はじめに
米国で法人を設立する際、LLC(合同会社)、C-Corporation(株式会社)、S-Corporationのいずれを選択するかは、初期費用だけでなく年間維持費にも大きく影響します。設立後に予想外のコストが発生し、事業計画が狂うケースは少なくありません。
本記事では、各法人形態の年間維持費と税務申告関連コストを、連邦税・州税・フランチャイズ税・専門家費用など項目別に比較します。デラウェア州、カリフォルニア州、ニューヨーク州の代表的な州別の違いにも触れながら、実際の金額感をお伝えします。
米国法人の3つの形態とコスト構造の違い
LLCの特徴とコスト構造
LLCはパススルー課税を採用しており、法人自体には連邦所得税が課されません。利益は構成員(メンバー)個人に分配され、各個人の所得税申告で課税されます。単独オーナーの場合はディスレガーデッドエンティティとして扱われ、個人事業と同様に申告できるため、税務申告の負担が比較的軽い点が特徴です。
州レベルでは法人所得税はほとんどありませんが、フランチャイズ税や年間事業税が課される州があります。例えばデラウェア州では年間300ドルの定額税、カリフォルニア州では最低800ドルのフランチャイズ税に加え、総収入に応じた追加費用(最大約11,790ドル)が発生します。
C-Corpの特徴とコスト構造
C-Corpは法人自体が納税主体となり、連邦法人税率21%で課税されます。さらに株主への配当時にも株主個人が課税されるため、いわゆる「二重課税」が発生します。例えば10万ドルの利益に対し、まず法人が21%(2.1万ドル)を納税し、残りを配当すると株主がさらに最大20%程度の税を負担することになります。
州法人税も事業を行う各州で課されます。カリフォルニア州では8.84%、ニューヨーク州では6.5~7.25%の州法人税が追加されます。一方、デラウェア州は州内で事業を行わない限り州法人所得税が非課税となるため、多くの企業がデラウェア州を選択する理由の一つとなっています。
S-Corpの特徴とコスト構造
S-Corpはパススルー課税を選択した法人形態で、連邦レベルでは法人自体に所得税が課されません。利益は株主に按分され、各株主の個人所得税として課税されます。これによりC-Corpの二重課税を回避できます。
ただし、株主は100人以下で米国市民または永住者に限られるなどの制限があります。また、オーナー社長が会社で働く場合は適正な役員給与を支払う義務があり、給与に対する社会保障税やメディケア税(約15.3%)が発生します。州税については、多くの州で連邦同様にパススルー扱いですが、カリフォルニア州では1.5%の法人税(最低800ドル)が課されるなど、州により扱いが異なります。
連邦税と州税の違いを理解する
連邦法人税の課税方式
LLCとS-Corpはパススルー課税のため、連邦レベルでは法人自体に所得税が課されません。一方、C-Corpは法人段階で21%の連邦法人税が課されます。パススルー課税では、法人の利益が各構成員や株主の個人所得として扱われるため、最終的な税率は個人の所得税率に依存します。
個人所得税率は累進課税で、2025年時点では最高税率37%となっています。したがって、高所得者がLLCやS-Corpを選択した場合、実効税率がC-Corpの21%を上回る可能性もあります。一方、C-Corpは配当時に二重課税が発生するため、トータルでの税負担を慎重に比較する必要があります。
州ごとの税制の違い
州税制は州によって大きく異なります。カリフォルニア州ではC-Corpに8.84%、S-Corpにも1.5%の州法人税が課されます。ニューヨーク州ではC-Corpに6.5~7.25%の州法人税が課されますが、S-Corpは州法人税が免除され、代わりに定額のフランチャイズ税(25~4,500ドル)のみとなります。
デラウェア州は州内で事業を行わない限り州法人所得税が非課税であり、州外の収益には州税がかかりません。このため、多くの企業がデラウェア州を本店所在地として選択しています。ただし、デラウェア州でもフランチャイズ税は別途発生するため注意が必要です。
年間維持費の主要項目
フランチャイズ税・年間最低税
フランチャイズ税は、事業の有無にかかわらず法人登記を維持するための州への年間支払いです。デラウェア州ではLLCに年間300ドル、C-Corp・S-Corpには最低175ドル(発行株数等により増加、最大20万ドル)のフランチャイズ税が課されます。小規模スタートアップの場合、多くは最低税額の175ドル+年次報告料50ドル=225ドル程度で済みます。
カリフォルニア州では全ての法人形態(LLC含む)に年間800ドルの最低フランチャイズ税が課されます。ただし新規設立法人は初年度免除となります。LLCの場合、総収入に応じた追加費用が発生し、例えば収入25万ドル以上で900ドル、50万ドル以上で2,500ドルと段階的に増加します。
ニューヨーク州のC-Corpは州内収入に応じて年間最低税(25ドル~最大20万ドル)が課されます。例えば州内売上10万ドル以下なら25ドル、100万ドル超なら約1,000ドルとなります。S-Corpも同様の定額税が適用されます。
会計・税務申告費用
税務申告書の作成は専門知識を要するため、多くの企業がCPAや税理士に依頼します。全米税理士協会の調査によると、個人事業主(スケジュールC)の申告費用は平均約192ドル、C-Corp(Form 1120)は平均約913ドル、S-Corp(Form 1120S)も同程度と報告されています。
LLCは単独オーナーであれば個人申告内で処理できるため費用は抑えられますが、複数メンバーの場合はパートナーシップ申告(Form 1065)が必要となり、数百ドルから1,000ドル程度の費用が発生します。C-CorpとS-Corpは法人税申告が必須であり、事業規模や帳簿の複雑さによっては数千ドルに達することもあります。
さらに、複数州で事業を行う場合は各州の法人税申告書も必要となり、州ごとに数百ドル程度の追加費用が発生する可能性があります。継続的な記帳代行や給与計算サービスを利用する場合は、それらの費用も年間維持費として考慮する必要があります。
登録エージェント費用
米国では全ての法人形態(LLC、C-Corp、S-Corp)が設立州および事業を行う州で登録代理人(Registered Agent)を置く法的義務があります。登録代理人は州からの公式書類や訴状などを受け取る役割を担います。
一般的な登録代理人サービスの年間費用は100~300ドル程度です。例えばLegalZoomでは年間249ドルでサービスを提供しています。複数州で事業登記している場合は、各州ごとに登録代理人が必要となるため、その分費用が増加します。
自分自身や社員を登録代理人にすることも可能ですが、平日の営業時間中に常にその州の登録住所に常駐できることが要件となるため、実際には専門サービスを利用するケースが大半です。
年次報告書の費用
年次報告書は法人の情報(役員、所在地など)を州に届け出る義務です。デラウェア州ではC-Corp・S-Corpは毎年の年次報告提出(50ドル)が必要ですが、LLCは報告義務がなく税金のみです。期限後の提出には200ドルのペナルティと月1.5%の延滞利息が課されます。
カリフォルニア州では全法人形態で年次または隔年の情報届出(Statement of Information)が必要で、オンライン提出で20~25ドルの手数料がかかります。ニューヨーク州は州税申告時に事業報告も兼ねており、別途の年次報告書提出義務はありませんが、2年ごとの情報更新要求がある場合があります。
州別コスト比較(デラウェア・カリフォルニア・ニューヨーク)
デラウェア州での維持費
デラウェア州はビジネスフレンドリーな州として知られ、多くの企業が本店登記地として選択しています。LLCの年間維持費は300ドルの定額税のみで、年次報告義務もありません。C-Corp・S-Corpは最低175ドルのフランチャイズ税+年次報告料50ドルで合計225ドル程度が一般的です。
デラウェア州の最大の利点は、州内で事業を行わない限り州法人所得税が非課税となる点です。例えばデラウェア州で法人登記し、実際の事業はカリフォルニア州で行う場合、デラウェア州には州法人税を支払う必要がありません(ただしカリフォルニア州には州法人税が発生)。
州内で事業を行う場合は、一般営業ライセンス料(年75ドル)や市町村のビジネスライセンス料(50~200ドル程度)が別途必要となります。全体として、事業実態がない場合のデラウェア州の維持費は比較的低額に抑えられます。
カリフォルニア州での維持費
カリフォルニア州は全米で最も税負担が重い州の一つです。全ての法人形態に年間800ドルの最低フランチャイズ税が課されます(新規設立は初年度免除)。C-Corpにはさらに8.84%の州法人所得税が課され、S-Corpにも1.5%の州法人税が適用されます。
LLCは総収入に応じた追加のLLC fee(25万ドル以上で900ドル、50万ドル以上で2,500ドル、最大約11,790ドル)が発生するため、収益が大きい場合は維持費が急増します。年次情報届出(Statement of Information)は2年ごとに20ドルで提出が必要です。
市町村レベルでもビジネスライセンス税が課される場合が多く、年間50~200ドル程度が一般的です。税務申告も複雑になりやすく、CPA費用も他州より高めになる傾向があります。カリフォルニア州で事業を行う場合は、年間維持費として最低でも1,000~2,000ドル程度を見込む必要があります。
ニューヨーク州での維持費
ニューヨーク州のC-Corpは6.5~7.25%の州法人税が課されますが、年間最低税(Fixed Dollar Minimum Tax)として州内収入に応じた定額税(25ドル~最大20万ドル)も適用されます。S-Corpは州法人税が免除される代わりに、同様の定額税(25~4,500ドル)を支払います。
LLCの場合、州法人所得税はありませんが、州内所得に応じたfiling fee(最大約4,500ドル)が年間で発生します。また、LLC設立時には新聞公告費用(初年度のみ、1,000~2,000ドル程度)という独特の費用がかかります。
ニューヨーク州は年次報告書の提出義務が明確には定められていませんが、2年ごとに法人情報の更新を求められる場合があります。ニューヨーク市内で事業を行う場合は、市のビジネス登録料や各種許認可料も追加で必要となります。
S-Corp特有の給与支払い義務とコスト
合理的給与の要件
S-Corpでは、オーナー社長が会社で働いている場合、適正な役員給与を支払わなければならないというIRS(米国税庁)の規定があります。これは、全利益を分配金として受け取り、給与税(社会保障税・メディケア税)を回避することを防ぐためです。
「合理的給与」の明確な基準はありませんが、一般的には同業種・同規模企業の役員給与水準を参考にする必要があります。IRSは給与が不当に低いと判断した場合、追徴課税やペナルティを課す権限を持っています。
ペイロール税の負担
役員給与を支払う場合、給与額の約15.3%(社会保障税12.4%+メディケア税2.9%)を会社と本人が半分ずつ負担します。例えば年間給与5万ドルの場合、約7,650ドルのペイロール税が発生します。
給与計算には源泉徴収、四半期ごとの納税申告(Form 941)、年末のW-2発行などの事務作業が伴います。ペイロールサービスを利用する場合、月額50~100ドル程度の費用が追加でかかります。この給与関連コストはS-Corp特有の負担であり、事前に計画に組み込む必要があります。
法人形態選択の判断基準
事業規模による選択
小規模事業や個人事業主がまず検討すべきはLLCです。税務申告が簡便で、維持費も比較的低額に抑えられます。ただし、収益が大きくなるとカリフォルニア州のような州では追加費用が発生するため、注意が必要です。
中規模以上で将来的に外部投資を受ける予定がある場合は、C-Corpが適しています。ベンチャーキャピタルの多くはC-Corp形式を前提としており、株式の発行や譲渡が柔軟に行えます。ただし、二重課税と高額な維持費がデメリットとなります。
S-Corpは税負担を軽減しつつ法人格を維持したい場合に適していますが、株主制限や給与支払い義務などの制約があります。年間利益が10万ドル以上で、オーナーが実際に経営に携わる中小企業に向いている形態と言えます。
税負担の最適化
最終的な税負担は、連邦税・州税・給与税の合計で判断する必要があります。高所得者の場合、パススルー課税で個人税率37%が適用されるより、C-Corpで21%の法人税を支払い、配当を受けない方が有利なケースもあります。
S-Corpは給与部分に給与税がかかりますが、分配金には給与税がかからないため、給与と分配のバランスを適切に設定することで税負担を最適化できます。ただし、IRSの監視も厳しいため、税理士と相談しながら慎重に決定する必要があります。
州によってS-Corpへの課税方式が異なるため、事業を行う州の税制を事前に確認することが重要です。カリフォルニア州のように法人段階で課税する州では、S-Corpのメリットが薄れる可能性があります。
将来の資金調達計画
外部投資を受ける予定がある場合は、C-Corpを選択するのが一般的です。ベンチャーキャピタルや機関投資家の多くは、パススルー課税の法人への投資を避ける傾向があります。また、C-Corpは株式の種類(普通株・優先株)を柔軟に設定でき、投資条件の調整がしやすいというメリットがあります。
一方、家族経営や小規模なオーナー企業で外部投資を予定していない場合は、LLCやS-Corpの方が税務面で有利になります。将来的にC-Corpへの転換も可能ですが、その際には税務上の影響を慎重に評価する必要があります。
まとめ米国法人設立
米国法人の年間維持費は、法人形態と設立州によって大きく異なります。LLCは維持費が比較的低額で税務申告も簡便ですが、州によっては収入に応じた追加費用が発生します。C-Corpは二重課税と高額な維持費が課題ですが、外部投資を受けやすいという利点があります。S-Corpは税負担を軽減できますが、給与支払い義務など独特の制約があります。
デラウェア州は維持費が低く州法人税が非課税となるため人気ですが、実際に事業を行う州では別途税負担が発生します。カリフォルニア州とニューヨーク州は税負担が重く、年間1,000~2,000ドル以上の維持費を見込む必要があります。
法人形態の選択は、事業規模、将来の資金調達計画、オーナーの居住地、実際に事業を行う州などを総合的に考慮して決定すべきです。税理士やCPAなどの専門家に相談しながら、最適な形態を選択することをお勧めします。LLC
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