日本人起業家がアメリカで起業する理由|FDA対応・投資環境・自由と責任の文化

米国越境EC

はじめに

近年、日本人起業家がアメリカで事業を立ち上げるケースが増加しています。医療機器開発、ソフトウェア、食品D2C、ヘルスケアといった多様な分野で、彼らは日本ではなく米国での起業を選択しています。その背景には、単なる市場規模の違いだけでなく、FDA(米国食品医薬品局)対応を含む規制環境、失敗を恐れない文化、実力主義の評価制度といった米国特有の「自由」と「責任」のエコシステムが存在します。

本記事では、創薬ベンチャー「Acucela」の窪田良氏、ソフトウェアテスト自動化の「Autify」近澤良氏、ラーメン宅配サービス「Ramen Hero」長谷川浩之氏、サプリメント原料供給の「Maypro」山田リフトン真由美氏、越境ECプラットフォーム「ジグザグ」仲里一義氏らの実例を通じて、なぜ日本人起業家がアメリカを選ぶのか、その理由と価値観を掘り下げます。

医療・ヘルス領域におけるFDA対応と挑戦の自由

窪田良氏のAcucelaに見る米国起業の動機

創薬ベンチャー「Acucela」を米シアトルで創業した窪田良氏は、日本の医師出身ながら米国での起業を選びました。その理由として、アメリカには世界最先端の研究環境と大規模市場があり、「なぜ世界からスタートしないのか?」という想いがあったと語っています。

窪田氏は眼科の未治療疾患に挑むため渡米し、ワシントン大学の有力チームで研究成果を事業化しました。新薬開発にはFDA承認が不可欠で、長年を要する高リスク事業です。しかし、アメリカの起業文化は失敗に寛容で、「失敗してもその経験を活かせば次により良い起業ができる」という前向きな姿勢が根付いています。

失敗許容度と投資家の姿勢

実際、窪田氏は「起業家の失敗に対する許容度」が日本の投資家より米国では高いことを感じており、失敗を恐れず挑戦し、それを糧に成長できる自由な風土がイノベーションを生むと指摘します。新薬開発は3万分の1の確率で成功すると言われる分野であり、このアメリカの考え方に適していると言えます。

実力本位の評価制度

さらに窪田氏は、アメリカでは現在生み出せる価値で正当に評価される文化にも言及しています。学歴や肩書きより「リアルタイムの価値」を重視するため、彼自身、ある米国シンクタンクの仕事を通じて台湾総統と会談する機会すら得られた経験を紹介し、「日本ではベンチャー社長が他国の大統領に会うことはまずないが、価値があれば会う機会を作れる。この風土は素晴らしい」と述べています。

これは実力本位の自由な評価制度があることを示しており、起業家にとっては自らのアイデアと価値創造力で正面から勝負できる土壌と言えます。もちろんその分だけ結果に対する自己責任も伴いますが、窪田氏は「自由と引き換えに責任を負う」アメリカでの起業家人生を前向きに捉えています。

人材流動性と終身雇用の不在

実際、米国には終身雇用の慣行がなく、人材は常に次の機会を睨んで自分の価値を高めようとするため、優秀な人材がスタートアップにも流動しやすいと言います。「終身雇用がない社会では若者は携わる仕事でどれだけ価値を生み出したかが問われる」ため、ベンチャーに必要な人材が集まりやすいのです。

このように成果で評価され、失敗を糧に再挑戦できる自由度の高さこそが、FDA対応のような困難な事業に日本人が敢えて米国で挑む大きな動機となっています。窪田氏のAcucelaも米国投資家から資金調達に苦労しつつ、日本からの資金も活用して世界35カ国で医療機器・医薬品を展開しました。

シリコンバレーのテック起業におけるグローバル市場と投資環境

Autify近澤良氏の「なぜ世界から始めないのか?」

ソフトウェア分野でも、まずアメリカで起業する利点を挙げる日本人起業家が増えています。ソフトウェアテスト自動化スタートアップ「Autify」をシリコンバレーで創業した近澤良氏は、「グローバル市場が一番スケールが大きい舞台なので、逆になぜそこ(世界)から始めないのか?という想いがあった」と語ります。

近澤氏によれば、海外のVC(ベンチャーキャピタル)は基本的に日本発のスタートアップには投資しない傾向があるため、米国で会社を立ち上げて米国版TechCrunchに載るように事業を進めたいと考えたといいます。この発言からも、投資環境の違いが大きな動機であることが分かります。

トップアクセラレーターへの参加

実際、米国ではシードアクセラレーターやVCから大きな資金調達が得やすく、スタートアップコミュニティも充実しています。近澤氏は日本人として初めて米国トップクラスのアクセラレーター「Alchemist Accelerator」を卒業し、日米両拠点で事業を展開する道を切り拓きました。その背景には、日本にいては得られない投資・ネットワークの機会を米国で掴み取ったことが挙げられます。

日本人起業家コミュニティの形成

同様にシリコンバレーでAnyplaceを創業した内藤聡氏や、Ramen Heroを創業した長谷川浩之氏も「海外でゼロから挑戦した日本人起業家コミュニティが耕され始めている」と述べており、近年は英語力や起業経験がなくても日本人がベイエリアで成功するロードマップができつつあるといいます。

彼らは互いに助け合いながらアクセラレーター参加やプロダクト検証(キックスターターでの市場テスト等)を行い、事業を全米規模にスケールさせています。特にグローバル志向の強い起業家ほど、「世界を変えたいなら初めから世界を目指すべきだ」という価値観を共有しており、日本国内に留まらないダイナミックな挑戦に魅力を感じています。

シリアルアントレプレナーの存在

加えて、シリコンバレーではシリアルアントレプレナー(連続起業家)の存在や豊富なメンター・同胞コミュニティも、挑戦を後押しする要因です。例えば、シリコンバレーでFitbit創業に関わった熊谷芳太郎氏は「アメリカの起業家は失敗を恐れない。失敗の経験がビジネスの原動力になる」と語り、失敗から学んで次に活かす文化がイノベーションの秘訣だと強調しています。

日本にも良さはあるものの、「失敗を恐れずチャレンジし、失敗の経験を糧にする姿勢」はぜひアメリカに学んでほしい部分だと熊谷氏は述べています。このように、自由な発想で何度でも挑戦できる環境や、世界最大の市場・資本へのアクセスが、テック領域の在米起業家を惹きつけているのです。

食品D2C・越境ビジネスにおける大市場とイノベーションの責任

Ramen Hero長谷川浩之氏の渡米と事業展開

日本の食文化をアメリカで広めた事例として、サンフランシスコ発のラーメン宅配サービス「Ramen Hero」の長谷川浩之氏が挙げられます。長谷川氏はもともと「いつかアメリカで事業をしたい」という夢を抱き、東京での起業失敗後に「失うものもない」と単身渡米しました。

彼は当初英語力への不安から渡米を躊躇しましたが、「実際に来てみたら大変だけど何とかなると分かった。今では最初からアメリカに来れば良かったと思う」と振り返っています。この発言は、言語や文化の壁を超えてでも得られる米国市場での自由な挑戦機会の価値を物語っています。

Kickstarterでの検証とアクセラレーター

実際、彼の事業は2017年にKickstarterでアイデア検証を行い、米アクセラレーターAngelPadに採択され、現在は全米48州に顧客を持つまでに成長しました。これは、米国の消費者の反応を直接得てビジネスを磨き上げる自由と、それを自ら推し進める起業家の責任感があってこその成功と言えます。

長谷川氏自身、「私はアメリカで売りたい商材を扱っているのでアメリカにいます」と語り、プロダクトに最適な市場として米国を選んだことを明かしています。日本人向けだった商品も徐々に現地のアメリカ人に広がり、顧客の約半数は非日系人になるなど、市場開拓にも成果を上げています。

挑戦者に優しいエコシステム

米国でゼロから食品ビジネスを立ち上げるには、FDAの食品安全基準や現地物流網など実務面のハードルもあります。しかしRamen Heroのように現地で製造・配送まで完結するモデルであれば、規制対応もしやすく、スピーディーに全国展開できるメリットがあります。

長谷川氏は「挑戦者に優しいミートアップやコワーキングスペースがたくさんある」とアメリカのスタートアップ環境に感動したと冗談交じりに語っています。実際、彼は資金難の時期に無料のピザが出る交流会に足繁く通い食いつなぐという逞しい経験もしました。このように起業家自身の生活すら自力で切り拓かなければならない厳しさもありますが、それこそが自由と責任を背負う起業家魂と言えるでしょう。

コミュニティの支援

さらに、長谷川氏は在米日本人起業家コミュニティの存在も成功要因に挙げ、「先に来ていた内藤さん(Anyplace創業者)や小林清剛さんらが会社の立ち上げ方を教えてくれ、人を紹介してくれた。先人がいたことは大きかった」と述べています。先行者たちが築いたネットワークと知見の上に、自身の努力を積み重ねることで、自由な発想を形にできたのです。

ヘルス・美容産業における制度・文化の違いとイノベーションの自由度

Maypro山田リフトン真由美氏の市場分析

サプリメントや化粧品業界でも、米国で事業を展開することで得られるメリットは大きいと語られています。ニューヨークに本社を置く原料供給企業メイプロ・グループCEOの山田リフトン真由美氏は、「米国のスポーツサプリ市場規模は約1.5兆円で、日本のサプリ市場全体に匹敵するほど大きい」と述べ、まず市場規模の圧倒的な違いを指摘します。

巨大市場ゆえに成長余地が大きく、同社も収益性の高いカテゴリーを見極めて重点投入しているといいます。また米国ではエビデンス(科学的根拠)に基づくマーケティングが重視され、医師など専門家インフルエンサーが商品の効能データを発信すると売上に直結する傾向が強いと山田氏は指摘しています。

エビデンス重視の文化

山田氏は「日本では美しいモデルがPRするケースが多いが、米国では医師などプロフェッショナルの発信力が大きい」と述べ、市場アプローチの違い(制度的・文化的背景)を説明しています。これは、FDAの下でサプリメントは「Dietary Supplement」として比較的自由に販売できる一方、信頼性確保のため企業側が主体的に科学的裏付けを示す文化があるためです。

例えば更年期向けサプリメント一つ取っても、日本では有名商品が限られるのに対し、米国ではホルモン療法の反動からナチュラル志向のサプリ市場が拡大するといった具合に、規制とニーズの変化がビジネスチャンスを生んでいます。

ダイバーシティと柔軟な戦略

さらに、山田氏はダイバーシティの点でも米国の環境の良さを感じており、「日本の健康産業界は女性社長が少ないが、当社(メイプロ)は社員の半数以上が女性で、性別関係なくリーダーシップを取っている」と述べています。米国の方が男女問わず実力でキャリアを築きやすい土壌があり、スタートアップでも多様な才能を活かしやすいという側面があります。

山田氏は、日本発の有用素材でも売り方次第で米国市場で成功するケースがあると述べ、「日本の機能性素材を、日本とは全く違う売り方で販売して成功することもある」と強調しています。これは、各国の規制・嗜好に合わせて柔軟にマーケティング戦略を変える自由度が企業側にあることを意味します。

越境ECプラットフォームにおける国境を超えた自由な取引

ジグザグ仲里一義氏のビジョン

日本の商品を世界に届ける越境EC(クロスボーダー電子商取引)の分野でも、在米起業とは少し毛色が異なるものの「自由」と「責任」の価値観が色濃く現れた事例があります。株式会社ジグザグの仲里一義氏は、自ら創業したサービス「WorldShopping BIZ」を通じて「国境を気にせず安心・安全・簡単・自由にショッピング・販売ができる」世界を目指しました。

彼がこの事業を思い立った背景には、インターネットで誰もが世界中の情報にアクセスできるようになった現在でも、「言語」「決済手段」「海外配送」といった壁のせいで欲しい物が国境を越えて買えない現実への問題意識がありました。

物流障壁の克服

仲里氏はそれを「衝撃の事実」と捉え、「欲しいのに買えない」「売りたいのに届けられない」というミスマッチを解消したいとの強い使命感で2015年に会社を創業。自社で国際物流の拠点を日米韓独に構築し、国内ECサイトにワンタグ追加するだけで125ヶ国からの注文に対応できる仕組みを作り上げました。

これは、日本企業やショップが自国のシステムを変えずに世界中の顧客に商品を届けられる自由をもたらす画期的サービスです。仲里氏自身、「すべてのECサイトが世界中の『欲しい』に応えられるサービスを作りたい」というビジョンを掲げています。

自由と責任の両立

この「世界の欲しいに応える」という言葉に、越境EC起業家の責任感が表れています。つまり、自社の利益だけでなく、日本の商品を求める海外消費者や海外販路を求める日本事業者の双方に応えることで、双方に価値を届ける責任を負っているのです。

越境ECには各国の輸出入規制への対応や多言語カスタマーサポートなど実務上の課題も多くありますが、それを包括的に引き受けることで利用企業・消費者に自由な取引体験を提供するのがジグザグのモデルです。仲里氏は国際物流業に携わった経験から「マーケットの拡大は予想できるが、大手が参入しづらい物流面の障壁」があることに着目し、そこにビジネスチャンスを見出しました。

共通する価値観:自由の裏にある責任と文化的モチベーション

自由と責任の表裏一体

以上の事例に共通するのは、在米起業家たちが口々に語る「自由」と「責任」の価値観です。彼らはアメリカで起業することで得られる自由、すなわち「市場や規制の束縛が比較的少なく、自分の発想次第で事業を大きく羽ばたかせられる環境」に強く魅了されています。

その自由の背景には、失敗を恐れず挑戦を称賛する文化や、成果主義・実力主義による正当な評価、多様な才能・資金が集まるエコシステムなど、米国独自の制度・文化的土壌が存在します。また「規制が厳しいならまず米国基準をクリアしよう」「大企業中心の日本よりベンチャーが成長しやすい社会へ飛び込もう」といった制度的インセンティブも彼らの背中を押しています。

自己責任の重み

しかし一方で、その自由と表裏一体の「自己責任」を彼らは強く自覚しています。ニューヨークでキャリアアカデミーを創業した大澤直美氏は「上司に相談できる存在もなくなり、自由と引き換えに責任を負うことになった」と起業後を振り返っています。

米国で一度会社員という「枠」を外れたら、全ては自分の裁量と責任に委ねられるという現実です。ただ彼女は「必要な時は周りの方々に力になってもらっている。会社員時代以上に人間関係の大切さを実感している」とも語り、自由な挑戦も周囲の支えや信頼を築く責任を果たすことで成り立つことを示唆しています。

成果で勝負する覚悟

米国社会では成果を出せなければ容赦なく評価されない厳しさもありますが、その分一度築いた信頼や実績は大きな果実となります。冒頭の窪田氏も「現地で必要とされる価値を生み出せれば相応の評価をしてくれる」と述べました。まさに、自由には常に責任が伴い、その責任を全うしてこそ更なる自由(評価や次の機会)を勝ち取れるということです。

文化的モチベーション

最後に、在米起業家たちの根底にある文化的モチベーションにも触れておきます。多くのケースで、「日本ではなくアメリカで起業したのはなぜか?」という問いに対し、「世界を相手に戦いたかった」「できるはずがないことに挑みたかった」という大志や反骨心が語られます。

山田俊介氏(オフサイト支援サービスRetreat創業者)は「『アメリカでの起業はこんなにも楽しくてぶっ飛んでる!』ということを伝えたい」と述べ、自らの失敗談も含めて米国で挑戦するリアルを発信しています。その裏には、「日本人が米国で起業する流れは今まさに開花期を迎えつつある」という確信や、「難易度が高いからこそ人生を懸ける意味がある」という熱い想いがあります。

彼らは単にビジネス上の損得だけでなく、「世界史の中に足跡を残す」という気概や、自分の人生を賭してでも成し遂げたい使命感に突き動かされているのです。この精神面での原動力こそ、在米起業家が異国の地で自由と責任を全身で引き受け、逆境にも「楽天的な挑戦者」でいられる秘訣なのかもしれません。

まとめ

日本人起業家がアメリカで起業する理由は多岐にわたりますが、共通するのは「自由」と「責任」という価値観です。FDA対応や越境ECといった困難な実務を伴う領域であっても、自由な発想と覚悟を持って飛び込んだ起業家たちは、自らの価値観を武器に日々世界と渡り合っています。

医療・ヘルス領域では、窪田良氏のように失敗を恐れず挑戦し、実力で評価される環境に魅力を感じる起業家が増えています。テック領域では、近澤良氏のように世界最大の市場と投資環境を求めて渡米する動きが加速しています。食品D2Cでは、長谷川浩之氏のように言語の壁を超えて米国市場で勝負する起業家が現れています。

ヘルス・美容産業では、山田リフトン真由美氏のように市場規模とエビデンス重視の文化に適応し、柔軟な戦略で成功を収める企業が存在します。そして越境ECでは、仲里一義氏のように物流障壁を克服し、世界中の「欲しい」に応えるビジョンを実現する起業家が登場しています。

これらの事例から見えてくるのは、「不可能ではないし、だからこそ挑戦する価値がある」という在米起業家たちの強い信念です。FDA対応や越境ECといった困難な実務を伴う領域であっても、自由な発想と覚悟を持って飛び込んだ起業家たちは、自らの価値観を武器に日々世界と渡り合っているのです。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

2026年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728  
ランキング
  1. 1

    AmazonとShopifyの米国Sales Tax完全ガイド|徴収・設定・申告の違いを徹底解説

  2. 2

    日本と米国の医薬品・医療機器ラベリング要件を徹底比較|規制の違いと実務ポイント

  3. 3

    【2025年最新】米国50州のSales Tax登録義務完全ガイド|越境EC・米国進出企業必見

アーカイブ
TOP
CLOSE
目次