米国市場は世界最大級の消費市場でありながら、化粧品や食品の輸出には複雑な規制が存在します。特に2022年の化粧品規制現代化法(MoCRA)や2011年の食品安全強化法(FSMA)により、企業に求められる対応が大きく変化しました。本記事では、米国への輸出を検討する企業が理解すべき規制の全体像と、実務で必要となる具体的な手続きを解説します。
米国市場への輸出で知っておくべき主要規制機関
米国で化粧品や食品を販売するには、複数の連邦機関による規制体系を理解することが不可欠です。各機関の管轄が重複する領域もあるため、自社製品がどの規制に該当するかを正確に把握する必要があります。
FDA(食品医薬品局)の役割と管轄範囲
食品医薬品局(FDA)は、連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C Act)に基づき、化粧品と大部分の食品を管轄する中心的な機関です。FDAの役割は製品の安全性確保と適正な表示の監督にあり、違反製品に対しては輸入拒否や販売差止めといった強制措置を講じる権限を持ちます。
化粧品については、FDAは製品の発売前承認を原則として行いませんが、企業には製品の安全性を実証する責任があります。一方、食品に関しては施設登録制度や輸入者による供給業者検証プログラム(FSVP)など、より積極的な事前管理の仕組みが導入されています。
注意が必要なのは、同じ「食品」でも肉類・家禽・卵製品は米国農務省(USDA)の管轄となる点です。このため、製品カテゴリによって準拠すべき規制機関が異なることを理解しておく必要があります。
その他の重要機関:FTC、USDA、CPSC
連邦取引委員会(FTC)は、化粧品や食品を含むあらゆる消費財の広告表示を監督します。FDAが製品そのものやパッケージ表示を規制するのに対し、FTCは広告やマーケティング資料における虚偽・誤認表示を取り締まります。科学的根拠のない効能を謳う広告は、FTC法違反として制裁対象となる可能性があります。
米国農務省(USDA)は、前述の畜産由来食品に加え、有機食品表示の認証プログラム(National Organic Program)も所管しています。「オーガニック」表示を行う場合、FDAではなくUSDAの認証を取得する必要があります。
消費者製品安全委員会(CPSC)は、化粧品や食品そのものではなく、その容器・包装の安全性を規制します。特に毒物防止包装法(PPPA)に基づき、有害物質を含む製品には幼児が開封できないチャイルドレジスタント包装の使用が義務付けられています。化粧品企業は製品の安全性だけでなく、包装の物理的安全性にも配慮が必要です。
化粧品輸出の規制要件
化粧品の米国輸出では、成分規制、表示要件、そして2022年のMoCRA施行による新たな義務への対応が求められます。
表示(ラベリング)の必須項目
米国で販売される化粧品のパッケージには、FD&C法および公正包装表示法(FPLA)に基づく必須表示項目があります。具体的には、製品の表示名称、内容量(ヤード・ポンド法とメートル法の併記)、製造業者・包装業者または販売業者の氏名と所在地、そして全成分リストの表示が義務付けられています。
成分リストは濃度順に、国際化粧品成分命名法(INCI名)で記載する必要があります。日本独自の成分名称を使用することはできません。また、可燃性エアゾール製品には「火気厳禁」の警告、目の周りに使用不可の着色料を含む場合はその旨の注意書きなど、製品特性に応じた警告表示も求められます。
2024年12月以降は、MoCRAの施行により、米国内で連絡可能な責任者の情報(住所・電話番号またはウェブサイト)をラベルに記載することが新たに義務化されました。これは消費者からの苦情や有害事象報告の連絡先を明示する目的です。
禁止・制限成分と安全性基準
米国の化粧品成分規制の基本原則は、「通常の使用方法で消費者に有害となる成分を含む化粧品の販売は禁止」というものです。個別の禁止リストに載っていない物質であっても、有害性が判明すれば「有害な混入(adulterated)」と見なされ、差止め対象となります。
明示的に禁止・制限されている代表的な成分として、水銀化合物(眼部化粧品の微量使用を除き原則禁止)、塩化メチレン(発がん性のため配合禁止)、ビチオノールやハロゲン化サリチルアミド類(重篤な皮膚過敏症のため使用禁止)などがあります。
着色料については特別な規制があり、FDAが用途ごとに事前承認したものに限定されます。また、タール系色素などの合成着色料は、各ロットごとにFDAの認証試験を受けたロット品のみ使用可能です。未認証ロットの使用は違法となるため、色素の調達には十分な注意が必要です。
MoCRAによる新たな義務
2022年に成立した化粧品規制現代化法(MoCRA)は、1938年以来初の本格的な化粧品規制改正です。この法律により、FDAには化粧品の強制回収命令権限や、施設登録・製品届出制度が新たに付与されました。
具体的には、米国内外の全ての化粧品製造施設がFDAへの登録を義務付けられ、初回登録後は2年毎の更新が必要です。外国施設の場合、米国内代理人(U.S. Agent)を指名し、登録システム上で承認を得る必要があります。
また、取り扱う全化粧品について、製品名・カテゴリ・成分リスト等をFDAの新データベース(Cosmetics Direct)に登録する製品リスティング制度も導入されました。2024年末までに既存製品の届出を行い、以後は新製品発売後120日以内の届出が求められます。
さらに、製品により重大な有害事象(入院や死亡など)が発生した場合、責任者はFDAへ15日以内に報告することが義務化されました。従来は自主的報告のみでしたが、新法で法的義務となっています。
製造施設の登録と米国代理人
MoCRAにより、化粧品製造施設の登録が義務化されたことで、未登録の海外製造所で作られた化粧品はFDAにより輸入拒否される可能性が生じました。このため、輸出開始前に必ず施設登録を完了させる必要があります。
外国企業にとって重要なのが、米国内代理人の選任です。U.S. Agentは、FDAとの連絡窓口としての役割を担い、緊急時の対応や書類の受け取りなどを行います。規制対応に明るい現地企業やコンサルタントを代理人として選ぶことが推奨されます。
今後数年以内には、化粧品にも法的強制力を持つGMP(適正製造基準)規則が導入される見込みです。FDAは2024年末までに化粧品GMP規則案を公表し、2025年末までに最終規則を制定することが義務付けられています。企業はこれに備え、製造工程の衛生管理や記録保持体制を整備する必要があります。
食品輸出の規制要件
食品の米国輸出では、化粧品以上に厳格な事前管理と継続的な検証体制が求められます。
FDA施設登録とFSVPの実務
食品を米国に輸出する場合、製造者や加工・保管業者はFDAへの施設登録が必須です。これはFD&C法第415条に基づく要件で、工場の名称・住所、取り扱い食品カテゴリ、緊急連絡先等をオンラインで登録します。国外企業も対象で、米国内代理人の指名が必要です。
施設登録は偶数年ごとに更新が義務付けられており、未更新の場合は登録失効となり、食品の米国輸入が停止されます。このため、更新時期の管理は極めて重要です。
2011年の食品安全強化法(FSMA)により導入された外国供給業者検証プログラム(FSVP)は、米国内の輸入業者に対し、海外製造の食品が米国の安全基準に適合していることを継続的に検証・記録することを義務付ける制度です。
輸入業者は、食品安全計画、トレーサビリティ情報、第三者認証取得証明(FSSC22000やJFS規格など)、試験成績書、製品仕様書、衛生管理記録などの文書を海外サプライヤーに求め、入手・保管する義務があります。日本の輸出企業は、これらの資料を英語で準備し、輸入者に提供できる体制を整える必要があります。
食品表示とアレルゲン表示義務
米国で販売される包装食品は、FDAの食品表示規則(21 CFR Part 101)に従い、英語での表示が必要です。主な必須項目は、品名、原材料名(全成分を重量順に列記)、アレルゲン表示、内容量、栄養成分表示(Nutrition Factsラベル)、製造者・包装業者または販売元の氏名および住所です。
特に重要なのがアレルゲン表示です。2006年施行の食品アレルゲン表示消費者保護法(FALCPA)により、主要アレルゲンを含む場合はラベルにその食品名を明記することが義務化されました。2023年1月からはゴマが9番目の「主要アレルゲン」に追加され、現在は乳、卵、魚介類、甲殻類、落花生、木の実、小麦、大豆、ゴマの9品目が対象です。
通常、原材料名の中でアレルゲン食品をわかりやすく表示するか、”Contains: ___”と別枠で表示します。アレルゲン表示違反は「表示違反(misbranded)」とみなされ、販売差止め等の対象となるため、細心の注意が必要です。
また、米国では食品容器に原産国表示(例:「Product of Japan」)を英語で記載することが税関規則(19 CFR Part 134)で義務付けられています。流通業者によってはバーコード(UPC/GS1コード)の表示を求める場合もあるため、取引先の仕様を事前に確認しておくと安全です。
輸入時の事前通知(Prior Notice)
食品を米国に輸入する際は、出荷ごとにFDAへ事前通知を提出しなければなりません。これは2002年のバイオテロ対策法に基づく措置で、輸送手段や到着予定日時、食品の詳細を事前に電子申告し、FDAから発行されるPNC番号を通関書類に記載します。
事前通知がない食品は米国港湾で停留されるため、この手続きを失念すると大きな損害につながります。通常、フォワーダー(貨物代理店)が代行してPNC取得を行いますが、輸出者側でも手続きの流れを把握しておくことが重要です。
食品貨物が到着すると、FDAはリスクに応じて抜き取り検査(サンプリング)を実施します。検査ではラベル表示・成分・微生物等の順守状況が確認され、不適合が見つかればその場で輸入拒否となり、製品は廃棄または積戻し処分となります。
違反が繰り返されたり深刻な場合、当該企業・製品に対しImport Alert(自動留置)リスト入り措置が取られ、以後同類食品は検査完了まで通関保留となります。これを避けるには、常に製造記録や検査成績書を整備し、輸入者から求められた際に迅速に提出できる体制を整えておくことが肝要です。
食品安全計画の策定
FSMAの中核となるのが、食品安全計画(Food Safety Plan)の策定義務です。HACCPに沿って原料から出荷までの生物・化学・物理的危害分析を行い、重要管理点と管理手段を文書化する必要があります。
食品安全計画は、予防管理有資格者(PCQI)をリーダーとしたチームを設置して作成します。PCQIは専門講座で資格を取得でき、食品安全計画の整備と運用において重要な役割を担います。
この計画書や日々のモニタリング記録は英語で用意し、輸入者やFDA査察官へ提示できるようにしておく必要があります。FDAは必要に応じ海外の食品製造施設に対しても立入査察を行い、HACCPや食品安全計画の実施状況、記録管理体制などを点検します。
輸出前に準備すべき実務対応
理論的な規制理解だけでなく、実務レベルでの準備が輸出成功の鍵となります。
化粧品企業のチェックリスト
まず、自社製品の配合成分について、FDA禁止物質が含まれていないか、使用条件が制限される成分の濃度が基準内かを確認します。特に着色料はFDA承認色素のみを使用し、必要に応じ認証ロットを調達する必要があります。
製品ごとに安全性を裏付ける試験データや文献を用意します。皮膚刺激性・アレルギー試験結果、処方の安全マージン評価、安全性に関する専門家レビューなどをファイル化し、FDAから問合せが来た際や有害事象発生時に提示できるようにしておきます。
米国向け容器・外箱のラベル作成時は、必須表示項目を全て盛り込み、表示内容が誇大または誤解を招かないかチェックします。2024年以降は米国内連絡先の表示を忘れないよう注意が必要です。成分リストはINCI名で正確に記載し、日本独自名称は使用しません。
自社または委託製造施設について、FDAへの化粧品施設登録を行います(初回登録と2年毎の更新)。国外企業の場合はU.S. Agentを選任し、登録システム上で代理人の承認を得ます。また、取り扱う全化粧品について、FDAの新システムへの製品情報届出を期限内に完了させます。
今後導入予定の化粧品GMP規則に備え、原料受入から製造、保管、出荷に至るまでの衛生管理手順書の整備、トレーニングの実施、変更管理や逸脱管理の記録化などを進めることも重要です。可能であればISO22716などの第三者認証を取得し、品質保証体制を高めることも一案です。
食品企業のチェックリスト
輸出する工場・倉庫が未登録であれば、出荷前にFDA食品施設登録をオンラインで行います。登録にはDUNSナンバー等も必要なため早めに取得します。併せて米国内代理人を選任し、登録システム上で承諾してもらう必要があります。以後は偶数年に必ず更新を忘れないよう管理します。
自社製品ごとに食品安全計画を作成します。必要に応じ予防管理有資格者(PCQI)のトレーニングを受け、計画作成チームを組織します。この計画書や日々のモニタリング記録は英語で用意し、輸入者やFDA査察官へ提示できるようにします。
製品レシピを精査し、米国で未承認の添加物や許容できない原料が使われていないか確認します。例えば保存料や着色料が日本で許可でも米国NG例があるため注意が必要です。不明な場合はFDAデータベースや専門機関に問い合わせます。
米国向けパッケージのラベル作成時は、必須表示項目を全て盛り込みます。栄養成分については分析値から算出しFDA指定様式に従って表示します。アレルゲン含有についても忘れず表示し、必要なら「Contains: ___」表記を追加します。完成したラベルは米国の食品法に詳しい専門家にレビューを依頼し、誤記や違反表現がないか確認することが推奨されます。
米国側で自社製品を扱ってくれる輸入業者を早めに確定し、契約上FSVP対応について取り決めます。輸入者に提供すべき書類一覧を確認し(食品安全計画、成分規格書、第三者認証書等)、不足資料があれば準備します。
出荷前に製品ロットごとに自主検査を実施します。例えば細菌検査(一般生菌数、大腸菌群など)や必要に応じてサルモネラ・リステリア検査、農薬残留検査など、製品特性に応じた項目を第三者機関でテストし、検査報告書をファイルしておきます。
出荷が決まったらフォワーダー等を通じ、FDAへのPrior Notice申請を確実に行います。合わせて米国向けの発送書類を整え、温度管理が必要な食品は適切なコールドチェーンを確保します。
まとめ:米国輸出を成功させるために
米国市場への化粧品・食品輸出には、複雑な規制への対応が求められますが、適切な準備を行えば決して不可能なハードルではありません。重要なのは、FDA、FTC、USDA、CPSCなど関係機関の管轄を正確に理解し、自社製品に適用される規制を漏れなく把握することです。
化粧品では、MoCRAによる施設登録・製品リスティング制度への対応が2024年以降の必須事項となっています。食品では、施設登録、FSVP対応、食品安全計画の策定、そして輸入時の事前通知といった一連の手続きを確実に実施する体制づくりが求められます。
いずれの製品カテゴリでも、表示要件の遵守は最も基本的かつ重要な対応事項です。ラベル表示の誤りは輸入拒否や販売差止めに直結するため、専門家によるレビューを経て正確な表示を行うことが不可欠です。
最新の規制動向を継続的にウォッチし、法改正に迅速に対応できる体制を整えることも、長期的な米国ビジネスの成功には欠かせません。FDA公式サイトやジェトロなどの信頼できる情報源を活用し、常にアップデートされた知識を維持することを推奨します。
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