なぜ日米の税制比較が重要なのか
グローバル化が進む現代において、日本とアメリカの税制の違いを理解することは、国際ビジネスを展開する企業や海外赴任を控えるビジネスパーソン、さらには投資家にとって不可欠な知識となっています。両国の税制は、所得税の徴収方法から消費税の仕組みまで、根本的に異なる設計思想に基づいています。
本記事では、日本とアメリカの所得税・消費税について、税率、徴収の仕組み、そして2025年時点での最新の改正動向まで詳しく解説します。これにより、両国の税制の特徴を正確に把握し、適切な税務戦略を立てる参考としていただけます。
所得税の日米比較:累進課税の違いと申告方式の差
税率構造:最高税率と地方税の扱い
日本の所得税は、5%から45%までの7段階の累進課税制度を採用しています。これに加えて、市町村民税と都道府県民税を合わせた住民税が一律約10%課されるため、最高所得層では合計で約55%の税負担となります(2037年までは復興特別所得税2.1%も加算されます)。
一方、アメリカの連邦所得税は10%から37%までの7段階の累進課税です。ただし、これは連邦税のみであり、さらに州所得税が加わります。州所得税の税率は州によって大きく異なり、テキサス州など7州は所得税がゼロである一方、カリフォルニア州では最高約13%に達します。このため、居住する州によって実質的な税負担は大きく変動します。
日本では全国一律の税率体系であるのに対し、アメリカでは州ごとの税率差が大きく、タックスプランニングにおいて居住地選択が重要な要素となります。
徴収方法:年末調整か確定申告か
日本とアメリカの所得税における最も大きな違いの一つが、徴収方法です。
日本では、給与所得者の場合、雇用主が毎月源泉徴収を行い、年末調整で精算するため、原則として個人が確定申告を行う必要はありません。自営業者や副収入がある場合のみ、翌年3月15日までに確定申告を行います。この仕組みにより、多くの給与所得者は税務申告の手続きから解放されています。
対照的に、アメリカでは全ての納税者が毎年確定申告を行う必要があります。給与所得者であっても、雇用主が発行する源泉徴収票(W-2フォーム)を基に、翌年4月15日までに連邦内国歳入庁(IRS)および州税務当局へ申告書を提出し、税額を精算しなければなりません。給与から税金は天引きされますが、最終的な納税額の確定は個人の申告によって行われます。
この違いは、納税者の税務リテラシーや税理士への依存度にも影響を与えています。アメリカでは個人の税務申告が一般的であるため、税務ソフトウェアの利用や税理士への相談が日本以上に普及しています。
最近の税制改正と今後の動向
日本の動向
日本では、2023年度の税制改正において、総所得が約30億円を超える超富裕層に対し追加の所得税を課す新制度、いわゆる「富裕税」が創設されました。これは、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化を目的としており、所得再分配機能の強化を図るものです。
また、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化・拡充など、投資所得課税の見直しも進められています。2023年度からは「つみたて投資枠」120万円、「成長投資枠」240万円に拡充され、生涯非課税保有限度額も1800万円に設定されました。これらの改正は、個人の資産形成を促進し、経済成長につなげる狙いがあります。
今後については、高齢化に伴う財政需要の増大を背景に、高所得者への増税策が引き続き議論される見通しです。
アメリカの動向
アメリカでは、2017年の税制改革(TCJA)で個人所得税率が引き下げられましたが、この減税措置は2025年末で失効する予定です。2026年以降は税率が元の最高39.6%に戻る見通しとなっており、この期限切れへの対応が重要な政策課題となっています。
バイデン政権は高所得者に対する増税を提案しており、最高税率を37%から39.6%に引き上げることや、富裕層への最低課税(ミニマム税)導入などを掲げています。ただし、これらの増税案の実現は政権や議会の多数派の動向に左右されるため、今後の展開は不透明な状況です。
消費税(売上税)の日米比較:VAT方式と小売段階課税の違い
税率体系:全国統一か地域ごとか
日本の消費税は、2019年10月から標準税率10%(食品・飲料等の軽減税率は8%)となっています。全国どこでも同一税率が適用され、消費税10%の内訳は国税7.8%、地方消費税2.2%です。地域による税率差は一切ありません。
一方、アメリカには連邦レベルの一般消費税は存在せず、各州や地方自治体が独自に売上税(Sales Tax)を課税します。税率は州・都市によって大きく異なり、おおむね0%から約10%前後の範囲です。例えば、カリフォルニア州は州税7.25%に地方税が加わり計7.75~10.25%、ニューヨーク州は州税4%に地方税が加わり計4~8.875%となります。オレゴン州やデラウェア州など一部の州では州売上税がゼロです。
このため、アメリカでは購入する場所によって実質的な税負担が大きく変動し、消費者は税率の低い州で買い物をする「タックスショッピング」を行うこともあります。
徴収の仕組み:付加価値税か小売段階課税か
日本の消費税は付加価値税(VAT)方式を採用しています。事業者は商品・サービス提供時に消費者から消費税を預かり、自身が仕入れ等で支払った消費税額を差し引いた残額を国に申告・納付します。この多段階課税により、流通の各段階で二重課税を避けつつ最終消費に10%が課税される仕組みです。
原則として課税期間(法人は事業年度、個人事業者は暦年)ごとに申告し、個人事業者の場合は翌年3月31日までに納付します。中小事業者には年商1,000万円以下で納税免除となる制度もあります。
対照的に、アメリカの売上税は小売段階での間接税です。商品・サービス販売時に販売者が購入者から税金を上乗せ徴収し、その売上税を州や地方の税務当局に定期申告・納付します。最終消費取引のみに課税され、中間の卸売・製造段階の取引は再販目的であれば非課税(Resale証明書の提示で免税)となります。
販売事業者は販売先の各州で売上税許可証(Sales Tax Permit)を取得登録し、州ごとに定められた頻度(売上規模により月次・四半期など)で申告・納税する必要があります。また、価格表示については、日本では税込価格の総額表示が義務付けられているのに対し、アメリカでは税抜き表示が基本で、レジで税額が加算される形式です。
最近の税制改正と今後の課題
日本の動向
日本では2019年に標準税率が8%から10%へ引き上げられ、併せて食品などへの軽減税率8%が導入されました。その後、2023年10月からは適格請求書(インボイス)制度が開始され、適正な仕入税額控除のため請求書発行・保存方式が導入されています。
消費税率について政府は当面10%を維持する方針ですが、将来的な財政需要に備え税率引上げの可能性も指摘されています。特に、社会保障費の増大や国債残高の累増を考慮すると、中長期的には消費税率の見直しが避けられないとの見方もあります。
一方で、近年の物価高を受け一部野党などから消費税減税(例えば5%への一時引下げ)を求める声もあり、消費税を巡る議論は続いています。
アメリカの動向
アメリカでは、2018年の連邦最高裁判決(South Dakota v. Wayfair)により、州外(オンライン)販売でも一定規模を超えれば売上税徴収義務が生じるルールが確立されました。これを受け各州は売上高や取引件数に基づく経済的ネクサス基準を設け、Amazonなどの大手マーケットプレイスを含むオンライン販売事業者に対して売上税の登録・徴収を義務付ける動きが広がりました。
この結果、従来課税が及ばなかった州際取引にも課税範囲が拡大しています。オンライン販売事業者にとっては、複数州での売上税登録・申告が必要となり、コンプライアンス負担が増大しています。
なお、アメリカには依然として連邦レベルの付加価値税や全国消費税は導入されておらず、導入の是非は時折議論に上るものの実現していません。また州レベルでは、近年いくつかの州で生活必需品への非課税措置や税率変更(例:食料品の売上税減免)などの見直しも行われており、売上税の税制改正・議論は各州で随時行われています。
まとめ:税制の違いを理解してグローバル戦略を構築
日本とアメリカの税制は、所得税・消費税ともに根本的な設計思想が異なります。
所得税においては、日本の年末調整制度による簡便な徴収方式と、アメリカの全員確定申告制度という大きな違いがあります。また、税率についても、日本は全国一律であるのに対し、アメリカは州ごとに大きく異なるため、居住地選択が税負担に直結します。
消費税(売上税)については、日本の付加価値税方式による全国統一税率と、アメリカの小売段階課税による地域別税率という対照的な仕組みとなっています。特にアメリカでは、オンライン販売への課税強化が進んでおり、EC事業者のコンプライアンス負担が増大している点に注意が必要です。
両国とも、富裕層への増税や財政健全化を巡る議論が活発化しており、今後の税制改正動向を注視する必要があります。グローバルビジネスを展開する企業や国際的な活動を行う個人にとって、これらの税制の違いを正確に理解し、適切なタックスプランニングを行うことが、経済的成功の鍵となるでしょう。
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