米国EC事業を始める日本企業が知っておくべき税務の基礎知識【2025年版】

米国税制情報

はじめに

米国市場は世界最大級のEC市場規模を誇り、多くの日本企業がAmazonをはじめとするオンラインプラットフォームや自社ECサイトを通じて進出を試みています。しかし、米国の税制は日本とは大きく異なり、連邦税と州税が併存する複雑な構造を持っています。特に2018年のWayfair判決以降、物理的拠点を持たない越境EC事業者にも課税義務が拡大したことで、税務コンプライアンスの重要性はかつてないほど高まっています。

本記事では、米国でEC事業を行う日本法人が最低限押さえておくべき税務知識を、売上税、連邦法人税、州税の3つの観点から解説します。税務の専門家でない方でも理解できるよう、実務に即した形で整理していきます。


米国の売上税(Sales Tax)の基本と日本企業への影響

売上税の仕組みと州ごとの違い

米国の売上税は日本の消費税に相当する間接税ですが、連邦税ではなく各州および地方自治体が独自に課税する点が大きな特徴です。小売事業者が販売時に消費者から税を徴収し、州政府等に納付する義務を負います。

税率は州ごとに異なり、カリフォルニア州では州税率7.25%(地方税別)、ニューヨーク州では4%(同)といった具合です。一方で、ニューハンプシャー、オレゴン、モンタナ、アラスカ、デラウェアの5州(通称「NOMAD州」)には州レベルの売上税が存在しません。ただし、これらの州でも地方消費税や特定商品への課税が行われる場合があるため、完全非課税とは限りません。

EC事業者にとって重要なのは、販売先の州ごとに異なる税率と課税ルールを正確に把握し、適切に徴収・申告する体制を整えることです。

経済的ネクサスとは?Wayfair判決後の変化

かつて米国では、州内に店舗や倉庫などの物理的拠点(Physical Nexus)がなければ、その州での売上税徴収義務は生じないとされていました。しかし2018年のサウスダコタ州対Wayfair事件の連邦最高裁判決により、この原則が大きく変わります。

判決後、全ての課税州が「経済的ネクサス(Economic Nexus)」という新基準を導入しました。これは、州内での年間売上高や取引件数が一定水準を超えた場合、物理的拠点の有無にかかわらず売上税の徴収・納付義務が生じる仕組みです。

一般的な基準は、年間売上高10万ドル以上または200件以上の取引ですが、州によって詳細は異なります。例えばカリフォルニア州とニューヨーク州は年間売上高50万ドル超を基準とし、取引件数要件を撤廃しています。テキサス州やフロリダ州も独自の閾値を設定しており、事業者は販売先の各州基準を個別に確認する必要があります。

重要なポイントは、いずれの州も10万ドル未満の売上では経済的ネクサスを課していない点です。小規模な州別売上しかない事業者は、その州での課税対象とはなりません。しかし事業が成長し、複数州で閾値を超えるようになると、それぞれの州で売上税の登録・申告が必要になるため、早期の体制整備が求められます。

マーケットプレイス・ファシリテーター規則の活用

Amazonや楽天など大規模オンラインマーケットプレイスで販売する場合、売上税の取り扱いはさらにシンプルになります。2018年以降、売上税を課す全ての州で「マーケットプレイス・ファシリテーター」法が施行されました。

この法律により、プラットフォーム事業者は第三者出品者の商品販売に対しても、代理で売上税を徴収・納付する義務を負います。つまり、日本法人がAmazonマーケットプレイスで商品を販売する場合、原則としてAmazon側が各州の売上税を処理してくれるため、出品者自身が個別に州登録や申告を行う必要はありません。

ただし、自社ECサイトで直接販売する場合や、プラットフォーム利用料など自社が直接課金するサービスがある場合は、別途対応が必要です。マーケットプレイス事業者から発行される売上税レポートを適切に管理し、自社での申告対象取引と明確に区分することが重要になります。

売上税のコンプライアンス管理には、TaxJarやAvalaraなどの専門ソフトウェアの活用も検討すべきでしょう。これらのツールは州ごとの税率自動計算、申告書作成、納付管理などを効率化してくれます。


連邦法人税の基本構造と日本法人の課税要件

米国法人税の税率と課税対象

米国の連邦法人税は、内国歳入庁(IRS)が管轄する全米統一の税制です。2018年の税制改革以降、税率は一律21%のフラットレートとなっています。課税所得は「収益-費用」で算出される企業の純利益ベースで、日本の法人税と基本的な考え方は似ています。

米国法人(現地法人)は全世界所得に課税されますが、日本法人のような外国法人は米国内源泉の所得のみが課税対象です。では、日本企業が米国でEC販売を行った場合、どのような条件で米国の法人税義務が生じるのでしょうか。

米国税法では、外国法人が「米国で事業を行っている(engaged in a U.S. trade or business)」場合に、その事業から生じる米国源泉所得に法人税を課すと定めています。判断基準は、米国内での活動の継続性・定常性や、米国内拠点の有無などを総合的に見ることになります。

単に米国企業や顧客と取引(商品を輸出する等)しているだけでは、米国内で事業を行っているとはみなされません。しかし、米国内に営業所やスタッフを置いて販売活動を行っている場合は、その利益部分に米国法人税が課税される可能性があります。

恒久的施設(PE)と日米租税条約

実務上さらに重要なのが、日米租税条約の存在です。日米間には1971年に締結された租税条約があり、外国法人への課税について国内法より有利な取り扱いを定めています。

条約上、日本企業の事業所得については、米国内に「恒久的施設(Permanent Establishment; PE)」がなければ米国で課税しないと規定されています。恒久的施設とは、事業を行うための固定された拠点のことで、典型例は支店、事務所、工場、店舗などの物理的施設です。

つまり、日本法人が米国にPEを有しない限り、その法人の事業利益に対して米国は法人税を課すことができません。逆に言えば、日本法人が米国内に支店や倉庫などの恒久的施設を開設して商品の販売や保管を行っている場合、その施設に帰属する利益については米国で法人税課税の対象となります。

実務的には、日本から米国顧客へインターネット販売で商品を直送しているだけであれば、通常PEは存在せず米国での法人税申告義務は生じません。また、単なる倉庫のみの場合も補助的活動に該当すればPEとみなされないケースがあります。

しかし、米国内に販売子会社ではなく自社の支店を置いていたり、米国内の倉庫を自社運営して商品在庫を管理しているような場合は、PE認定される可能性が高くなります。その場合は米国課税所得を算出し、連邦法人税21%を申告納付する必要があります。

総じて、日本法人が米国でネット販売を行う場合、米国内に人員や施設を持たずに行う限り、原則として米国の法人税は発生せず、課税関係は日本(本社所在地国)のみとなります。一方、事業拡大に伴い米国に物流拠点を置いたり駐在員を派遣して営業活動を行うようになると、PE認定・課税リスクが生じる点には十分な注意が必要です。


州法人税・事業税の多様性と対応策

州ごとに異なる課税方式

米国では連邦法人税とは別に、各州が独自の法人課税を行っています。州税は州法に基づくため、税率や課税ベース、税の種類が州ごとに大きく異なります。

主な州の法人課税には以下のような類型があります。

法人所得税(州法人税): 約44州とワシントンD.C.で導入されており、州内で発生した法人の純利益に課税します。税率は州により異なり、概ね5~10%前後です。例えばカリフォルニア州は8.84%、ニューヨーク州は7.25%、北カロライナ州は2.5%と幅があります。

グロスレシート税(総収入税): 一部州では法人所得税の代わりに、売上高などの総収入に対して課税します。利益の有無に関わらず課税される点が特徴です。ワシントン州の営業税(B&O税)は業種別に0.48~1.5%、オハイオ州の商業活動税(CAT)は0.26%を課税します。

フランチャイズ税・事業税: テキサス州のように法人所得税がなく、売上高から一部費用を控除した課税所得(マージン)に約0.75%課税するフランチャイズ税を導入している州もあります。

法人税なし: サウスダコタ州やワイオミング州など、法人所得に対する州税を全く課さない州も存在します。

州税の課税義務が生じるかは、連邦税の場合と同様に各州でのネクサス(課税上のつながり)の有無によって決まります。従来は州内に事業所や従業員・資産が存在する「物理的ネクサス」が重視されていましたが、近年多くの州で経済的ネクサス基準が導入されています。

例えばカリフォルニア州では年間売上高が約70万ドル(2023年基準)を超えると、州内で事業を行ったと見なされ州法人税の申告義務が生じます。ニューヨーク州も2020年以降、州内売上高が100万ドルを超える法人に経済的ネクサスを認めています。

Public Law 86-272による保護

ただし、物品販売を行う企業に特有の重要な連邦法規定として、Public Law 86-272(公共法86-272号)があります。これは1959年に制定された連邦法で、州際通商の保護を目的としています。

この法律により、州外企業が「有形個人財(tangible personal property)」の販売のための勧誘(solicitation)のみを当該州内で行う場合、当該州はその企業に対し純所得に基づく課税(法人所得税)をしてはならないと定められています。

つまり、日本法人が米国内に工場や支店を持たず、日本から商品の発送を行ったり、米国内でも倉庫業者(例えばAmazonのフルフィルメント倉庫)に委託しているだけで、自社では州内で勧誘以上の行為を行っていない場合、特定州への売上高が経済ネクサス基準を超えていたとしても、その州の法人所得税についてはPublic Law 86-272により免除される可能性が高いのです。

実際、ニューヨーク州税務当局も「経済ネクサス基準に該当する売上高があってもPublic Law 86-272により課税が免除される企業は州法人税の申告義務はない」との公式見解を示しています。

ただし注意すべき点もあります。Public Law 86-272は有形商品販売に限定された保護であり、サービスやデジタル商品の提供には適用されません。また、商品販売であっても州内に在庫を保管した時点で単なる勧誘以上の活動とみなされ、保護対象外となります。

例えば日本法人が米国内のAmazon FBA倉庫に在庫を置き販売する場合、当該州で物理的プレゼンスがあるとしてPublic Law 86-272適用外となる可能性が高いため、慎重な判断が必要です。


まとめ:日本企業が米国EC事業で押さえるべきポイント

米国でEC事業を展開する日本法人が理解すべき税務のポイントをまとめます。

売上税について: 2018年のWayfair判決以降、物理的拠点がなくても経済的ネクサス基準(多くは年間売上高10万ドル以上)を超えれば売上税の徴収・納付義務が生じます。ただしAmazonなどのマーケットプレイスを利用する場合、プラットフォーム側が代行徴収するため、出品者の負担は軽減されます。自社ECサイトで販売する場合は、各州での登録・申告が必要になる点に注意してください。

連邦法人税について: 日本法人が米国内に恒久的施設(PE)を持たない限り、日米租税条約により米国での法人税課税は原則として生じません。日本から商品を直送する形態や、倉庫業者への委託のみであれば、通常はPE認定されず米国での申告義務はありません。

州法人税について: 州ごとに課税方式が異なりますが、有形商品の販売のみを行う場合はPublic Law 86-272により州法人所得税が免除される可能性があります。ただし州内に在庫を保管するなど物理的プレゼンスがある場合は適用外となるため、事業形態に応じた慎重な判断が求められます。

米国の税制は連邦と州が併存し、かつ州ごとに大きく異なるため、自社のビジネスモデルがどの課税要件に該当するかを正確に把握することが重要です。事業規模の拡大に伴い課税義務が発生するケースも多いため、定期的なモニタリングと専門家への相談をお勧めします。

税務コンプライアンスを適切に管理することで、安心して米国市場での事業展開を進めることができるでしょう。

https://youtu.be/Rzv8k7FdCVY

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