なぜ留学生が米国で法人を設立するのか
近年、日本やアジア出身の留学生が米国でスタートアップを創業し、グローバル市場で成功を収める事例が増えています。統計によれば、米国で評価額10億ドル以上のユニコーン企業の55%は少なくとも1人の移民創業者を含むとされ、イーロン・マスク氏(SpaceX)など世界的企業を率いる例も見られます。
では、なぜ留学生が母国ではなく米国での法人設立を選ぶのでしょうか。主な理由として、グローバル市場へのアクセス、豊富なベンチャーキャピタル(VC)、優秀な人材の確保、そして充実した起業家支援エコシステムが挙げられます。シリコンバレーをはじめとする米国の起業環境は、最先端技術の実用化や急成長を目指すスタートアップにとって最適な土壌となっています。
本記事では、実際に留学生として渡米し、米国法人を設立してCEOとなった日本人起業家の事例を通じて、その決断がキャリアと人生にどのような影響を与えたのかを探ります。
米国法人設立のメリットと背景
世界最大の市場と資金調達環境
米国での法人設立を選ぶ最大の理由の一つが、市場規模の大きさです。当初からグローバル展開を見据えた事業モデルを構築でき、スケールアップのスピードが日本国内と比較して圧倒的に速い可能性があります。
また、資金調達の面でも米国は有利です。シリコンバレーには世界トップクラスのVCが集積しており、革新的なアイデアや技術に対して積極的に投資する文化があります。シード段階から数百万ドル規模の調達が可能なケースも珍しくなく、事業の成長を加速させる資金とネットワークを同時に獲得できます。
多様な人材とエコシステム
米国、特にシリコンバレーやニューヨークには、世界中から優秀な人材が集まります。エンジニア、デザイナー、マーケター、営業など各分野のスペシャリストを採用しやすく、多国籍チームを組成することで多様な視点を取り入れられます。
さらに、Y CombinatorやBerkeley SkyDeckなどのアクセラレーター、大学関連のインキュベーション施設、メンター制度など、起業家を支援する仕組みが充実しています。これらのエコシステムを活用することで、未経験の留学生起業家でも事業を軌道に乗せやすい環境が整っています。
失敗を許容する文化
米国のスタートアップ文化で特筆すべきは、失敗に対する寛容さです。一度失敗しても、そこから学んで再挑戦する起業家を支援する風土があり、連続起業家(シリアルアントレプレナー)として成功する例も数多く存在します。日本では失敗にネガティブな印象が付きまといがちですが、米国では誠実に挑戦し続ける限り、資金調達や人材採用の機会が継続的に得られる環境があります。
日本人留学生起業家の成功事例
Anyplace共同創業者・CEO – 内藤聡氏
内藤聡氏は1990年生まれ、日本の大学卒業後に「シリコンバレーで起業したい」という憧れから2010年代半ばに渡米しました。学生時代から日本のスタートアップやVCでインターン経験を積んでいた内藤氏ですが、渡米当初は「英語もほとんど話せない、資金もコネもない」状態でサンフランシスコに飛び込んだといいます。
現地でシェアハウス運営やTechCrunchへの記事寄稿を通じてビジネスアイデアを模索し、2015年に家具付き賃貸サービス「Anyplace」を創業しました。渡米後に経験した米国の煩雑な住宅契約の問題を解決したいという実体験が原点となり、「ホテルを予約するような感覚で簡単に家具付き賃貸を利用できる」サービスとして2017年にローンチしています。
創業から約8年を経た2023年6月には、Uber初期投資家として知られるジェイソン・カラカニス氏のファンドがリードする形で約1,000万ドル(約14億円)のシリーズB資金調達を実施。TechCrunchにも大きく取り上げられ、全米主要都市にサービスを展開するまでに成長しました。
内藤氏は現在、Anyplaceの経営に注力する傍ら、DeNA創業者の南場智子氏らによる日米起業支援プログラム「Delight X」にメンターとして参加し、次世代の日本人起業家をサポートしています。「日本人ファウンダーがもっと米国で活躍できると信じられるよう成功事例を増やしたい」との思いを公に表明しており、自身の経験を後進に還元する活動を展開中です。
Robust Intelligence共同創業者 – 大柴行人氏
大柴行人氏は日本で高校まで過ごした後、ハーバード大学に進学してコンピューターサイエンスと統計学を専攻しました。在学中に指導教授だったヤロン・シンガー氏と「ロバスト機械学習」に関する研究に取り組み、この研究成果を事業化するため、卒業後間もない20代前半でシンガー教授と共にAIセキュリティ領域のスタートアップ「Robust Intelligence」を2019年に創業しました。
Robust Intelligenceは、AIモデルの脆弱性を検知・防御する技術を提供し、金融機関やハイテク企業、政府機関を顧客に持つまでに成長。創業からわずか1年で米国の複数企業への導入実績を築き、2020年にはSequoia CapitalからシリーズA資金調達に成功しています。
2021年末にはTiger Globalをリード投資家とする3,000万ドルのシリーズB調達も実現し、累計調達額は4,400万ドルに達しました。大柴氏個人もForbes 30 Under 30に選出されるなど、若き起業家として国際的な評価を獲得しています。
2024年8月には米Cisco社による買収が発表され、大柴氏は「Ciscoという圧倒的リーチを持つプラットフォームを得て、我々の使命を次の章で実現できる」とLinkedInで述べています。ハーバードの一学生から、グローバル企業に買収される企業を生み出した創業者へと、わずか数年で劇的なキャリア転換を遂げました。
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