・承認
危害分析結果と外国サプライヤーの実績・リスクを評価し、輸入する食品ごとに承認すべきサプライヤーを決定します。承認されたサプライヤー以外からの輸入には、輸入前に必要な検証活動を行う手順を定める必要があります。
3. 検証活動の実施
承認サプライヤーから定期的に輸入するために、リスクに応じて適切な検証活動を実施します。具体的には年1回以上のオンサイト監査、サンプリング・検査、サプライヤーの食品安全計画・履歴文書のレビューなどの手段が挙げられます。
サプライヤー検証の頻度や方法は、食品の危害の重大度やサプライヤーのパフォーマンスによってリスクベースで決定します。高リスク製品や過去に問題があったサプライヤーについては、より頻繁な検証が必要になる可能性があります。
4. 是正措置
検証結果などから問題が発見された場合、速やかに是正措置を講じます。例えば、サプライヤーの生産手順に欠陥があれば当該食品の輸入を中止し、原因解消を確認するまで再発注を停止するなどの対策を実施する必要があります。
5. 記録管理と適格個人(QI)の選任
FSVP活動に関する全記録(危害分析、サプライヤー評価、検証結果、是正措置記録など)を作成・保存します。文書は運用終了後も含めて最低2年間保持する必要があります。また、輸入者は米国税関に提出する電子情報(ACE)に正確な輸入者識別情報(DUNS番号等)を入力する責任があります。
QIは危害分析の作成、検証活動の決定・実施、輸入品のコンプライアンス履歴調査、通関時の輸入者識別などを担います。食品に関するハザードやハザード分析を十分理解し検証できる者でなければならず、専門性が求められる重要な役割です。
輸入者は各食品・各サプライヤーごとにFSVP計画を文書化し、恒常的に実施・見直しを行います。サプライヤーによっては少なくとも3年ごとに評価を再実施し、新情報があれば早期に見直すことが推奨されます。
FDA検査と違反時のペナルティ
FDAの検査プロセス
FDAはFSVP遵守状況を監視するため、輸入業者の事業所でFSVP検査を行うことがあります。通常、FDAは定期監視や過去に違反歴のあった輸入業者、リコール・アウトブレーク関連製品を取り扱う業者などを優先的に調査します。
検査では、FDA査察官が事前に連絡し、FSVP記録(危害分析、サプライヤー承認記録、検証記録等)の提出を要求します。提出文書は原則として英語で用意し、QIや担当者が質問に回答できる体制が求められます。
違反時の具体的な措置
FSVP違反が発覚した場合、FDAは輸入品の差止・輸入拒否措置を行います。輸入拒否と判断された食品は米国外へ返送または廃棄しなければなりません。
改善が認められない場合は当該サプライヤーが「警告リスト」に掲載され、以後同メーカー製品は輸入アラート(市場流通禁止)にかけられます。さらに、違反内容に応じてワーニングレター発出、食品回収要請、高額な民事罰や故意の場合の刑事処罰が科される可能性もあります。
これらの措置は企業のブランドイメージを大きく損ない、経済的損失も甚大になる可能性があります。事前の適切な準備と継続的なコンプライアンス体制の維持が不可欠です。
日系企業とFSVP輸入業者の責任分担
輸入業者の役割
FSVPにおける最終責任者は原則として米国の輸入業者ですが、実務上は輸出側(日本企業)との緊密な連携が不可欠です。輸入業者はFSVP対応の中心となり、輸出者へ必要な情報提供や食品安全管理体制の構築を促します。
具体的には、輸入前に製品の食品安全計画(予防管理計画)の提出・説明を求めたり、検証活動に必要な文書(分析データ、監査報告書、品質証明書など)の提供を依頼します。輸入者は早期にFSMAの要件を輸出者に共有し、共通理解を図ることが重要です。
輸出者(日本企業)の対応
輸出者(日系企業)も対応策を講じる必要があります。輸出者は、米国向けの衛生管理・品質管理体制を構築し、輸入業者の要請に応じて情報提供・協力を行います。
場合によっては、米国内の輸入業者から適格個人(QI)に指名され、自社および自社サプライヤーの検証を代行する立場になることもあります。特に、米国内に輸入業者が存在しない場合は、日本側企業がFSVP輸入業者としての義務を負い、米国代理人を立てる必要があります。
物流形態に応じた役割分担を契約で明確にしておくことも重要です。輸出者が原料加工後に再輸出する場合など、複雑なサプライチェーンでは責任範囲を明文化しておくことでトラブルを防ぐことができます。
日本企業が直面する5つの課題と対応策
専門知識とコストの課題
日本企業がFSVP対応で特に難しさを感じやすい点として、まず専門知識の不足が挙げられます。FSVPの要件は複雑・網羅的であり、食品安全管理の専門知識が不足しがちです。
また、供給業者監査や検査の実施には相応のコスト負担が発生します。特に中小企業にとっては、年1回以上のオンサイト監査や検査分析費用が経営を圧迫する要因になる可能性があります。
サプライヤー連携と言語の壁
日本国内の原料メーカーや下請への理解・協力を得るのが困難な場合があります。サプライヤー側がFSVPの重要性を理解していない、または対応リソースがない場合、サプライチェーン全体での対応が遅れる可能性があります。
さらに、FSVP文書は英語で作成・提出する必要があり、翻訳や英語対応人材の確保が求められます。技術的な食品安全用語を正確に英訳できる人材の確保は、多くの日系企業にとって課題となっています。
実践的な解決策
これらの課題に対する対策としては、外部の専門家・コンサルタントの活用や教育研修が有効です。食品安全の専門セミナーへの参加やFSVP専門コンサルタントの活用により、社内の知識レベルを向上させることができます。
段階的・リスクベースの導入によるコスト分散も重要です。すべてのサプライヤーに対して最初から厳格な監査を実施するのではなく、リスクの高い製品やサプライヤーから優先的に対応することで、効率的な資源配分が可能になります。
翻訳サービスの利用や英語対応可能な人材の確保、ITツールによる管理効率化も効果的です。FSVP記録管理システムの導入により、文書管理の負担を軽減し、査察時の対応もスムーズになります。
サプライヤーとの継続的コミュニケーション、外部認証取得(GFSIベンチマーク認証等)の促進により、長期的パートナーシップを構築し、相互利益を明確化することで社内体制を強化する企業事例も増えています。
プログラム導入後も定期的な見直し・記録更新を継続する体制構築が必要です。一度作成したFSVPプログラムを放置せず、サプライヤーの状況変化や新たなリスク情報に応じて更新していくことが、長期的なコンプライアンス維持につながります。
最新のFSVP関連アップデートと活用ガイド
FDAはFSVP関連の制度改善や支援策を随時発表しています。2020年以降、FSVP輸入業者用オンライン・ポータル(FURLS)が整備され、FDAからの記録提出要請に対して輸入者が電子的にFSVP記録を提出できるようになりました。
2019年にはFDAから「FSVPガイダンス」(Q&A形式)が公表され、輸入者向けの詳細解説が更新されています。これらの公式ガイダンスは実務対応の重要な参考資料となります。
FDAはニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど特定国の食品安全制度を米国と同等と認定し、これら国からの輸入については検証頻度の軽減など修正要件を適用しています。日本企業も、取引先国の認定状況を確認することで、効率的なFSVP対応が可能になる場合があります。
こうした最新情報は、FDA公式サイトやジェトロ(日本貿易振興機構)の提供する日本語資料を通じてフォローすることができます。日系企業は最新情報を継続的に収集し、自社のFSVP対応を改善していく姿勢が求められます。
まとめ:FSVP対応で米国市場への確実な輸出を実現
FSVPは米国への食品輸出において避けて通れない重要な規制です。危害分析、サプライヤー評価・承認、検証活動、是正措置、記録管理という5つの実務義務を理解し、適切に実施することが求められます。
日系企業にとっては専門知識、コスト、サプライヤー連携、言語など多くの課題がありますが、外部専門家の活用、段階的導入、ITツール活用などにより、実現可能な対応策が存在します。米国の輸入業者と緊密に連携し、役割分担を明確にすることで、効率的なFSVP体制を構築できます。
FDA検査や違反時のペナルティのリスクを考えれば、事前の十分な準備と継続的な体制維持が企業の米国ビジネスを守る最良の方策です。最新のFDA情報やガイダンスを活用しながら、自社に最適なFSVPプログラムを構築していきましょう。
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