米国市場への進出や越境ECビジネスを展開する際、避けて通れないのがSales Tax(売上税)の登録義務です。日本の消費税とは異なり、米国では州ごとに独自の売上税制度が存在し、事業者は複数の州で登録・納税義務を負う可能性があります。
2018年の米国最高裁South Dakota v. Wayfair判決以降、州外の事業者に対しても売上規模に基づいた課税が可能となり、現在では売上税を課す全45州およびワシントンD.C.が経済的ネクサス基準を導入しています。Amazon FBAを利用する場合や、一定額以上の売上がある場合、知らないうちに登録義務が発生していることも少なくありません。
本記事では、物理的ネクサスと経済的ネクサスの違い、州ごとの基準、マーケットプレイス事業者法の影響、実際の登録手続きまで、2025年最新情報に基づいて包括的に解説します。
米国Sales Taxの基本:物理的ネクサスと経済的ネクサス
物理的ネクサス(Physical Nexus)とは
物理的ネクサスとは、州内における実店舗、オフィス、従業員、倉庫、在庫などの物理的な事業拠点や財産の存在を指します。これは古くから各州で売上税義務を生じさせる伝統的な要件であり、売上高に関係なく即座にネクサス(課税関係)が発生します。
特に注意が必要なのは、Amazon FBA(Fulfillment by Amazon)の利用です。FBA倉庫に商品在庫を置くことは、その州に物理的プレゼンスを持つことになり、売上規模に関わらず即座に登録義務が発生します。Amazonは在庫を複数州の倉庫に分散配置するため、事業者は複数州での登録が必要になる可能性があります。
経済的ネクサス(Economic Nexus)とは
経済的ネクサスは、州外販売者(リモートセラー)の売上規模が一定基準を超える場合に、当該州で売上税の徴収・納税義務が生じる仕組みです。2018年のWayfair判決により全米で導入が進み、現在では売上税を課す全ての州が経済的ネクサス基準を採用しています。
多くの州では「年間10万ドル超の売上」を閾値としていますが、州によって基準は異なります。カリフォルニア州は50万ドル超、テキサス州も50万ドル超、アラバマ州やミシシッピ州は25万ドル超と、比較的高い基準を設定している州もあります。
取引件数要件の段階的廃止
当初多くの州が導入していた「200件超の取引」という要件は、段階的に撤廃される傾向にあります。サウスダコタ州は2023年に取引件数要件を撤廃し、インディアナ州、ノースカロライナ州、ウィスコンシン州なども2024年前後に件数要件を削除しました。現在では売上高基準のみを適用する州が増えており、より明確な基準となっています。
経済的ネクサスの基準:州ごとの違い
主な基準パターン
経済的ネクサスの基準は、大きく以下のパターンに分類できます:
パターン1:年間10万ドル超のみ 最も一般的なパターンで、アリゾナ州、コロラド州、フロリダ州、アイダホ州など多数の州が採用しています。取引件数要件がないため、判定が単純明快です。
パターン2:年間10万ドル超または200件超 コネチカット州、ジョージア州、ハワイ州、イリノイ州、ケンタッキー州など、依然として取引件数要件を併用している州もあります。ただし、イリノイ州は2026年より件数要件を廃止予定です。
パターン3:高額基準 カリフォルニア州(50万ドル超)、テキサス州(50万ドル超)、アラバマ州(25万ドル超)、ミシシッピ州(25万ドル超)など、より高い閾値を設定している州もあります。
パターン4:特殊基準 ニューヨーク州は「年間売上高50万ドル超かつ100件超の取引」という両方の条件を満たす必要があります。
売上高の計算方法
多くの州で、経済的ネクサスの判定に用いる売上高は「前年または現年の総売上」となっています。課税売上のみならず、非課税売上も含めた総売上(gross sales)ベースで計算する州が多い点に注意が必要です。
判定のタイミングも州によって異なります。多くの州では「前年または現年のいずれかで基準超過」すれば義務が発生しますが、ニューヨーク州のように「直近4四半期」を基準とする州もあります。
マーケットプレイス売上の扱い
マーケットプレイス経由の売上を閾値算定にどう扱うかも州によって異なります:
- 閾値から除外:アラバマ州、アリゾナ州、アーカンソー州、コロラド州、フロリダ州など多数の州では、マーケットプレイス事業者が税を徴収する売上は個別販売者の閾値算定から除外されます。
- 閾値に含む:カリフォルニア州(ただしMP上のみの販売なら登録免除)、コネチカット州、ハワイ州、アイダホ州、ミズーリ州、ネブラスカ州などでは、マーケットプレイス売上も閾値算定に含まれます。
この違いは実務上重要です。閾値から除外される州では、Amazon等のマーケットプレイス経由売上が多い事業者は登録義務を回避できる可能性があります。
マーケットプレイス事業者法の影響
マーケットプレイス・ファシリテーター法とは
2025年現在、売上税を課す全ての州でマーケットプレイス事業者(AmazonやeBayなど)に対し、プラットフォーム上の売上税徴収・納付を義務付けるマーケットプレイス・ファシリテーター法が施行されています。
この法律により、マーケットプレイス事業者が第三者販売者の代わりに売上税を徴収・納付するため、販売者側の負担は大幅に軽減されました。
登録義務が免除されるケース
マーケットプレイス経由のみで販売する州外事業者については、当該州で他に物理的・経済的プレゼンスがなければ、自ら売上税登録や申告を行う必要が免除される場合が多くなっています。
例えば、カリフォルニア州では州外販売者が登録済みマーケットプレイス上のみで販売する場合、原則として売上税許可証の登録や申告義務を課していません。ウィスコンシン州も、全売上がマーケットプレイス経由の場合は販売者登録不要としています。
直接販売との併用時の注意点
ただし、以下のケースでは登録・納税義務が生じます:
- 自社サイト等を通じた直接販売がある場合
- FBA在庫保管など物理的プレゼンスがある場合
- 経済的ネクサス基準を超える直接販売がある場合
マーケットプレイスでの販売があろうとなかろうと、物理的ネクサスや経済的ネクサスの要件を満たせば登録義務が発生します。販売形態ごとの義務を正確に把握することが重要です。
Sales Tax登録手続きの実務
オンライン登録の流れ
ほぼ全ての州でオンライン登録が可能であり、これが最も迅速で推奨される方法です。各州の税務当局(通常「州税務局」「歳入局」など)のウェブサイトから、販売者許可証(Sales Tax Permit / License)の取得申請を行います。
オンライン申請の場合、多くの州で即時または数営業日以内に登録番号(許可証番号)が発行されます。郵送申請も認められる場合がありますが、2~4週間程度と時間を要します。
必要書類と費用
登録申請には一般的に以下の情報が必要です:
- 連邦納税者番号(EIN)
- 事業者情報(会社名、所在地、連絡先など)
- 事業内容・販売する商品の詳細
- 予想売上高
- 事業所有者の個人情報(場合によっては各オーナーの情報)
登録料は州により異なります:
- 無料:多数の州(アラバマ州、カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、アイダホ州など)
- 低額:アリゾナ州($12)、ハワイ州($20)、インディアナ州($25)
- 中額:オクラホマ州($20+手数料)、サウスカロライナ州($50)、ワイオミング州($60)
- 高額:コネチカット州($100)
一部の州では保証金の提出を求められる場合があります。コロラド州では$50の前払預託金(初回納税後に返還)、ネバダ州やテキサス州では状況に応じて保証金要求の可能性があります。
登録にかかる期間
- オンライン登録(即時発行):多くの州で申請と同時または数時間以内に許可証番号が発行されます
- オンライン登録(審査あり):1~3営業日程度
- 郵送申請:2~4週間程度
ニューヨーク州は事業開始の少なくとも20日前までに登録する法的義務があるため、計画的な申請が必要です。
更新要件がある州
多くの州では販売者許可証に有効期限がなく、事業継続中は無期限有効ですが、一部の州では更新要件があります:
- 毎年更新:アラバマ州(毎年12月)、イリノイ州(自動更新)
- 2年ごと更新:コロラド州(奇数年末)、コネチカット州(自動更新)、インディアナ州(自動更新)、ウィスコンシン州($10の更新料)
- 3年ごと更新:オクラホマ州
- 5年ごと更新:ペンシルベニア州
更新を怠ると許可証が失効し、売上税の徴収ができなくなるため注意が必要です。
売上税がない州の扱い
5つの免税州
以下の5州には州レベルの一般売上税が存在せず、Sales Tax登録義務はありません:
- デラウェア州(Delaware)
- モンタナ州(Montana)
- ニューハンプシャー州(New Hampshire)
- オレゴン州(Oregon)
- アラスカ州(Alaska):州税はないが地方税に注意
これらの州では州税局への登録は不要ですが、事業ライセンスなど別の要件がある場合があります。
アラスカ州の地方税について
アラスカ州は特殊なケースです。州レベルの売上税はありませんが、約40の自治体が加盟する「Remote Seller Sales Tax Code」により、これら自治体への年間10万ドル超の通信販売で地方税のネクサスが発生します。
該当する場合は**ARSSTC(アラスカ遠隔販売税委員会)**にオンライン登録が必要です(登録無料)。2025年より閾値判定に取引件数要件はなくなり、売上高基準のみとなりました。
州別Sales Tax登録義務:主要州の詳細
カリフォルニア州
- 経済的ネクサス基準:年間売上高50万ドル超(取引件数要件なし)
- 特徴:他州より高い閾値。前年または現年の売上が基準超過で即時ネクサス発生
- マーケットプレイス:MP売上も閾値算定対象だが、州外販売者がMP上のみで販売する場合は登録免除
- 登録:オンライン登録可(CDTFAオンラインサービス)、無料、必要に応じ保証金要求あり
- 特記事項:人口・経済規模が最大の州であり、優先的に対応すべき
テキサス州
- 経済的ネクサス基準:直近12か月で50万ドル超の総売上
- 特徴:閾値超過の4か月後より徴収開始と猶予期間あり
- マーケットプレイス:MP売上は閾値算定に含む
- 登録:オンライン登録可(Comptrollerサイト)、無料、状況により保証金要求あり
- 特記事項:総売上(課税・非課税・MP含む)ベースで判定
ニューヨーク州
- 経済的ネクサス基準:年間売上高50万ドル超かつ100件超の取引(両方必要)
- 特徴:直近4四半期で判定。閾値超過後30日以内に登録し20日後から徴収開始
- マーケットプレイス:MP売上は閾値算定に含む
- 登録:オンライン登録可(NY州税務局Online Services)、無料
- 特記事項:事業開始の少なくとも20日前までに登録必要
フロリダ州
- 経済的ネクサス基準:前暦年の課税売上高10万ドル超
- 特徴:2021年導入と比較的新しい。前年の売上で翌年から義務発生
- マーケットプレイス:MP売上は閾値算定から除外
- 登録:オンライン登録必須(Florida DOR)、無料
- 特記事項:リモートセラーはオンライン登録のみ
オハイオ州
- 経済的ネクサス基準:年間売上高10万ドル超または200件超の取引
- 特徴:FBA在庫保管で物理的ネクサス発生。閾値超過翌日から徴収義務
- マーケットプレイス:MP売上は閾値算定に含む
- 登録:オンライン登録可(Ohio Business Gateway)、州外リモートセラーは無料(州内事業者は2025年4月より$50)
- 特記事項:SST加盟州
Streamlined Sales Tax(SST)一括登録システム
SST加盟州(現在24州)では、SSTの提供する一括登録システム(SSTRS)を利用して複数州の売上税許可証をまとめて取得できます。
SST加盟州の例: ジョージア州、インディアナ州、アイオワ州、カンザス州、ケンタッキー州、ミシガン州、ミネソタ州、ネブラスカ州、ネバダ州、ニュージャージー州、ノースカロライナ州、ノースダコタ州、オハイオ州、オクラホマ州、ロードアイランド州、サウスダコタ州、テネシー州、ユタ州、バーモント州、ワシントン州、ウィスコンシン州など
ただし、カリフォルニア、テキサス、ニューヨーク、フロリダなど大州の多くはSST未加盟のため、これらの州は個別対応が必要です。
まとめ:米国Sales Tax対策のポイント
米国でのビジネス展開において、Sales Tax登録義務の理解と適切な対応は不可欠です。本記事で解説した内容を踏まえ、以下のポイントを押さえておきましょう:
1. 物理的プレゼンスを常に把握する FBA利用、現地オフィス、倉庫などがあれば即座に登録義務が発生します。売上規模に関わらず、物理的ネクサスは最優先で確認すべき事項です。
2. 経済的ネクサス基準は州ごとに確認 多くの州で年間10万ドル超が基準ですが、カリフォルニア州やテキサス州のように50万ドル超、アラバマ州のように25万ドル超など、州によって異なります。進出予定の州の基準を個別に確認しましょう。
3. マーケットプレイス法を活用する Amazon等のマーケットプレイスのみで販売し、物理的プレゼンスがなければ、多くの州で登録義務を回避できる可能性があります。ただし、直接販売との併用時は注意が必要です。
4. オンライン登録を積極的に利用 ほぼ全州でオンライン登録が可能で、即時~数日で許可証が発行されます。郵送よりも迅速で効率的です。
5. 更新要件を忘れずに アラバマ州、コロラド州、ペンシルベニア州など、定期的な更新が必要な州もあります。カレンダーに記録し、期限管理を徹底しましょう。
6. 専門家への相談を検討 税務は複雑で、州ごとの細かな違いもあります。特に複数州での事業展開を予定している場合は、米国税務に詳しい会計士や税理士への相談も有効です。
2025年現在、米国の売上税制度は経済的ネクサスとマーケットプレイス法により一定の整理が進みましたが、州ごとの違いは依然として存在します。本記事を参考に、自社の事業形態に応じた適切な対応を進めてください。
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