はじめに:米国で家を持つなら「固定資産税」の理解が欠かせない
米国の住宅コストを考えるとき、見落とされやすいのが毎年かかる固定資産税(property tax)です。米国では州や郡、学区ごとに税率も評価の仕組みも異なるため、同じ価格の家でも所在地や購入時期によって年間の税額が大きく変わります。
本記事では、州・郡別の税率格差、主要州の評価制度の違い、住宅所有者の家計や住み替えへの影響、そして負担を抑えるための軽減策と手続きを順に解説します。

米国の固定資産税は「実効税率」で比べるのが基本
米国の住宅には、郡(county)、市(city)、学区(school district)、特別区(special district)など複数の課税主体が重ねて課税します。そのため「州の税率」を一つの数字で示しても、実際の請求額とは一致しません。
そこで州や郡を横断して比べる際によく使われるのが実効税率です。Tax Foundationは、米国勢調査(ACS)の持家世帯データから「実際に支払った不動産税 ÷ 住宅価値」で実効税率を算出しています。法定の税率(millage rate)ではなく、控除や評価上限を反映した「実際の負担感」を示す指標だと理解するとよいでしょう。
ただし、この平均には控除や評価上限の恩恵を受けている長期所有者も含まれます。これから家を購入する人の税額は、平均値と異なる可能性がある点に注意が必要です。
州別・郡別に見る固定資産税率の格差
固定資産税が高い州・低い州
Tax Foundation 2026年版(2024年データ)によると、持家の実効税率が最も高いのはニュージャージー州とイリノイ州で、いずれも1.88%です。これに対し最も低いハワイ州は0.29%で、州平均だけでも約6.5倍の開きがあります。
| 区分 | 州 | 実効税率 |
|---|---|---|
| 高い州 | ニュージャージー / イリノイ | 1.88% |
| 高い州 | コネチカット | 1.54% |
| 高い州 | テキサス | 1.40% |
| 中位 | メリーランド | 0.92% |
| 低い州 | フロリダ | 0.78% |
| 低い州 | カリフォルニア | 0.70% |
| 最も低い州 | ハワイ | 0.29% |
2021年から2024年にかけて多くの州で実効税率は低下していますが、これは税率引き下げだけでなく、住宅価格の上昇が税額の伸びを上回った影響も含まれる可能性があります。
同じ州内でも郡によって大きく違う
州内の差も無視できません。ニュージャージー州では、Camden郡が2.47%、Essex郡が2.10%、Hudson郡が1.56%と、同じ州の中でも大きな差があります。住宅選びでは、州の平均よりも郡や学区単位の税率を確認することが重要です。
主要州の評価制度の違い:税率より「課税ベース」がカギ
税額は「課税評価額 × 税率」で決まるため、評価の仕組みは税率と同じくらい重要です。
| 州 | 評価の基本 | 課税評価額を抑える仕組み |
|---|---|---|
| カリフォルニア | 原則として取得価額 | Prop 13により年間の上昇はインフレ率か2%の低い方、基本税率1% |
| テキサス | 市場価値 | 自宅(homestead)の評価額上昇は原則年10%まで |
| フロリダ | 市場価値(Just Value) | Homestead控除とSave Our Homesによる評価上限 |
| メリーランド | 公正市場価値を3年ごとに再評価 | 上昇分を3年で段階反映、Homestead Tax Credit |
| ニュージャージー | 真の価値(true value) | 高齢者向けSenior Freeze、Stay NJなど |
特にカリフォルニアでは、売買時に課税評価額が購入価格へリセットされます。そのため、長く住む所有者と新しく購入した人とで、同じ価値の家でも税額が大きく異なることがあります。
100万ドル住宅の固定資産税はいくら?主要都市で比較
所在郡の実効税率を市場価値100万ドルの住宅に当てはめると、年間の税額の目安は次のようになります。
| 都市 | 郡の実効税率 | 年税額の目安 |
|---|---|---|
| Camden, NJ | 2.47% | 約24,700ドル |
| Newark, NJ | 2.10% | 約21,000ドル |
| Houston, TX | 1.50% | 約15,000ドル |
| Austin, TX | 1.31% | 約13,100ドル |
| Miami, FL | 0.81% | 約8,100ドル |
| Los Angeles, CA | 0.67% | 約6,700ドル |
| Honolulu, HI | 0.31% | 約3,100ドル |
CamdenとHonoluluでは年間で約2万ドル以上の差が出ます。ただし、これは郡平均から作った比較の目安で、特定の住所の請求額ではありません。カリフォルニアの新規購入者は、既存所有者の平均より負担が高くなる可能性があります。
なぜ州によって固定資産税に差が出るのか
地方財政が固定資産税に依存している
固定資産税は地方政府にとって中心的な財源で、Tax Foundationによれば2023会計年度に地方税収の70.0%を占めました。地方所得税や地方売上税が認められているかどうかは州で異なるため、固定資産税に頼る度合いにも差が生まれます。
公立学校の財源を担っている
国勢調査局の2024会計年度統計では、公立の初等中等教育の財源のうち43.2%が地方財源で、その63.3%を固定資産税が占めています。固定資産税の高さは、学校や警察・消防などの公共サービスをどの税で賄うかという制度の違いを反映していると考えられます。
固定資産税が住宅所有者に与える影響
所得に対して重くなりやすい
固定資産税は所得ではなく住宅価値に連動するため、「資産はあるが現金収入が少ない」世帯に重くなりやすい傾向があります。ITEPの分析では、固定資産税の負担は所得比で見ると低所得層ほど重い、逆進的な傾向があるとされています。
特に固定収入の高齢者が高額住宅を保有している場合、税額が収入の大きな割合を占める可能性があり、年齢や所得に応じた支援制度の役割が大きくなります。
住み替えを妨げる「ロックイン効果」
カリフォルニアのような取得価額方式では、引っ越すと低い課税評価額を失うため、住み替えをためらう「ロックイン効果」が生じ得ます。NBERの研究(Wasi & White)は、Prop 13導入後にカリフォルニアの居住期間が長くなったことを報告しています。これを和らげる制度として、一定の高齢者や障害者などが課税ベースを新居へ移せるProp 19があります。
固定資産税を軽減する方法と手続き
ホームステッド控除と評価上限
多くの州で、自宅として住む住宅には控除があります。テキサスでは学区税について14万ドルのhomestead控除(65歳以上・障害者は追加6万ドル)、フロリダでは最大5万ドルのhomestead控除があります。カリフォルニアでは課税評価額から7,000ドルを差し引くHomeowners’ Exemptionがあります。いずれも申請が必要な場合が多いため、購入後は早めに手続きを確認しましょう。
高齢者・所得連動の支援制度
ニュージャージーのSenior Freezeは、対象となる高齢者などの税額増加分を払い戻す制度です。メリーランドには所得に応じて税額を軽減するHomeowners’ Property Tax Creditがあります。制度の条件や支給額は年度ごとに変わることがあるため、最新情報の確認が欠かせません。
評価異議申立てと納付猶予
評価額が市場価値より高いと感じたら、異議申立てが有効な手段です。期限は州によって異なり、たとえばメリーランドは評価通知から45日以内、フロリダはValue Adjustment Boardへの申立てが通知後25日以内とされています。近隣の売買事例や物件データの誤りを根拠として示すのが基本です。
また、テキサスでは65歳以上や障害者などが税の納付を繰り延べる制度(利息は年5%)や4回分割払いを利用できます。なお、異議申立て中でも納付義務がすべて止まるとは限らないため注意しましょう。
まとめ:固定資産税は「州平均」ではなく個別条件で判断を
米国の固定資産税は、州平均だけでは実態をつかめません。郡や学区による税率差、評価制度の違い、控除や評価上限の有無によって、同じ価格の家でも負担は大きく変わります。住宅購入を検討する際は、購入直後の課税評価額、将来の評価上限、利用できる控除、住み替え時に優遇を引き継げるか、異議申立てや納付猶予の権利まで含めて確認することが大切です。
今後は、評価上限が世代間や地域間の公平性に与える影響、固定資産税と住宅価格の関係、学校財源の州負担を高めた場合の効果などを掘り下げることで、米国の住宅税制の全体像がより明確になると考えられます。